俺と洋食屋さんの親父:前編
これは、ある日の事だった。
今日の放課後は、俺一人。
夏梅は、『学園祭』と言う出し物の担当で、もう少し学校の方に残ると言っていた。
商店街へ赴いた。
お腹が空いたなぁ。……ちょっとした自炊や、ファストフード店でも良いのだが、今日はなんか違う気分だ。
「お?」
『やよろ洋食屋』と書かれた、小さな洋食店を見つけた。
開いているみたいだ。……入ってみよう。
「……いらっしゃい。」
中には、親父さんが一人で居た。
店内は広くはないが、テーブル席が5つ程あり、カウンター席もある。
とりあえず、カウンター席に着いた。
「……これ、『オムライス』をお願いします。」
オムライスを頼んだ。
以前ファミレスで食べたとき、美味しかったから。
「おうよ。」
ものの5分程で出来上がった。
ふわとろの卵……ゴクリ。
「いただきます。」
卵とご飯、あわせて食べてみる。
(これ、凄く美味しい……!)
なんだろう、この感じは。
他の食べ物を食べたときと、違う感じ……。
「美味しいかい。」
親父さんが声を掛けた。
「はい、とても。」
「よかった。真心込めて作っているからな。」
『真心』……確か、嘘偽りの無い事と最近知った言葉だ。
そうか、だからこんなにぬくもりを感じるんだ。
……それを言っちゃあ、ファミレスとか大学の食堂の人達には語弊だが。
「お前さんの顔を見ると、息子の事を思い出すよ。」
「えっ?」
「……あのな、俺の息子は養子だったんだ。」
親父さんが語りだした。
「俺と妻には、子供が出来なくてな。……それで、養子を貰うことになったんだ。息子はな、親から虐待を受けていたし、まともな食事を出さなかったんだ。」
「それは、厄介な人だったんですね。」
「ああ。……初めて持て成したのがオムライスで、食べたら『美味しい』って言ってくれたんだ。その顔が、お前さんそっくりな顔だった。」
……俺は、カウンターの壁に家族の写真が飾ってあるのを見つけた。
「あの、その奥さんと息子さんは?」
その話をしたら、親父さんの表情が少し曇った。
話してはいけないこと、だったのかな。
「……もう、居ないのだよ。この世界にな。」
えっ、もうこの世界に居ない?
「それは、どういう?」
「殺されたんだ、息子の実親にな。」
親父さんは、静かにそう言った。
唖然して、言葉が出てこない。
「もう、5年になるんだがな。……俺が食材の調達に出ていたときに、殺られたんだ。」
その後も、色んな話を淡々と話してくれた。
……余計な事を思い出してしまっただろうか。
その旨を言うと、親父さんは首を横に振った。
「いんや、気にせんでいい。……何かな、お前さんには話しても良いと感じてな。」
▪▪▪
その後も、俺はちょくちょくお店に顔を出した。
親父さんは、その度に嬉しそうな顔をした。
「……あの、親父さん。一人で切り盛りするの大変では?」
ある日、俺はそう言った。
親父さんは、静かに頷いた。
「確かにな、ここ最近は体力の衰えを感じて……休みがちになる。」
「あ、あの。ここで、働かせてください!俺、親父さんの作るこんな旨い料理、絶えて欲しくないから……!」
「……おう、ありがとう。」
親父さんは、その場で了承してくれた。