ウィルッチ③
地面に縛りつけられたアイアンスケルトンのコアを錆びた剣で破壊した瞬間に、シルバースケルトンの剣が俺のいた場所の地面を削る。
「クッ」
地面を磁力で弾いて後ろに飛んだ俺は腰のナイフを引き抜いて、シルバースケルトンが繰り出してきた横なぎを受け止めて後ろに飛ばされた。
速すぎるって。
引き寄せて飛ばしたアイアンスケルトンの残骸がどんどんシルバースケルトンにぶち当たるとシルバースケルトンが大きく後ろに吹き飛んだ。
俺が着地して、シルバースケルトンも着地する。
そして、シルバースケルトンは軽く首をかしげながらガチガチと歯を鳴らしてまた笑った。
くそ、余裕こきやがってムカつく。
だけどたしかに俺には今のところ撃つ手がない。
あいつには磁力が効かないし、今ぶち当てたアイアンスケルトンの残骸がひしゃげているのにあいつは無傷だからアイアンスケルトンより遥かに硬い。
さらに動きまで速い。
おいおい、王国騎士団の少尉クラスの騎士が戦っているのを見たことあるけど、実際戦うとやばいなシルバースケルトン。
「考えろ、俺!」
気合いを入れた瞬間に、シルバースケルトンは低く地を這うように飛び出してきた。素早い剣の斬り上げからの斬り下ろし。
ビュン! ビュン!
と風を切ったそれを磁力で地面を弾きながら下がってかわす。
嘘だろ?
たしかにかわしたはずなのに、うっすらと胴当ての表面に傷が入った。
あぶねぇ。ってか、胴当て着けててよかった。
キテオ、ありがとう。
着地と同時に俺は前に出た。シルバースケルトンは再び剣で斬り上げようとしたけど、俺が引き寄せたアイアンスケルトンの残骸が後頭部に直接して、バランスを崩す。
俺はコアに向かってナイフを突き入れる。
刹那、俺は突き入れるのをやめて、シルバースケルトンの斬り上げを身を捩りながらかわして横に転がった。
すぐに磁力を使って両手で地面を弾いて飛びながらシルバースケルトンの剣による斬り下げを避けて、再び大量のアイアンスケルトンの残骸をぶつけてシルバースケルトンを弾き飛ばす。
俺は立ち上がると間合いを取るように大きく後ろに飛んだ。
いやいや、後頭部に一撃食らったら普通は脳が揺れて……。
俺は悠然と立ち上がるシルバースケルトンを見る。
揺れないよねぇ、脳ないもんね。
そこからもシルバースケルトンの剣をかわし続けたが、少しずつ胴当ての傷が増えるだけで、俺には打つ手がない。
シルバースケルトンが再びカチカチと歯を鳴らして笑う。
こんにゃろう、もう怒った。
俺は全力であちこちに散らばっていた砂鉄を全て引き寄せた。さらにしゃがみ込んで「来い!」と地面に全力で魔力を注いで、地面からも砂鉄を引き出す。
サラサラとした大量の砂鉄が森の中を漂って、意思のある1つの塊であるかのようにシルバースケルトンに襲いかかる。
そして、砂鉄同士が引き合って、シルバースケルトンを包むとシルバースケルトンが事態に気がついてやっと焦るように剣や盾で砂鉄に抵抗した。
「だが、遅い!」
みるみる大量の砂鉄に包み込まれたシルバースケルトンはとうとう地面に倒れ込んだ。俺はグッと歯を食いしばりその塊に今度は錆びた剣も磁力で飛ばして「喰らいやがれ!」と次々に突き刺す。
シルバースケルトンが抵抗しているので流動しながら包んでいた砂鉄に10数本の錆びた剣が突き刺さって、砂鉄の流動が止まった。
「終わったかな?」
俺が座り込んで砂鉄に流していた魔力を解くと、サラサラと流れ落ちた砂鉄の山の中からコアが破壊されたシルバースケルトンが出てきた。
「よし!」
俺はその場で座ったままでガッツポーズして喜んで、それからよっこらしょと立ち上がって村に戻る。
これで大丈夫なはずだよね?
