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緊急クエスト

 パコが「ラピス、よかったでやす」と笑う。


「どうしたの?」


「すまねぇけど、キテオさんがお願いがあるって言ってて、一緒に冒険者ギルドに来てもらえやすか?」


「なにかあったの?」


「緊急クエストだとか……」


「緊急クエスト!」


 俺はピエルを見た。


「ピエル、遅くなりそうだから夕食はいらないってサリヤさんに伝えてくれる?」


「おう、わかった。気をつけてな、ラピス」


「ありがとう」


 俺はパコに連れられて冒険者ギルドに来た。


 ギルドの中は慌ただしく職員たちが動いていて、まるで昼下がりとは思えない。そして、俺の姿を見てキテオが駆け寄ってくる。


「キテオさん、どうしたの?」


「あぁ、村がスケルトンの群れに襲われたらしい」


「なっ?! どこの村?」


「ウィルッチだ」


 確かフォレスティアからウィルッチまでは馬で4時間ぐらいかかるはずだから下手をすると日没に間に合わないね。


「人選は終わったの? 準備は? いつ出るの?」


 俺が質問するとキテオが「落ち着け!」と苦笑いする。そして、近くにいた男が「おい」と言った。


「嘘だよな? お前が探させていた冒険者ってこいつの事か?」


「あぁ、この子だ」


「ふざけんなよ! 村はな……」


 男の人がキテオの胸ぐらをつかんで、すぐにキテオに床へとねじ伏せられた。


 この男の人がスケルトンのことを知らせに来た村人なんだね。だったら怒るのも無理ないよ。村の危機なのにギルドの副マスターが探していたのがこんな子供だとわかれば、頭に来るよね?


「村を救いたいなら黙っていろ! 子供に見えてラピスは単独でゴブリンリーダー率いる80匹以上のゴブリンの群れを倒す腕前だ」


「嘘だろ?」


「嘘じゃない。冒険者ってのは見た目で判断出来ないものだ。神に感謝するんだな。こんなタイミングでこの辺境の街にラピスクラスの冒険者がいる幸運を」


「おぉ、わかった」


 キテオがその人を離して立ち上がると、男の人はそのまま土下座する。


「失礼は詫びる! だから、だから村を助けてくれ! お願いします」


「顔をあげてよ。僕に出来ることならするから」


「本当か?」


 顔を上げた男の人に俺が「うん」とうなずくと男の人は涙を流した。


 グッと胸が締め付けられて、再び焦りが込み上げてきたけど、俺は深く深呼吸をする。


 焦っても変わらない。事態は良くならない。俺は俺のやれることをやるだけだ。


 うん、やれることをやろう。


「すぐに出れるか?」


「うん、出れるけど僕は馬に乗れないよ」


 たぶんこの背丈では無理だ。足があぶみに届かない。かと言って子供用の鞍が乗るような小さな馬ではスピードが出ないだろう。


「それは大丈夫だ」


 キテオがうなずいて俺のうしろに視線を移すので、俺が振り返るとマケトたちとダゴルがいた。


「今日はお休みにしたらさ、これだよ」


「まったくでやすぜ、でも他の冒険者はみんな出かけてやすから……」


「そうね、それにラピスと一緒なら大丈夫でしょ」


 マケトたちが苦笑いを浮かべるとダゴルが「そうだな」と言って「ガハハ」と笑う。


「しかもラピスの秘密がわかるかもしれんからな」


「ダゴルさんは、ずいぶんとお気楽だね」


 俺が呆れるとダゴルは右腕で力こぶを作る。


「あぁ、スケルトンなんかに遅れを取るわけなかろう」


 まあ確かにダゴルさんなら大丈夫そうだね。


「だが、アイアンが出たら、ちとキツイ」


「うん、そいつらは任せて、僕がやるから」


 俺が笑うとマケトたちが呆れ顔になる。


 アイアンなら僕の出番だ。磁力魔法との相性は良い。そのまま磁力で動けなくしてコアを潰せば良いからね。


「おい、殺るって聞こえたのは俺だけか?」


「いや、私もそう聞こえたから大丈夫よ」


「どこが大丈夫なんでやすか?」


 とりあえず訳のわからないことを言っているマケトたちは置いておいて、キテオを見た。


「じゃあ、行く?」


「いや、ちょっと待ってくれ、支援物資と馬を用意している」


 そうか、ポーションと食料、灯りの魔道具など、避難している村人たちに必要だもんね。


「それでラピスはその格好で行くのか?」


「うん?」


「鎧はないのか?」


「うん、持ってないよ」


「嘘だろ?!」


 キテオが目を見開いた。


「おい、子供用の革鎧と籠手を買って来てくれ」


 キテオが近場にいた職員に声をかけて布袋を渡した。職員が走って行くのを見送ったキテオが俺を見る。


「念のためだ。村人たちの命はラピスにかかっているからな。必要経費みたいな物だから金はギルドから出す」


「うん、ごめんなさい」


 しばらくして職員が買ってきた革の胴当てと籠手を見てみんな呆れ顔になった。


「おい、これは……」


「すみません、今はこれしかないって」


「だからってなぁ」


 キテオが頭を抱える。


 わかるよ、どう考えても高そうだもんね。胴当ても籠手も丈夫なブラックベアの革に赤い糸で綺麗な刺繍が施してある。


 これは緊急だからって足下を見られたね。


「キテオさん、これのお金は僕が出すよ。ちょうど鎧が欲しいと思ってたんだ」


 俺が笑うと、キテオは涙目になる。


「ラピス、ありがとな。助かる」


 うん、大丈夫だよ。こんなの経費で落としたらやばいもんね。


「僕の口座から引いといて」


「あぁ、わかった」


 俺はベストを脱いで胴当てと籠手をつける。


 うん、ピッタリだね。胸当てだから大きさはベストとあまり変わらないから動きも阻害しないし、よくなめしてあるから硬いだけでなく適度に弾力があって良い。


 さすがは高いだけあるね。


 そして、馬の準備が出来て出発となったのだが……。


「ちょっと待ってよ、僕ってオルナ姉ちゃんと一緒なの?」


「そうよ」


 そうよ、じゃないよ。


 俺がマケトを見たけど、マケトは笑う。


「ガキが恥ずかしがんな、大丈夫だから」


「えっと、でも……」


 オルナを見るとオルナは首をかしげた。


「私が一番軽いから、馬の負担を考えたら私でしょ?」


 そこでダゴルが俺をヒョイと持ち上げる。


「時間が惜しい、早よしろ」


 そして、俺は馬に乗ったのだが、その乗り方もおかしい。俺はオルナに後ろから抱えられるようにして馬に乗っている。


 いやいや、これはやばいよね?


 やっぱり柔らかいあれやこれやが当たるし、良い匂いがするので本当にやばい。


 俺が赤い顔になったところで俺たちはウィルッチへと向かった。

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