準備と支援物資
フォレスティアの南街と呼ばれている『金の鶏亭』のある花街よりも南は職人街がある。
今日はそこにある古着屋に来た。
「おじちゃん、この山ひとつでいくら?」
「うん? 坊ちゃん、それを全部ですかい?」
「うん、ウィルッチが襲われたの知ってるでしょ?」
「へい、あぁ、それで村の奴らにあげるんですかい?」
店主が微笑むので「うん、そう」と俺はうなずく。
「そうですかい。じゃあ、銀貨2枚でいいですよ」
「本当に良いの? 結構あるし、掘り出し物もあるんじゃない?」
「いや、うちが扱っているものは職人街の奴らの服ですからね。どれも1つで鉄貨1枚、ざっと見積もったところでその山は300枚ぐらいでしょうから銀貨3枚ってところですよ」
「じゃあ、おじさんが損するじゃん」
「坊ちゃんはうわさの石火のラピスでしょ? ウィルッチの村の奴らを救って支援金まで出していると言うじゃないですか? 俺もなんかしないとね」
おいおい、おやっさん、あんた男前か?
「じゃあさ、隣の山とふた山で銀貨5枚でいい?」
「良いんですかい? それだとひと山銀貨2枚と銅貨5枚になりますぜ」
「うん、おじちゃんの心意気に惚れたから」
「そうですかい」
店主が笑い、交渉は成立となった。
ということで、そのふた山は後日、冒険者ギルドの職員の人に取りに来てもらうことにして取っておいてもらった。
「おじちゃん、先に何枚か、もらってて良い?」
「あぁ、もちろん。持っていってくだせぇ」
「ありがとう」
僕はその山から汚れた黒い子供服を取り出す。もちろんこれを変装に使うので、それをリュックに詰めた。
同じ要領で職人街の古道具屋などで、靴や小物なども買い。安い革で出来た子供用の胴当てや籠手に革靴、それからバンダナとぼろぼろのフード付きの外套も手に入れた。
これで変装の準備もできた。
あとはエルフを狩る者たちが動き出してからだよね?
また散財したので、午後からは冒険者ギルドに先程の買い物の回収と運搬を頼みに行くついでにクエストをこなしておいた方が良いかもね。
なにせ来年の3月までに金貨800枚だから稼げる時に稼いでおいた方が良い。
そして、一旦『金の鶏亭』に戻り、ランチはピエルとあの店に行った。
これも散財かもしれないが、ミゲルに心配かけたし、ピエルに返しておこう。
午後から冒険者ギルドに行くとエルフを狩る者たちは相変わらず、酒場で酒を飲みながら騒いでいる。
俺はカウンターにキテオを見つけたので、キテオのところまで行った。
「キテオさん、あの人たちいつまであそこにいるつもりなの?」
「あぁ、下っ端の斥候とうちの比較的高ランクの冒険者たちに先に調べさせてから、本隊であるやつらが動き出すらしい」
なっ? マジで?
俺は焦りを顔に出さないように頑張った。
「それでラピスはクエストか?」
「うん、それもなんだけど、キテオさんに相談があって……」
職人街の古着屋や古道具屋の話をして、俺が買った物を取りに行ってウィルッチに運んでもらえないか相談した。
「あぁ、それはかまわない。というかそんなことまでラピスにしてもらって悪いな」
「そんなことないよ。それでさ、ウィルッチまでの運び賃は僕が出すから冒険者にクエスト出してくれる?」
「いや、それはギルドから出す。というか、領主様に相談すれば領主様が出してくれるだろうからお前は心配するな」
「わかった。じゃあ、それはお願いね」
俺がうなずくとキテオは「それでな」と苦笑いを浮かべる。
「ウルフの群れの討伐クエストがあってな」
「へぇ、ウルフが王国に出るなんて珍しいね」
「あぁ、王国内各地で魔物が活性化していてな。数ヶ月前からフォレスティア周辺でも群れの規模が大きかったり、普段でない魔物や上位の種が出るようになっていたんだ」
やっぱり北のラインの南下は思ったより深刻みたいだね。
「大丈夫なの?」
「あぁ、冒険者には普段よりもパーティーの人数を増やして行動するように言ってあるし、商会の方も屈強な傭兵たちが護衛にしているし、うちからも応援に行っているからしばらくは大丈夫だろうな」
「それでもしばらくなんだ」
「あぁ、だからラピスには働いてもらわないと困る」
キテオがそう言いながらウルフ討伐の書類をカウンターに置くので俺は「そうなんだ」と言いながらそれに目を通す。
「あぁ、ラピスなら今から行ってもサクッと終わらせられると思うのだが」
ウルフの群れの討伐で規模は5匹程度、上位のレッドウルフが1匹が確認されている。ウルフは1匹金貨3枚、レッドウルフが金貨7枚。巣の発見と壊滅で金貨5枚か……。
素材の買い取りも入れたら稼ぎとしてはかなり良いね。だけど、ウルフはあまり戦った経験がないし、レッドウルフはかなり狡猾で強いらしいから大丈夫かな?
目撃された場所はフォレスティアの北西。
魔の森ってことは王都寄りだから街道を通る人たちは確かに困るだろうね。
「巣の場所はわかってないの?」
「あぁ、商人が街道で襲われたが護衛が追い返したらしい」
「うーん、今日は偵察に行って、討伐は明日でも良いなら良いよ」
エルフを狩る者たちの動きが気になるから偵察ついでに下調べしてこよう。ウルフも討伐出来れば一石二鳥だよね?
俺がそう言うとキテオは「あぁ、構わない」と言いながら素早い動きでペンを出して、俺にサインをさせた。
「なんか急いでない?」
「いや……」
「いや?」
「大店の商店からの依頼でな」
なるほど、ギルドとしては大口の取引先から依頼されたクエストだから速やかにこなしてほしいんだろうね。
「そっか。じゃあ、とりあえず偵察に行って来る」
「あぁ、気をつけるんだぞ」
キテオに送り出されて、俺は西門へと向かった。




