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貴族②

 イコブが怒るのも無理はないね。


 フォレスティアを治めているルサヴェガス男爵家のひとり娘であるティフォリアは、その可愛らしい容姿もあって街の人々から愛されていた。


 俺がそのティフォリアからのお茶会のお誘いを渋っているのだからイコブが鬼のような顔で俺をにらんでいるのはわからなくもない。


「魔法のことか?」


 渋い顔をしたイコブが聞くので、俺は「まあね」と答える。


 基本的に冒険者は手の内を明かさなくて良いことになっている。だけど、相手が貴族なら話は別で、この王国にいる以上、貴族から聞かれれば平民は答えないわけには行かないのだ。


「冒険者たちだけならわかるが、ウィルッチの村の人たちもお前の魔法については頑なに答えないからな」


 イコブはガシガシと頭をかく。


「ルイラ姉ちゃん、お嬢様はシルバースケルトンを倒したときの話を聞きたがっているんでしょ?」


「いや、それは私にもわからん。兵士たちの中ではウィルッチの件でラピスに対して不満を口にしている者が多かったが、男爵様もお嬢様もラピスを評価されているようだ」


 おいおい、それが1番怖いよ。


 兵士たちみたいに『冒険者風情が余計なことをしやがって生意気な!』と思われていた方が俺にとっては都合が良い。


 もちろん兵士たちは自分たちが小銭を稼げずに、村の片付けだけを手伝わさせられたのが不満なんだろうけどね。


「ねぇ、平民の僕なんかとお茶会しても楽しくないってルイラ姉ちゃんから進言してくれない?」


「お前はアホか、私にそんなことが言えるわけないだろ?」


「なんで?」


「お嬢様は街道でお前に助けられてから遊びに来るのを楽しみにされているんだぞ。私は毎日のように『ラピスはいつ来てくれるかな?』って聞かれているのだ。それを今さら『ラピスと会っても面白くないですよ』なんて言えるか!」


「そこはルイラ姉ちゃんのお力でなんとかならない」


「ならない。貴様も一度お嬢様に上目遣いでおねだりされてみろ、あんな可愛らしい顔でおねだりされたら断り切るのは無理だぞ」


 いやいや、いよいよ行きたくないんですけど。


 俺が苦笑いになるとイコブが笑う。


「ラピス、ティフォリア様からお誘いを受けてそんなに渋るのは、きっとお前だけだぞ」


「うん、可愛いお嬢様からのお誘いだからさ、僕だって断るのは心苦しいんだよ。だけど、ちょっと忙しいからね」


 僕がそう答えるとルイラが「おい」と言う。


「宿屋の息子とは昼を食べに行けるのに、お嬢様とのお茶会は無理なのか? 馬鹿なのか? お前は?」


「だって、ピエルは兄弟みたいなものだし、気が楽なんだもん。魔法のこととかも聞いてこないし、聞いてきてもはぐらかせるし、お嬢様に聞かれたら断れないじゃん」


 俺が言い切るとルイラは頭を抱えた。


「というか、お前。それほどまでに魔法を明かしたくないところを見ると、相当変わった魔法を持っているのか?」


 ルイラが顔を上げるので、俺は「違うよ」とすぐに否定する。


「冒険者ってのは手の内は簡単に明かさないものなの」


「本当か?」


 いや、嘘だよ。


 だけど引くわけには行かないので、俺が答えようとしたらイコブが「本当ですよ。ルイラ殿」と答えた。


「冒険者には騎士や兵士みたいに背中を守ってくれる仲間はいませんからね。自分の身は自分で守らなくてはいけないから手の内は明かさないものなのですよ」


 イコブの言葉にルイラも「そういうものなのか」とうなずく。


 おいおい、イコブの言葉なら納得するんかい!


 と思ったが、俺は嘘ついているし、胡散臭いから仕方ないよね。


「では、お嬢様がお茶会で聞いた話を他の者に絶対にしゃべらないと約束されれば、誘いを受けてくれるか?」


「でも、お嬢様がその約束を守ってくれる保証はあるの? なんども言うけどさ、こっちは命に関わる話なんだ」


「では魔法で契約してもらう」


「いやいや、待ってよ。お嬢様がそこまでする必要あるの? 魔法の契約などすればその契約を破棄したら死ぬんだよ」


「あぁ、お前も命懸けなのだから、お嬢様もその秘密を知りたいなら命をおかけくださいとお願いするだけだ。それが嫌ならお嬢様も諦めてくださるだろ?」


 ぐぅ、ここまで言われるとこれは断れないね。


 俺がイコブを見るとイコブも目を閉じてうなずく。


 まあ、そうだよね……。


 お嬢様がほかに話せないなら魔法の話ぐらいなら良いか?


 正直言えば俺だって誰かに自慢したいからね。


 ずっと隠しておくのも疲れるし『磁力魔法はこんなことまで出来るんだよ』って誰かに話したい。


 もちろんエルフの里のことや世界樹の実の副作用の秘密は絶対に話さないで墓まで持っていく。死ねたらだけど。


「わかったよ。お嬢様が魔法による契約をしてくれるならお茶会のお誘いを受ける。それでいい?」


「あぁ、助かる」


 ルイラは微笑んだけどさ、そんな条件を勝手に決めて良いの? ルイラが怒られたりしない?


「ルイラ殿もお人が悪い、お嬢様からそのような提案があったのですな?」


「あぁ、さすがはイコブ殿だな。お嬢様からラピスが渋るようなら魔法の契約をすると言えと言われて来た」


 マジかよ……。


「私にはそこまでする理由がまったく理解出来んがな」


 ルイラが首をかしげながらそう言うので俺は怖くなって来た。そのお嬢様は一筋縄では行かない気がする。

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