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貴族③

 詰所での話し合いが終わった後で、今度は冒険者ギルドまで連行された俺は、ルイラに後ろ襟をつかまれたままでクエストの書類に『ラピス』とサインをさせられた。


 そして、冒険者ギルドに横付けされたルサヴェガス家の箱馬車に放り込まれる。


「ルイラ姉ちゃん、こんなことしなくても逃げないって」


「ふん、どうだかな」


 俺は抗議したが、一緒に馬車に乗り込んだルイラは苦笑いをする。


 うーん、確かに逃げるかもね。


「ラピス、ティフォリア様に失礼のないようにな」


「うん、努力するよ。キテオさん」


「頼んだぞ」


 キテオに見送られ、僕を乗せて出発した馬車はフォレスティアの北側にあるルサヴェガス家の屋敷に来た。


 入り口で執事やメイドたちの出迎えがあって、客間に通された俺は綺麗なソファに座って待つ。


 これって俺が座っても良いものなのかな?


 手触りが滑らかなのに、適度な弾力もあって座り心地が良い。


 それの手触りを確認していたら、ルイラに続いてティアが入ってきた。やっぱりかわいいし、今日は着ているものも品があって子供なのに艶っぽい。


 ニッコリと微笑んだティアは「やっと来てくれたのね」と笑った。


 うん、来たというか、あなたの横に控えている騎士に拉致られたと言った方が正しいよ。


「今日はお招き頂きありがとうございます。ティア様」


「来てくれてありがとう、ラピス。私たちは歳も近いし、もう丁寧な言葉はやめようよ。私のこともティアと呼んでね」


「はい、ティア様」


「違うでしょ? ティア」


「えっと、だから、ティア様」


「ティ・ア」


 そこで僕がルイラを見るとルイラは渋々というように顔をしかめながらうなずく。


「わかったよ、ティア」


「そうよ、ラピス」


 その後でルイラが持ってきた契約用のスクロールがテーブルに置かれたが、広げられる前に止めた。


「あのさ、どのみちいずれはみんなにバレるし、ティアが人に話さないと約束してくれれば、魔法の契約はしなくていいよ」


「いいの?」


「うん、もう他にも知っている人たちがいるのに、ティアにだけ契約させるわけにはいかないからね」


「わかった、約束するわ。ラピス」


 ということでスクロールは片付けてもらい。


 テーブルに紅茶のポットとカップ。昼食がわりのハムやチーズ、野菜などが挟まったサンドイッチ。それからクッキーのようなお菓子類にフルーツが並ぶとルイラが「お嬢様に失礼なマネは」と言いかけて「ルイラはもういいから」とティアに背を押されながら追い出された。


 入り口で恨むしそうに俺をにらんだルイラが出ていくとティアとのお茶会が始まった。


「ラピスにだけ話させるのは悪いから私の話もするね。私の魔法は樹木魔法、植物を操ることができるの」


 おぉ、ティアも使えるのか、うわさのルサヴェガス家の樹木魔法。


「私はまだ木を1本とかしか操れないけど、ご先祖さまは一度に何百本も木を操ることが出来て、フォレスティアの西に広がる魔の森はいくつかあった小さな森を集めて、今のような大きな森にしたんだって」


「それはすごいね」


 ティアは「でしょ」と胸を張る。


 エレナたちエルフが暮らしている森はティアのご先祖さまが作ったのか……って、あれ? でも、ちょっと待てよ。あれをティアのご先祖さまが作ったのだとしたら、ティアのご先祖さまはエレナたちエルフのことを知っていたのかもしれない。


 というよりもご先祖さまがエルフを匿うために作った森だったりして、なんてのは考えすぎか?


 ティアは自分の魔法を話し終わったので、キラキラとした目で俺を見てくる。


 あぁ、期待しているみたいだけどさ、俺の魔法は森を移動したりは出来ないよ。


「じゃあ、今度は僕がウィルッチの村の話をするね」


 俺はそこからウィルッチに馬で向かったところから話をした。ティアは俺の磁力魔法で目を輝かせて、スケルトンたちに襲われた村の話で顔を曇らせた。


「そんなことに……」


 ティアはギュッと目を閉じる。


「森は魔物たちが生まれて潜伏する。やはり森を少し減らすべきなのかな?」


「それは誰かに言われたの?」


「うん、お父様と他所の方が話しているのを聞いたの」


「そっか、でもどうだろうね?」


 俺が首をかしげるとティアは俺を見た。


「魔法道具には魔物の持つ魔石が必要だし、こんな辺境にあってルサヴェガス家の治めるフォレスティアがやっていけているのは、豊かな森の恩恵を受けているからじゃない?」


「そうかな?」


「きっと、そうだよ」


 豊かな生活のためには犠牲がつきものだ。とまでは言わないが、だからと言って森を切り開き、魔物たちがいない人のためだけの土地にして良いとも思えない。


 ティアが「ありがとう」と言うので「気にするなよ」と答えた。


 そこから、集会所の周りに鉄の壁を作ったり、森の中でスケルトンやアイアンスケルトン、シルバースケルトンと戦った話をすると、ティアは再び目をキラキラとさせた。


「ねぇ、ラピスの魔法見てみたい」


「良いけど、危ないよ」


 ティアは「そうよね」と室内を見渡して肩を落とす。


 うーん、庭とかなら見せられるけど、庭だと誰が見ているかわからないからね。


 俺はうなだれるティアを見た。


「じゃあ、少しだけだよ」


 俺がそう言うとティアは顔をあげて「うん」と嬉しそうにうなずく。


 俺は腰の布袋から砂鉄を少しだけ出した。


 さらさらと浮いた砂を宙で動かしてみたり、小さな塊を作ってそれでいろんな形を作ってみたりしてから、再び布袋に戻した。


「すごいね、本当にすごいわ」


「うん、だけど僕はまだまだ扱いきれてないけどね」


「それは仕方ないわよ。私だってまだまだだもん」


「そうだよね」


 俺がうなずいたときにバァンと扉が開いてその人は入ってきた。


「お父様?」


「ラピス君、君は何者なんだい?」


「えっ?」


 俺が驚くと兵士たちがずらずらと入ってきて、ソファに座ったままの俺は、すっかり兵士たちに囲まれてしまった。

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