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エルフを狩る者たち①

 その日、冒険者ギルドは異様な雰囲気に包まれていた。


 それは見慣れない人たちがたくさん居たからだ。朝から冒険者ギルド内に併設された酒場に陣取り。大きな声でゲラゲラと笑いながら酒を呑んでいる。


 とても小綺麗とは言えない見た目のその人たちがみんな、王都にいる名のある冒険者か、騎士たちが着るような上等な服や鎧を身につけている様はどこか滑稽だ。


 いくら着飾っても中身が伴わなければ、やはり実力者には見えない。


 その中に1人、怪しげな雰囲気を纏っていたけど、綺麗な服の似合う女の人がいた。だけど、際どい服だからなんだか冒険者って感じがしない。


 俺がカウンター前に移動しながらその人たちを見ていたら近くに来たダゴルが「ラピス」と声をかけて来た。


「うん、どうしたの?」


 ダゴルは「あぁ」とうなずく。


「ラピス、あそこにいる女にだけは気をつけろ。仲間だろうとなんだろうと、騙し、陥れ、踏み台にすることをなんとも思わない。銀狐のカルメア、まさに悪女だぜ」


 ダゴルが小声でそう言ったその時、聞こえていないはずなのにさきほどの女の人が俺たちを見てにやぁと笑った。


 それがなんとも言えず、背筋が凍る。


 おいおい、なんなの、あの人は?


「確かに、やばそうだね」


「あぁ、絶対にやばい。関わったら破滅の道しか残らねぇよ」


 俺たちがカウンターまでくるとキテオが「おい、お前らカルメアにだけは気をつけろよ」とまるで自分には関係ないみたいに言ったが、あんたも気をつけなよ。


 真面目な人ほど悪女にハマるって言うし……。


「ところであの人たちはなに? 普通の冒険者じゃないよね?」


「あぁ、やつらがエルフを狩る者たちだ」


 エルフを狩る者たち……。


 とうとう来たのか、この人たちが森の奥で静かに隠れ住むエルフを捕まえて奴隷商人に売る人たち、つまりエレナたちの敵ってことだね。


 俺は「ふぅ」と息を吐く。


 森の中でエレナたちが捕まったとしたら、俺はこの人たちと戦い、斬り、刺し、そして……殺すことが出来るのだろうか?


 まあ、兵士だったからね。人だって殺したことはあるけど、盗賊や山賊とは違うもんね。エルフをさらっているんだから似たような物だと思うんだけどさ。


 俺がそう思ったとき、カルメアが立ち上がり腰を振りながらゆっくりとこちらに歩いてきた。


「あなた、かわいいわね。お姉さん、あなたみたいな子、好きよ」


「そう、僕はお姉ちゃんみたいな女の人は嫌いだよ」


「あら嫌だわ。お姉さん、あなたに何かしたかしら、ラピス?」


「まだなにもされなくても、生理的に無理なんだよ。カルメアのお姉ちゃん」


 カルメアは「ふふふっ」と笑った。


「王国の法律では人を襲ったり、さらったり、殺したりする犯罪者は裁判にかけずとも殺して良いことになっているのよ」


「うん、僕が子供でもそれぐらいのことは知ってるよ」


 カルメアは「そう」とうなずいて、カッと目を見開いた。


「でも残念ながらエルフをさらっても犯罪者にはならないわ、それは知っているの?」


 カルメアが自分の唇を舐めまわすので「なにが言いたいのさ」と俺は顔をしかめて見せた。


「私たちの邪魔をしたら、犯罪者はあなたの方よ。そして、私たちは森の中で会った犯罪者を殺すことをためらったりしない」


「意味がわからないよ。なんで僕がお姉ちゃんたちの邪魔をするの?」


「あなたが子供で、しかも有能な魔法剣士だと聞いたから釘を刺しているだけよ」


「なんかあんたたちを返り討ちにしている気持ちの良い子供がいるらしいけど、僕のことではないよ」


「そうなの?」


 カルメアが目を細めた。


「そうだよ。僕はエルフの話が出た数日後にはフォレスティアに居たんだ。僕がその子なら来るのが早すぎるでしょ?」


「確かにそうね。じゃあ、ラピスは私たちの邪魔をしないでね」


「それは約束できないよ」


 俺がそう言うとカルメアは「どうして?」と首を傾げた。


「僕はお姉ちゃんみたいな人が嫌いだからさ」


「そうだったわね。残念だわ」


「うん、残念だよね」


「本当に残念……」


 カルメアが俺の頬に触ろうとしたところで、エルフを狩る者たちの男の人が「カルメア、なに遊んでやがる」と声をかけて、カルメアは伸ばした手をゆっくりと引っ込めた。


「本当に嫉妬深くて困るわ。やっぱり男は自分に自信がある、ラピスみたいな子がいいわね」


 カルメアはニッコリと笑ってその男の人の元に戻って行った。


 うわぁ、怖っ! なんだよ、あの生き物は……。


「おい、ラピス。奴らとことを構えるつもりなのか?」


「うん? いやそんなつもりはないけど?」


「じゃあ、今のやりとりはなんだ?」


 ダゴルがそう言うとキテオも周りにいた冒険者もうなずく。


「いや、あんなの挨拶だよ、挨拶」


「挨拶ってお前、こっちはちびりそうだったぞ。あんなの宣戦布告だろ?」


 えっ? なに言ってんの? あはは……うーん、よく考えると宣戦布告と取れなくもないのか?


 まあ、こちらからことを構えるつもりはないけどさ。もしもエレナたちが捕まるようなことがあれば、やるしかないよね。


 俺は「そうだね」と言いながらもう一度カルメアをにらみつけた。


 エレナに助けてもらった俺には、もうあんな風に泣き叫んで助けを呼びながら連れ去られるエルフを見ているだけなんて出来るはずもないのだから……。

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