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貴族①

 フォレスティアに戻った後で、素材の買い取りをしてもらい。回収と運搬を手伝ってもらった冒険者たちに約束の銀貨を支払う。


 みんな喜んでくれて嬉しいがあんまりにも嬉しかったのか、女の子たちが握手の手を引き寄せるので胸が当たってどんな顔をすれば良いのか困る。


 変に意識して気持ち悪いと思われたくないから平静を装ったが、少しにやけちゃったかもね。


 そして、ダゴルたちと山分けをするためにマケトたちの行きつけの酒場に来た。料理を頼んで、エールとジュースが並び、乾杯をしてから山分けをしようとしたのだが断られた。


 シルバースケルトンが全部魔銀という素材で出来ていて買い取り額がえぐい。


 なので、シルバースケルトンを除いた素材の買い取り額から駆けつけてくれた冒険者たちに渡した金貨10枚を抜いて、山分けとなった。


 それでもアイアンスケルトンも魔鉄という素材で出来ていたのでなかなかの額だ。


 マケトが呆れて、パコが口を開けたまま動きを止めて、オルナが飛び上がって喜んでから抱きしめてくれたが……あの、恥ずかしいからね。


 ダゴルはエールを飲みながら「しばらく休むか」と言ったが、あなたは働こうね。ただでさえ魔物が活性化しているんだからさ。みんなから一目置かれているダゴルには特に頑張ってほしい。


 それからウィルッチの復興も始まった。


 俺たちと入れ替わりでウィルッチの村に入ったルサヴェガス家の騎士と兵士たちが村の片付けを手伝い、俺がシルバースケルトンの素材を売ったお金から出した支援金でフォレスティアから職人たちが家の立て直しに行ったものだから大騒ぎになった。


 曰くルサヴェガス家は貴族としての面子を潰されたのだそうだ。


 そんな話は平民の俺たちには関係ない話なのだが、冒険者がスケルトンの群れから村を救い、そのあとの復興も本来ならルサヴェガス家が主導するのに、ウィルッチの村長とフォレスティアの冒険者ギルドが勝手に進めたのがいたく気に入らないらしい。

 

 要は勝手なことはするなという話だ。


 本当は冒険者がスケルトンを防いでいるところに騎士と兵士たちが到着して、スケルトンを討伐。村の片付けを冒険者たちにさせて素材を回収、それを売ったお金から一部をウィルッチの復興に充てるつもりだったようだ。


 そして、ウィルッチの復興が始まってから5日ほど経って朝食を済ませた俺が冒険者ギルドに向かうために『金の鶏亭』を出ようとしたら入り口で声をかけられた。


「すまないが、ここにラピスという子供の冒険者が泊まっていると思うのだが」


「えっと、僕は知らないよ」


「なんだ、坊主はここの子じゃないのか?」


「うん、客だよ」


「そうか、すまなかったな」


 その女の子はにこやかに頭を下げたのだか、タイミング悪く「ラピス、今日はお昼奢ってくれるのか?」とピエルが声をかけて来たので、その微笑みは鬼のような顔に変わった。


「貴様がラピスか?!」


「うん、確かに僕もラピスだけど、お姉ちゃんが探している人とは違うと思うよ」


 俺はにこやかに笑ったが、その子は俺の肩をつかんだ。


「冒険者なんだよな?」


「いや、旅人……」


「うるさい! ちょっと来い!」


 女の子が俺のえり後ろをつかむ。なので俺はピエルに「今、行けなくなったかもしれない」と答えると「なんでだよ」とピエルが答えた。


 うん、タイミングが悪かっただけだよね。


 兵士詰所に連れて行かれて、椅子にちょこんと座らせられた俺をイコブが入り口で俺のことを見張りながら哀れそうな目で見る。


「ラピス、ついてないな」


「うん、まったくだよ」


「まあ、お前の行動も原因の一環ではあるがな」


「行動?」


 俺が首をかしげるとイコブは「あぁ」とうなずく。


「お前大人しくって言葉知らないだろ?」


「そんなことないよ。僕はすごく大人しいよ」


「あのな、大人しい奴はシルバースケルトンなんか倒さないし、クエスト報酬を辞退したり、村の復興にお金を出したりしねぇんだ」


 イコブはガシガシと頭をかいた。


「でもさ、ウィルッチの村は本当にひどい状態だったんだ。だから必死でシルバースケルトンを倒したし、その後のこともおじちゃんもあの場にいたなら理解できると思うよ」


 俺がそう言うとイコブは「そうか、そうだよな」とうなずく。そして、俺の方に近づいて来た。


「ウィルッチを助けてくれてありがとな、ラピス」


「ううん、おじちゃんも心配してくれてありがとう」


 イコブが俺の頭をなでると、入ってきたさっきの女の子がコホンと咳払いするので、イコブが慌てて入り口に戻った。


「ラピス、私の用件はわかるよな?」


 女の子は入り口側の椅子に座る。


「知らないよ、お姉ちゃんは誰?」


 俺が首をかしげると、女の子は笑ったまま浮かべたこめかみの青筋をピクピクさせる。


「私はルサヴェガス家の騎士ルイラ、なぜルサヴェガス男爵家の出したクエストを受けない?」


「えっと、たまたま忙しかったんだよ。時間が出来たら受けようかと思って」


 俺は「えへへ」と笑ったがルイラが身を乗り出して「貴様!」と俺の胸ぐらをつかむので、イコブが慌てて止める。


「ルイラ殿、乱暴は困ります」


「わかっている。しかしだな、この者はあまりにも……」


「そうですね、気持ちはわかるのですが」


 イコブが苦笑いして俺を見る。


「ラピス、普通は貴族が出したクエストはすぐ受けるもんだぜ」


「うん、だけどさ。それって貴族と繋がりが欲しい冒険者の場合でしょ? 僕はいらないよ、そんな繋がり」


 うん、貴族と繋がりなどいらない。魔法のことも、エルフの里のことも、世界樹の実の副作用のことも、俺はいろいろと隠さなくてはならないことが多すぎる。


 捕まりたくないし、尋問も人体実験もごめんだ。


 そんな風に思っていたらイコブが頭をかく。


「しかし、ルイラ殿。いかにルイラ殿と言えども罪を犯していない者を拘束するのはやはりやり過ぎなのではありませんか?」


「イコブ殿、しかしだな」


「悪いのですが、高ランクの指名クエスト以外のクエストは受けるも受けないも冒険者の自由という取り決めになっておることはご存知ですよね?」


「あぁ、わかっている」


「このような事をされるなら俺も兵士として、ルサヴェガス男爵に報告しますよ?」


「だがな、お嬢様は楽しみにしておるのだ『ラピスはいつ来るの?』ってあの笑顔で毎日聞かれるこっちの身にもなれ!」


「えっ?!」


 イコブが驚いて俺を見る。


「おい、ラピス、お前が渋っているクエストって……」


「お嬢様のお茶会の相手」


 イコブの「馬鹿やろう!」と声が詰所内に響き渡った。

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