村が見えたきた。
すっかり日は落ちて、月明かりがその建物を映し出す。
周りにはスケルトンの骨が幾重にも積み上がり、ひっそりと静まり返った建物に俺が近寄ると、2階から「ラピス、お疲れ」と声が聞こえた。
俺が見上げると疲れた顔のマケトが苦笑いを浮かべている。
「みんなは大丈夫?」
「あぁ、大丈夫じゃないけど大丈夫だ」
マケトの言葉のあとに「疲れて立ち上がれねぇ」「本当でやすね。もうしばらくはスケルトンをみたくないでやす」「魔力切れで頭が痛いわ」と3人が嘆く声だけが聞こえた。
良かった。
ホッとして俺が座り込みがら鉄の壁を砂鉄にすると、サラサラと砂鉄が落ちて集会所の入り口から村人たちが出てきた。
「助かったの?」
「よっしゃあ」
「この子? 助けてくれたのはこの子?」
そこから村人たちに好きなようにもみくちゃにされてしばらくして、キテオが率いる冒険者の援軍が到着した。
俺の状況を見た冒険者たちは首をかしげて、キテオが苦笑いをする。
「すまないがその子に話を聞きたい。解放してもらえるだろうか?」
キテオがそう言って、なんとか村の女の子たちから解放された俺がキテオと向き合う。
「大丈夫か? ラピス」
「これを見てわからない?」
俺がもみくちゃにされた自分の髪を指さす。
「そうだろうな。お疲れさん」
軽く言うキテオに「軽いね」と憎まれ口を叩いて、俺はガシガシと頭をかいた。
「ラピスが群れのボスを倒したんだな?」
「うん、北の森に転がってる」
「そうか、アイアンスケルトンか?」
「いや、シルバースケルトンとアイアンスケルトンが5体」
「おい、マジか?」
「マジだよ」
俺が笑うとキテオは「そうか」とうなずく。
「せっかく来てもらったのに悪いからさ、冒険者さんたちに素材の回収とギルドまでの運搬をお願いしてもいい? 手間賃は僕が出すから」
「あぁ、構わない」
キテオが冒険者たちを振り返ると、冒険者たちはみんなうなずく。
ここまで来て手ぶらで帰るのはいやだもんね。
「それからここに来るまでの森の中にもゴブリンが転がっているんだけど」
「えっ?」
「1体ゴブリンチーフもいるからさ。みんなに銀貨5枚ずつ支払うからさ、そっちの回収もお願いできる?」
「おい、20人いるんだぞ、それだけで金貨10枚飛ぶぞ」
「うん、いいよ。スケルトンの素材は骨も壊れたコアも魔石もあるからかなり稼げるし、アイアンとシルバーはかなり高値が付くでしょ? それにあのまま放置する方が怖いし」
森の中に放置された魔石は魔物を呼ぶとされている。スケルトンの魔石もだけど、来たときに倒したゴブリンの魔石もたくさんあるから魔物の大量発生が怖い。
「そうだが……」
「わかってるよ、緊急クエストの報酬は辞退する」
「いいのか?」
「キテオさんも初めからそのつもりでしょ? この村の状況じゃ、報酬なんて受け取れないよ」
「ラピス」
「もちろん今回の素材を売ったお金をダゴルさんたちと山分けした後で僕の方から少し支援金を出すよ」
「いいのか?」
「うん、放っておけないしね」
「そうか、悪いな」
キテオはにこやかに笑うと、集会所から出てきていた村長にすがりつかれて大変だった。そして、村長が俺から引き離されながら「うちの孫娘と」と言う。
「いや、そういうのは間に合ってるから」
俺が断ると冒険者たちからも村人たちからも笑い声が上がった。
村の人たちを助けられて本当に良かった。




