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ウィルッチ①

 ウィルッチの村は魔の森のある西門とは反対側の東門から出て、先にある小さな森を避けるように迂回している街道を馬で走れば4時間ほどで着く距離なのだが、その小さな森を突っ切ることが出来ればたぶん2時間ぐらいで着くのだそうだ。


 もちろん、森の中では魔の森ほどではないがゴブリンなどに遭遇するので戦うことを考えると迂回した方が早いのだが、俺は迷っていた。


 磁力魔法を使えばたぶん止まらずに進める。


 それに、俺たちが日没前に村に着けるどうかで村人の生存確率は変わる。


 基本的にスケルトンたちは夜行性だ。昼間は少数を残してほとんどは森などの暗がりで休み、日没と共に活発になる。


 街に知らせに来た村人の話では全員石造りの頑丈な集会所に避難しているそうなのだが、その集会所を守るために昨日もかなりの怪我人が出たそうだ。


 今日も守り切れるとは限らないし、スケルトンだって昨日より増えないとは言えない。


「オルナ姉ちゃん」


「なに?」


「たぶん僕が魔法を使えば、森を抜けられると思うんだけどさ」


 俺が聞くとオルナは「そうね」とうなずく。


「その方が早く着くわね。ねぇ、ラピス。どちらにしても日が沈む前にウィルッチに着かないとやばいわよね?」


 確かにそうだね。


 迷っている場合じゃない、やれるかわからないじゃなくて、やらないとダメだ。


「そうだね、ありがとう。オルナ姉ちゃん」


「いえ、どういたしまして」


「じゃあ、先頭に出てくれる?」


「わかったわ」


 そこからオルナは先頭に出て、マケトに「森を抜けるわ、着いてきて」と声をかけるとマケトはパコへ、パコはダゴルへと伝えた。


 遠くに森が見えてきたので、俺は腰の下げた2つの布袋を取って開いて砂鉄を出す。


「ラピス、くすぐったい」


「オルナ姉ちゃん、ごめんね。魔法の触媒を出しているんだ」


「なるほどね、って、それは砂?」


「まあ、そんな感じ」


 俺がそういうとオルナが「嘘でしょ?」と少し震えた。


「オルナ姉ちゃん、後ろのリュックからこれと同じような布袋出してくれる」


「わかったわ」


 オルナが出してくれた布袋からも砂鉄を出す。


 サラサラと広がった砂鉄が小さな玉をたくさん作り、僕たちの周りを漂い始めたところで、馬は薄暗い森へと入った。


 少し走ると案の定、ゴブリンたちの姿が見えたので、俺は周りに飛ばしていた砂鉄玉を「行け」と飛ばす。


 道を挟んで潜んでいたゴブリンたちは面で打ち出された小さな玉にすべて撃ち抜かれて行く。俺は玉を3つの塊に分けて飛ばしては引き戻しを繰り返して、隙間が出来ないように飛ばし続けた。


「やっぱりありえないわね」


 オルナは呟く。


「うん?」


「なんでもないわ、気にしないで」


 オルナはそう言って、俺が落ちないように俺を包む手に少し力を入れた。


 前方にゴブリンの一団が見えた。そして、その中にゴブリンチーフがいる。


「うーん、めんどいな」


 俺は仕方ないので、少し大きな塊を作って先を尖らせて矢尻型にして、磁力で回転をかけながら撃ち出した。


 シュン!


 飛んでった砂鉄玉にゴブリンチーフが撃ち抜かれて倒れると、それを囲んでいたゴブリンたちが「ギィギィ」とか「グゲゲェ」とか声を上げながら散るように逃げ出す。


 逃げ出した者まで狩るつもりはないので、そちらは放っておいて、僕は再びルーティンに戻した。


 1時間ほどで薄暗い森を抜けると日は傾いて、西日が草原をオレンジにした。


 北風が吹いていくとザワザワと草が乾いた音で鳴く。


 小さな林や森が点在する草原を走っていると、オルナが先の方を指さした。


「見えてきたわ、ウィルッチよ」


「うん」


 小さく見えて来た黒い影となったウィルッチがなんだか恐ろしくて、気持ちが落ち着かない。


 村人たちは大丈夫だろうか?


 うん?


 歩いている人がいる。違うな。


 砂鉄玉を少し大きくして先を尖らせた矢尻型にする。


「行け」


 俺の呼びかけに答えて、螺旋に展開した磁力に押し出されて飛び出した砂鉄玉がそのふらふらと歩く者たちに襲いかかる。


 ヒュン!


 砂鉄玉が当たり、コアが砕けたそいつらが崩れるように倒れた。


「圧倒的ね」


 村の門はひどい有様だった。燃え落ちて、傾いた柱がかろうじて立っていた。


 俺たちはそれを駆け抜ける。


 村の中の家もみんな無事ではなかった。柱は燃えたり、斬り倒されたりして屋根も落ち、みな建物の形を残していない。


 村の中心にある石造りの集会所が見えてきた。


 周りをウロウロしているスケルトン3体も先ほどと同じようにして破壊すると、その集会所から声が上がった。


「冒険者たちが来てくれたぞぉ」


 その声が泣けるほど嬉しかった。


「オルナ姉ちゃん、間に合ったね」


「そうね、ラピスのおかげよ」


 俺たちがみんな馬から降りて周囲の確認をする。


「こっちは大丈夫だ」


「こっちもでやす」


「こっちも平気よ」


 マケトたちが声を出すと、ダゴルが「わしの方も大丈夫だ」と笑って、それから集会所に歩み寄った。


「フォレスティアの冒険者だ。代表者の方と話がしたい」


 すると入り口のバリケードが少し開いて、そこからお爺さんが出てきた。


「村長のザンバですじゃ、冒険者はこれだけですか?」


「あぁ、すまねぇな、知らせが来たのが昼過ぎだったからよ、居るものだけで急いで先に来たんだ」


「ですが、見たところ、そちらの方々は歳も若いし、1人はまだ子供ではありませぬか?」


 うん、わかるよ。村長からしたら不安だよね? 俺は明らかに子供だし、マケトたちも腕はいいけど、まだまだ若いからね。


 だけど、ダゴルが「ガハハ」と笑った。


「スケルトンがやられるのを見ていなかったのか?」


「いや、魔法使いの方がすごいのはわかりましたが、正確な数はわかりませぬが、見たところスケルトンは150体以上はおりますぞ。さすがに無理ではありませぬかな?」


 村長はオルナを見て苦笑いを浮かべたが、ダゴルはそれを聞いて「150体かぁ」とうなずく。それからマケトとパコに指示を出して物資を運び込ませた。


 集会所から出てきた女の人たちと子供たちも手伝うので、俺も行こうとしたらダゴルが「お前はこっちだ」と俺の肩をつかんだ。

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