俺と洋食屋さんの親父:後編
……本格的な『料理』を作るのは、親父さんの所で働き始めてからだ。
不器用な俺を、親父さんは優しく丁寧に手順を教えてくれた。
1週間後、やっとお店に出す料理は作れるようになった。
「やれば出来るな、遼太。」
「……いえ、親父さんが丁寧に教えてくれたお陰です。」
「お邪魔しますー。」
夏梅がお店にやって来た。
ここのお店に働く事を知っていて、今日は試食をして貰う約束をしていた。
「早速だが、さっき出来たオムライスだ。食べてくれるか?」
夏梅は頷いた。
「いただきまーす。」
夏梅は、俺が作ったオムライスを食べ始めた。
「……え、これ本当に1週間でマスターしたの?凄い美味しいよ!岡元さん (親父さんの名字) のと大差無いね!」
それを聞いた俺は、嬉しくなった。
親父さんも嬉しそうだ。
……実は俺、料理の才能があったのかも知れない。大袈裟かも知れんが。
▪▪▪
事件があったのは、その翌日の事だった。
その日の曜日は授業が早く終わる日で、普段ならその分早めに店入りするのだが……別件の用事が出来て1時間遅れで店に着いた。
「親父さん、待たせしまし……た……」
この時間帯は、夜の開店に向けた仕込み中だが、やけに静かだ。
「親父さーん?」
厨房に入ると、親父さんが倒れているのが見えた。
「だ、大丈夫か!親父さん!」
抱きかかえると、青ざめた様子で、息も荒い。
全身から血の気が引くのを感じた。
……いや、こうしちゃ居られねぇ。
親父さんを背中に背負うと、そのまま店を出て『診療所』の方へ向かい始めた。
(後で冷静に考えれば、救急車を呼べたが、その時は慌てていた。)
3分して、診療所へ着いた。
俺は診療所の扉を叩く。
「遼太です!た、助けてくれ!」
「どうしたー?」
夏梅が対応した。
「お、親父さんが……!」
「おい、マジか!父っちゃん、岡元さんが!」
そのまま、診療室へ入る。
時間外だったが、夏梅の父が親父さんを診てくれた。
「……こりゃ、持病が悪化しとる。こうなると、ウチじゃあ診きれん。総合病院へ送った方がいいな。」
夏梅の父は、そのまま救急車を呼んだ。
(やむを得ない時は、そうする事があるみたいだ。)
その後、親父さんは、何とか大事には至らなかった。
病院の先生には、もう30分遅ければ助からない……と言われた。
「………ありがとうな、遼太。」
意識が戻った後に、お見舞いに行ったらそう親父さんに言われた。
「いえ……」
そう言った後、俺は大粒の涙を流した。
「本当に生きてて良かったっ……!」
▪▪▪
親父さんは俺にとって「大切な事」を教えてくれた。
辛い過去を抱えても、前向きに生き抜こうとする力とか。
人に寄り添える事とか。
前世に居たときと、真逆の人生を歩み始めている。
もしかしたら、女神が俺を転生させた理由は……
過去の俺から、良い方向へ変われると見込んだから……なのかな。