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冒険者②

 俺とマケトが練習場に移動すると、ゾロゾロと冒険者たちが付いてくる。


 まあ、それは構わない。だけどさ「ちょっと行ってくる」と仲間を呼びに行くのはないんじゃないの? それに査定のあいだだけだからすぐ終わるよ。


 呆れながらその人たちを見送ってそれから練習場の端に立てかけて並んでいる木刀から50センチぐらいの木刀を握る。


 振ってみたけどこれはバランスがひどく悪いな。


 何本か振ってみて、まあまあなのを見つけたので、それにすることにした。


 ビュン!


 もう一度振って、マケトを見るとマケトも70センチぐらいの木刀を選び終えたようだ。


「それでルールはどうするの?」


「出来れば寸止めで、とりあえず一本頼む」


「わかったよ」


 練習場の真ん中まで歩いて互いに少し離れてから向き合う。俺が右足を少し引いて片手で木刀を構えると、マケトも構えた。


「じゃあ、行くぜ」


「いいよ」


 俺がうなずく。


 マケトが飛び出して来て木刀を振り下ろすので、俺は半歩だけ身をかわして、木刀を使ってマケトの木刀を斜め下にいなす。


 マケトは「くっ」と小さく言って続けて水平に打ち込んで来たけど、俺はそれを下がりながら打ち下ろす。


 さらにマケトはどんどん打ち込んできたけど、下がったり横にかわしたりしながら木刀を使ってことごとくいなし続けた。


 マケトはまだ若いし、荒削りだけど弱いわけではない。


 だけど、俺は軍で兵士をしながら15年も毎日鍛錬してきたからね。それに魔法は驚くほどに使えなかったからそれを埋めるために剣を頑張った。それでもオークたちには敵わなかったけど……。


 再びマケトが振るって来た木刀を俺が木刀を使っていなしたところで、マケトの体が大きく泳いだ。そこで木刀の剣先をマケトの首に当てる。


「まいった」


 マケトが小さく言うと「おぉ!」と野次馬たちが雄叫びを上がった。


「ラピス、今度は攻めてくれないか?」


「うん、わかったよ」


 俺がうなずくと周りは再び静まり返った。俺とマケトが間合いを取るあいだに誰かがゴクリと唾を飲んだ音が聞こえる。


 そして、俺とマケトがかまえた。


「じゃあ、頼む」


「うん、行くよ」


 マケトがうなずいた瞬間に俺はギュッと踏み込んだ。ズーンと体が加速してすぐに間合いが縮まる。


 マケトが「なっ」と小さく言いながら突き出した木刀を掻い潜って、その首に木刀を当てた。


「マジかよ……」


 マケトがそう呟いた瞬間に先程より大きな叫び声が野次馬からどっと上がった。


「マケト兄ちゃん、どう?」


「あぁ、正直へこむが、これがゴブリン討伐に防具もつけずに出かけて行って、思わず現れたゴブリンリーダーを慌てずに1人で倒しちまう奴のレベルなんだな。勉強になった」


 あっ、そうか。


 俺は自分の姿をみて苦笑いを浮かべた。


 確かに『金の鶏亭』に泊まるための服を着てそのままだったね。


 それに磁力魔法で近づかないで倒すつもりだったからすっかり忘れてたけど。森に行くときは防具をつけたほうがいいかもね。


「あはは、これはね」


 俺がそう言うとマケトは「気にするな」と笑う。


「これが現実なんだもんな」


 マケトが清々しい顔をしているので、俺は「そうだね」とうなずく。


「それに世の中には僕たちでは足元にも及ばない化け物みたいな人たちがたくさんいると思うよ」


「あぁ、そうだな」


 マケトは「ありがとな」と頭をかいた。


「俺さ、ちょっと強くなって来てたぶん少し調子に乗ってたんだ」


「そうなの?」


「あぁ、今日はいつもと違うところで狩りをしようなんてオルナとパコを連れ出してさ。下手をしたら……」


 そう言ったマケトがうつむくので、俺はわざと明るく「そうだったんだ」と笑う。


「でもさ、僕はマケト兄ちゃんのおかげで助かっちゃったよ。ありがとう」


 俺がそう言うと近くに来ていたオルナが「そうね」と微笑む。


「私もたくさん手間賃がもらえそうで嬉しいわ」


「そうでやすぜ、今日はパァと行きやしょう」


 パコも微笑む。


 うん、マケトたちは本当にいい奴らだな。


「でも、まだあんまり森の奥に行かないでね。オークが群れで普通に出るから」


「うぇ、1匹ならなんとかなるけど、群れは辛いよな。やっぱりラピスでも苦戦するのか?」


「そうだね、群れは無理だと思うよ」


「さっきの目で追えないような踏み込みがあってもダメか?」


「うん、たぶんオークの群れを平気な顔で倒せるのは化け物クラスだよ」


 マケトが「そうだな」とうなずくとパコが「ラピスは化け物クラスではないでやすか?」と笑った。


 まあ、最後の踏み込みはズルしたからね。


 あれは磁力魔法の反発を使った踏み込みだ。手で武器を押せるなら、もしかしたら足で地面を押せるのではないかと思ったのだ。


 鉄は地面の中にもあるからね。


「ラピス、本当にありがとな」


「うん、すごい人たちっていっぱい居ると思うけどさ、焦らずに僕たちは僕たちのペースで行こうよ」


「あぁ、わかった。無理はしない」


 マケトがオルナとパコを見ながらうなずくので、俺は「うん」と返事をした。


 慌てた様子で駆け込んできたキテオが終わったと知って「見たかった」と肩を落とす。そして、計算が終わったと言うのでカウンターに戻った。


 慌てて計算間違いとかしてないよね?

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