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願い①

 兵士の女の人に抱えられたティアが「お父様、これはなんの真似ですか?」と声を出す。


 だけど、ティアの父親はその言葉に答えずに「連れて行け」と指示を出した。ティアが「お父様、お父様! 話が違います!」と暴れる。


 だけど、兵士は構わずにティアを抱えながら部屋を出て行った。


「ラピス君、すまないが大人しくついて来てくれるかい?」


 俺は「うん」とうなずく。


 でもまずいね。俺は貴族を舐めていた。だって、どこの馬の骨かわからないやつを監視なしにお嬢様と2人きりにするはずないよね?


「ラピス君をお連れしろ」


 ティアの父がそう言うと兵士が「来い」と俺の首を後ろからつかむ。


 痛いよ、それ。


 俺が顔をしかめるとティアの父が「やめろ!」と騎士を睨みつけた。


「あくまでも丁重にだ」


 ティアの父親が思いがけないほどに低い声を出したので、ビクッと驚いた兵士はすぐに俺の首から手を離す。


 そして、俺は兵士たちに囲まれながら廊下を歩き、石造りの部屋に入れられた。


「本当に申し訳ないが、しばらくここに居てくれ」


 そう言ったティアの父親が去っていくと、その重そうな鉄の扉は閉められた。


 鉄格子が入った小さな高窓と壁に据え付けられた鉄製のベッドがあるだけの部屋。俺はそのベッドの隅に腰掛けながら、閉ざされた扉を見ていた。


 この扉を磁力で飛ばせば出れるかな?


 だけど、この屋敷にどれほどの騎士と兵士がいるのかわからないし、騎士たちが駆けつけてきて物量で取り押さえられたら手枷や足枷を付けられて……拷問されるかもしれない。


 いやいや、このまま大人しくしていても拷問は免れないのではないか? 『君は何者なんだ?』とか言ってたもんね。


 やばい、やばい、やばいな。どうにかして脱出しなきゃ、どちらにしてもやばい未来しか描けないならとりあえず出来る限りの抵抗をしよう。


 俺が扉を吹っ飛ばそうかとにらんでいたら、あっさりと扉が開いた。


 うん?


 目の周りを赤くしたティアが入ってきて「ラピス」と飛びついてきたので受け止める。それから「ごめんね、ごめんね」と泣くのでその背中をなでた。


「こんな手荒な真似するなんて聞いたなかったの」


「大丈夫だよ、ティア」


「でも……」


「ティアがそんな子じゃないってわかってるから」


 俺が笑ってから泣いている背をなでていると、一緒に入ってきて扉の横に立っていたルイラが「あの」と声をかけてきた。


「ルイラ姉ちゃんも気にしないで、聞いてなかったんでしょ?」


「あぁ、すまない」


「どうせ、ルイラ姉ちゃんはすぐ顔に出るから教えてもらえなかったんじゃないの?」


「そうなのだが、そこまでストレートに言われると否定したくなるな」


 ルイラが顔を少ししかめて見せて、俺たち3人は「クスクス」と小さく笑った。


「これからどうなるの?」


「うん、いまお父様がお母様に怒られているからすぐに出られると思う」


「えっ?」


 俺が驚くとティアは上目遣いで俺を覗きこんだ。


「後でお爺様から説明があるからお話を聞いてもらえる?」


「うん、わかったよ」


 俺がうなずくと、兵士が入って来た。


「御屋形様がお呼びだ」


 その呼びかけに顔をしかめたルイラが「わかった」と答えるので「ルイラ姉ちゃん、顔に出てる」と言いながら俺は笑った。


 俺とティアとルイラは応接間に通された。


 ソファにはすでに3人が並んで座っていて、真ん中に座っているお爺さんが「とりあえず座ってくれ」と向かいのソファを示すので俺は座る。


 俺の隣にティアも座って、不機嫌そうにお爺さんのとなりに座っている自らの父をにらんだ。見えないけど、俺たちの後ろに立っているルイラもにらんでいるかもしれない。もちろん俺もにらんでおく。


 こんにゃろう。


 お爺さんが「すっかり仲良しだな」と笑ったが、ティアは「お爺様、笑い事ではないわ」と膨れた。そして、お爺さんは俺を見て「手荒な真似をしてすまなかった」と頭を下げた。


「いえ、大丈夫じゃないけど、大丈夫です」


 俺が苦笑いを浮かべると「そうじゃろうな」とお爺さんも苦笑いを浮かべた。


「改めて、わしはルサヴェガス家当主ウィルギノス、ウィスで良い」


「わかったよ。ウィス様」


 俺がうなずくとウィスは「ウィス爺でも良いぞ」と言った。


 うん、いきなりそれは無理。


 俺が苦笑うと、ティアの父が「私はサルトゥナス、サルスで良い、本当にすまなかった」と頭を下げた。


「はい、サルトゥナス様」


 そう返事を返すとサルスは「そんなぁ」と言ったが、ティアが「当然よ」と返した。


 うん、当然だ。あんたとはしばらく仲良くしてやらないからな。


 再び、俺とティアが並んでサルスをにらみつけると、サルスとは反対側に座っていた綺麗な女の人がニッコリと笑った。


「私はティアの母親でシルフォリアと言います。シルアでいいわ。よろしくね」


「よろしくお願いします、シルア様」


 そんな感じで3人の自己紹介は終わって、ウィスがコホンと咳払いをしてから「ラピスに頼みがあるんじゃ」と言った。


「なんですか?」


「聞いてくれるか?」


「いや、内容聞かないとわかりません」


 ウィスは「そうじゃろうな」とうなずく。


 うん、内容も聞かずに『うん』とは言わないよ。


 だけどさ、キテオといい、このやり口フォレスティアで流行ってんの?


 俺が呆れながらウェスを見ていると、ウェスが俺を真っ直ぐに見返す。


「ティアと結婚して、ティアの代わりに王国騎士団に入隊してもらえぬか?」


「はい?」


 俺が首を傾げるとウィスが「頼む」と深々と頭を下げて、並んでいたサルスもシルアも並んで「お願い」とテーブルに頭が付くほどに頭を下げた。


 えっ? ええっ?!

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