武器屋
服屋で買った紺に赤でチェック柄が入ったズボンとベストに着替えさせてもらってから店を出た。
女の子は「ありがとうございます」と頭を下げたあとで「また来てね」と微笑んだ。俺のことを貴族だと思っているくせに距離を詰めようとするあたり、豪胆だし、強かだと思う。
やっぱり商人はすごいね。
俺は旅行バックを持ってその足で武器屋に来た、なにせ錆びた武器は全て売り払ってしまったので、オークを倒す攻撃手段が欲しい。
俺が入るなり、カウンターで暇そうにしていた店主は「今日はどのような物をお探しですか?」ともみ手をしながら寄ってきた「へへへっ」と笑いを浮かべているから、きっと鴨がネギを背負ってやって来たと思っているのだろう。
まあ、どう見ても俺の格好は蝶ネクタイが無いだけいくらかマシだけど、どこかのお坊ちゃんスタイルだから仕方ないね。
「短めでも良いからさ、丈夫なショートソードってある?」
「ございますよ、たとえば、これ」
店主は刀身が50センチほどですごく肉厚な両刃の剣を持ってきた。うん、確かに丈夫そうだけど、持ってみたら重い。
うーん、錆びた剣は一般的なショートソードでしかも錆びてボロボロだったから重量がかなり減っていたのかもしれないね。
もちろん磁力魔法で飛ばせばこれでも問題ないだろうが、持ち運ぶのが大変だし、俺がこれを持ち歩いているのはどう見てもおかしい。
自分の手とその剣を見比べて、俺は思わず苦笑いを浮かべた。
「ごめん、僕にこれは無理だね。ナイフで丈夫な物ってある?」
「そうですね、長さが必要ですか?」
「いや、背伸びしないで僕が扱えるものにするよ、どれが良いかな?」
「そうですか」
店主は頷きながら微笑んだ。
「では坊ちゃん、少し手を見せてもらってもよろしいですか?」
「うん」
俺が手を出すと店主は俺の手を確かめて、カウンターに数本のナイフを出した。
「えっと、坊ちゃんでも扱いやすいのはこの辺りの長さですね、こちらは軟鉄を混ぜてあるので粘りがあって割れにくいです」
その数本の中から店主が進めてくれたナイフは、刀身が7センチ程度のしっかりとした作りの両刃のナイフで、シンプルな作りながら金貨1枚もする。
うーん、前ならとてもじゃないけど買えなかったけど、今は買えてしまうのが怖い。しかもとても良さそうだ。
「おじさん、握ってみても良い?」
「もちろんですよ、お試しください」
俺はそれを握ってみた。
うん、グリップもしっくりくるし、重さもちょうどいい。これを投げてオークを倒すのは無理だけど、武器を持ってないのもあれだからね。
だけど、腰から下げるには少し小さいか?
これを握った感じだと、たぶん刀身10センチぐらいまでなら扱えそうだよね。
俺が店主を見ると店主は小さくうなずく。
「もう少し長さが欲しいならこちらですね」
俺が言わなくても察した店主がカウンターに出したのは刀身が10センチ程度のナイフ、こちらは片刃で狼のような柄が刻まれていた。
おぉ、かっこいいね。
「こちらも軟鉄が混ぜてありますので丈夫です。それに片刃なので扱いやすいかと」
こちらは腰から下げることを想定していて鞘の皮にも綺麗な細工がされているので、金貨2枚だ。
まさかの倍ですか?
うーん、だけど心は完全にこちらに傾いている。だって、こっちの方がどう考えても腰から下げた時に様になるからね。
「坊ちゃん、迷われているなら両方買われてはいかがですか? 戦闘用と解体用に腰に2本刺しても良いですよ」
店主はここがチャンスと畳み掛けて来た。
くっ、確かにそれはかなり魅力的なのだが……店主よ、計画的犯行だな、このために後からかっこいいのを出しやがって……。
俺の迷いを悟ったかのように店主はニヤニヤしてからテーブルに皮ベルトを置いた。
「2本買ってくださるなら、このベルト、坊ちゃんの腰に合うように長さ調節をした上でサービスしますよ」
なっ!
俺は布袋から金貨を3枚出した。
「買うよ、おじさん」
「毎度あり」
店主がニヤリとしたのが恨めしいが、そのあとでベルトの調整をきちんとしてくれたし、ナイフを整備する時は安くやってくれると言うので納得した。
「ありがとね、おじさん」
「お安い御用ですよ、坊ちゃん。整備の際は安くやりますから、またいらしてくださいね」
「うん」
俺がうなずくと店主は微笑む。
俺は腰から下げたナイフを見た。王国騎士団の兵士だった時ずっと、どれも支給品の武器を使っていたから自分で買ったナイフはなんだか嬉しい。
早く使ってみたいね。
という事で、昼は屋台で串に刺さった肉とゴロゴロと野菜の入ったスープを買って広場の端に座って食べて、午後からは森に行く。
かなり散財したので、魔法の練習がてらゴブリンを狩るつもりだ。
出来たらオークも狩りたいが、攻撃手段がゴブリンの錆びた武器ってのがなんとも情けない。
なんとか砂鉄を使ってオークを倒す方法を考えないといけないね。




