クエスト②
森を歩いて、2時間ほどでゴブリンの巣になったと言われている洞窟についた。
少し離れた茂みから様子をうかがうと、入り口には確かに見張りのゴブリンが2匹立っていて、木とボロ布とホーンボアという魔物の頭蓋骨で出来た旗印がある。
「間違いないみたいだな」
ここまで来る途中にもゴブリンはいた。
もちろん出会った奴らは片っ端から狩ったので担いでいる布袋には錆びた武器がもう10本ほど入っている
巣を責めている途中で襲われたら面倒だもんね。
重いその布袋とリュックをその場に下ろした。
それから街を出るときに古道具屋で買ってきた4枚の小さな布袋にはそれぞれ15センチぐらいの玉ができるほどの砂鉄を途中で地面から採集して入れて来た。
1つを腰から下げて前のと合わせて2つ腰から下げたけど、残りは3つはリュックに入れておいたからリュックからそれも全部出す。
砂鉄は5袋分全て口を開けて魔力を込めた。砂鉄がサラサラと浮かび上がり浮遊して、いくつかの塊にまとまって小さな玉を80個近く作る。
「行け!」
その中から6個だけを飛ばして、見張りのゴブリンを襲う。
「グェ?」
「ギィギィ」
3つずつの小さな玉に撃ち抜かれたゴブリンが2匹ドタっと倒れると、入り口の中にいたらしいゴブリンが「ギャギャ、ギィィィィィィ!!」と叫んだ。
うん、ありがとね。
「行け!」
踊るように飛び出して来た8匹のゴブリンが俺が作った砂鉄玉に撃ち抜かれて全員倒れる。
「ギィ? ギィギィ」
ゴブリンが警戒したのか、出てこなくなったので、飛ばした砂鉄玉は引き戻しておく。
すると後ろから押し出されるように「グゲェゲェ」とゴブリンたちが再び出て来たので、片っ端から撃ち抜いた。
だけどゴブリンは、倒しても、倒しても、洞窟からわらわらと出てくる。
おいおい、全然20匹じゃねぇじゃねぇか!
次々に倒してゴブリンが山になると、奴らが踊り出てきた。3匹のゴブリンチーフが山になったゴブリンを踏みつけながら出てくる。
「行け!」
俺は砂鉄玉を飛ばしたが、ゴブリンチーフたちはバチバチと盾で弾いて、わずかに当たったところも少し皮膚が赤くなるだけだった。
俺を見て「グケェ?」と首をかしげながらニヤリと笑う。
だけどさ、甘いんだな。
俺は砂鉄を3倍の大きさにして先を矢尻のように尖らせた。そして、磁力を球の周りで螺旋するように展開して飛ばす。
ヒュン!
飛んで行った矢尻型の砂鉄玉が風を切ると、俺を見ながら笑ったゴブリンチーフが頭を撃ち抜かれて倒れた。
「ギィ、ギィ」
「ゲェゲェ」
残された2匹のゴブリンチーフが俺の方に駆け出すがもう遅い。同じように打ち出された砂鉄玉に胸を撃ち抜かれて倒れた。
「よしと、終わったかな?」
予定より多かったが、これぐらいなら問題ない。もちろんこの前までなら死んでただろうけどね。まさに磁力魔法様々だ。
俺は「ふぅ」と息を吐いて、洞窟に近づこうとして歩みを止めた。
背中がぞくりとしたあとで、洞窟から「グゴォォォォォォ!」と声がして、ドシリドシリと足音がする。
「おいおい、マジかよ」
洞窟の入り口から姿を見せたそいつは革鎧を身につけていてとりあえずでかい。
ふんふんと鼻息荒く充血した目で俺を見て、それから血管を浮かせた太い腕で倒れているゴブリンたちを乱暴に払い除けると、自らの腰に差していた反りのある片刃の剣を引き抜いた。
ゴブリンリーダー。
王国騎士団の兵士の時に何度か戦ったことがあるが、集団で戦っても仲間が何人も亡くなった。その手に掴まれて頭蓋骨を粉砕されたり、あの剣で頭から真っ二つにされたり、スパッと上半身と下半身がわかれたやつもいた。
これは……。
考えるより前に体が動いていた。
近くにあった布袋から錆びた剣を取り出して投げつける。だけと、磁力魔法で撃ち出された剣をゴブリンリーダーは冷静に持っていた盾でいなしながら弾いて、ニヤリと笑いながら俺を見た。
クッソォ!
ゴブリンリーダーはゆっくりと俺に歩み寄る。俺はとりあえず袋に入っていた錆びた武器を次々に投げて、さらに地面に落ちている錆びた武器も引き寄せてから投げた。
でもいくら投げても無駄で、剣は盾で弾かれて、斧や槍は剣で斬り捨てられた。弾き飛ばされた武器は洞窟横の土壁や木に刺さり、斬られた物は粉砕された。
俺は槍を空高く撃ち上げる。そして、腰のナイフを抜いて駆け出した。
ゴブリンリーダーの振り下ろしをかわして、追撃のシールドバッシュをよけると、ゴブリンリーダーの懐に飛び込んだ。
ナイフを振り上げて首を切り裂いたが浅い。
ニヤリと笑ったゴブリンリーダーが剣を地面に突き刺して手で俺を捕まえようとしたとき、俺はしゃがんだ。
そこで、ゴブリンリーダーの喉元に上空から飛んできた錆びた槍が深く突き刺さる。
「グゲェ?」
俺が転がるようにその場から離れると、ゴブリンリーダーは前のめりになりながらドスンと倒れた。
「ふぅ、とっさだけど上手くいったな」
俺は磁力で弾いて空高く飛ばした槍をゴブリンリーダーの首をナイフで斬りつけながら磁力で引き寄せた。それにより磁力による引き寄せに高度からの落下速度が加わったことで充分な一撃になったようだ。
「失敗したらかなりピンチだったけどね」
やっぱり磁力魔法を少し検証して、強い敵に対する攻撃方法を考えた方がいいね。
俺はそこから生木の枝を焼いて洞窟に放り込んで砂鉄を板状にした物で蓋をして燻す。空気が入って行くように下を20センチほど空けておけば、洞窟内に隠れているゴブリンが苦しくて這い出て来るはずだ。
洞窟を燻しているあいだは山のように積み上がったゴブリンの解体だ。耳を切り、胸を開いて魔石を取り出す。
「まったく、何が20匹だよ。こんなの日暮れまでに終わる気がしねぇっての」
そんな風に言いながらせっせと耳を切り取っていると、ガサゴソと茂みから出てきたその人たちは俺を見て「嘘だろ」と目を見開いた。
「お兄ちゃんたち、いいところに来たね。手間賃はずむから手伝ってくれない?」
「おい、お前が……あなたが全部倒したのですか?」
「うん、そうだよ」
俺がゴブリンの耳を切り取りながらうなずくと剣士風の冒険者は苦笑いを浮かべた。
「これが噂のガキか? 何者なんだ。ゴブリンリーダーまでいるぜ」
「本当ね、私たち3人が先に来ていたら全滅してたわよ」
「あぁ、まったくでやすぜ」
剣士の言葉に魔法使い風の冒険者が続いて、斥候風の冒険者が大きくうなずいた。
「ねぇ、手間賃はずむからさ、頼むよ」
「あぁ、わかった」
剣士がうなずくと3人は手分けして、ゴブリンの耳を切り始めた。




