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第99話 撃技の使い手


見渡す限りの草原ーーそこに2人の勇者が向き合っていた。


1人は空の酒瓶を片手に乱れた髪を直す勇者。名をギル=フェスト。

ギル自身の言葉によると彼の勇者ランクは7はかたいとのこと。今は黒の紙を持っているが、一時フィールドで紛失してしまったそうだった。

何処ぞの親切な者がギルドに届けてくれなかったら、再発行料として金貨30枚も払う羽目になっていたと嘆いていた。


そしてギルの反対側にいるかたやもう1人の勇者。

名をルベルト=フォルティ。

大剣を地面にぶっ刺し、今か今かと対戦の時を待っているようだ。


決着はどちらかが負けを認めるまでと決められたようだ。

対戦の時は間も無く始まろうとしている。


「ギルと言ったな。こんな無意味な戦いはやめないか?」


「なんだあ!? 戦う前から降参ってか!?」


「往生際が悪いぞ、お前も。それとも何か? 戦いたくない理由でもあるのか?」


「いや、私の為ではない、彼の為だ。自分で言うのもなんだが、これでも強い方だと自負している」


豪語勇者はやはり豪語勇者だった。

魔王の城を目指すことがどれだけ無謀なことか、勇者であれば誰でも直ぐに理解出来る。

もちろん、世の中には本気で魔王を討ち取ってやろうと魔王の城を目指す者たちもいることも確かだが、俺の知っている限りほとんどの勇者の消息は不明。

かろうじて魔王の城から逃げ切ることが出来た勇者に話を聞くことも出来たが、身体を震わせ精神がかなり不安定になっていた。

二度と魔王の城になんて行きたくないと、行く前に会った頃とはまるで別人になってしまっていた。


「……戦いの合図を早く出せ」


ここでギルが反論するかと思っていたが、静かにそう告げる。

先程までとはまるで雰囲気が変わった。


誰かの対戦をまじまじと見るなんて、バタリアのテクニック・ザ・トーナメントなどのイベントくらいしかない。

まあ、これはこれで面白い。


俺は地面に落ちてあった適当な石を手に取った。


「この石が地面に落ちた時が合図だ」


そう言って空高く石を放り投げた。

そして重力にそうように石は真っ直ぐに地面に落ちる。


「パティスティスラッシュ! 押し斬れえええ!」


先手を打ったのはギルーー抜刀と同時に大気を斬る。


「へぇ、変わった技だな」


大気には斬道が止まり、ギルが押すような仕草をするとルベルトの方へと向かう。

草原の草が舞い、細かな斬撃の音が鳴る。


「笑止!!」


ルベルトはギルの放った技を避けることなく真正面から受けた。


「馬鹿かてめえ! 俺の斬り相撲をまともに喰らいやがって! そのまま降参しちまええ!」


ギルの放った技はルベルトによって止まるものの、技は消えない。


「ねえあれ……やばくない?」


メアが心配そうに言う。


「大丈夫だ。見ろ、ルベルトの顔を」


ルベルトの身体には斬り傷が付いていくが、表情は笑い、この戦いを楽しんでいるように見える。

血も出ず、さほどダメージはないようだ。


「大した威力だ……だが、私を倒すにはまだ弱い力だ!」


「カッチーン!! 言ったな!! よし、特大の斬り相撲をお見舞いしてやらあ!! オーバラップスリー!」


再び大気を斬り裂き、また斬り裂く。

ギルの手の動きに合わせるようにとどまる斬道が密集してーーそれは放たれる。


「勝負ありか」


俺はギルに旗が上がると思った。


だがその時、空に向かって伸びた赤い光と共に、ギルの放った大技と初撃は一刀両断された。

その斬撃はギルの真横をかすめる。


ルベルトの撃技の解放、考えられるのはそれだ。


騒がしかった草原は一瞬にして静かになった。


「まだ戦うか?」


「た、た、たりめえだあ! まぐれとは言え、やるじゃねえかよお!!」


「……まぐれか。いいだろう。次で終わりにしてやろう」


ルベルトは大剣をしっかりと握り締める。


殺す気は流石にないだろうが、この気迫……本当にランク7か?


ギルもまだ対戦の意思はあったようだが、そのルベルトの気迫に押されたのか、次第に表情から覇気が無くなっていく。


「降参! 降参だ! 俺の負け負け! だから、な? そんな怖い顔してくれるなって!」


ルベルトから気迫は和らいでいく。


「なんじゃあ、まだ見たかったのう」


そう呟くのは俺の後ろでずっと見物していた木こりの爺さん。


「お爺さん、残念だけど勝負ありみたいね」


そうメアが言うように、2人の勇者は持つそれぞれの剣を鞘に収める。


そして互いに一定の距離を保ちつつ、その後、ギルは何も言わずにその場から去り、ルベルトは見届け人である俺たちの元へと歩いて来る。


「いいのか?」


「敗者に何も言うことはない。君たちもこんな戦いを見届けてくれて感謝するよ」


そんな中、戦いの最中黙って観戦していたリトス。いたのかと思うほど静かだった。

リトスは去って行くギルの元へ走って行く。

ギルはそれに気づき、慌てるように走って行った。


「……なんだかんだ言ってあの2人良いコンビになるんじゃないの?」


「そうだな。仲間は必要だからな」


俺はメアに出会う前、ずっと一人で勇者として魔物を討伐し旅をしていた。

だがメアに出会って、そしてセシルが仲間になっていつも思う。

仲間は大切だと。この混沌とする魔物時代に俺は生を受け、一人勇者として生きていくことを決めた昔の自分もいたことも確かだった。


ただそれも、今となっては古い考え方だった。一人勇者として生きていくことに何の意味もないとは言わない。だが時として一人で生きていく人間に訪れる悲しみや苦悩は、分かち合う者がいない分、全て自分自身が背負うことになる。

もちろん、哲学的な意味では一人背負うことには変わりないが、誰かが側にいるだけで背負う荷物は随分軽くなる。


「よっしゃ! では儂の村へ行くとしようか!」


「お前はどうするんだ?」


そうルベルトに聞いてみる。


「そうだな……事のついでだ、私も行こう。君たちに話したかったもう一つのこともそこでゆっくり話すとしよう」


「そうしてくれ」


そうして爺さんの村を目指して進んで行く。





ギルとルベルトの対戦を見届けた俺たちは、3番ゲート北東にあると言う爺さんの村に向かっていた。

間も無くついた村は小さい割に人の行き来が多くて、何故か明らかに勇者と思われる者たちの出入りが多い。


その一人、明らかに勇者ではない村の者が爺さんに話しかけた。


「何話してるんだろ」


「さあな、無事に木を届けたって話でもしてるんじゃないか?」


アイスベルク山脈を挟んであるアスルの村。

今だに爺さんが一人で行くというのは信じられないが、あの小袋のことを知ってしまったからには納得してしまうものがある。


「悪い悪い! 待たせてしまったのう! ほいじゃ行くかのう」


話し終えた爺さんが戻って来た。


「爺さん、この村は何でこんなに勇者が多いんだ?」


ざっと見る限り、国の兵士たちもおらず魔坊壁も張られていない。

まあ、これだけの数の勇者がいるんだ。魔物がやって来ようとも大丈夫なのだろう。


「それも今から行く場所で話してやるわい。ついて来なさい」


村は勇者や村人たちで賑わっており、楽しげな雰囲気が広がっている。

村にこれだけの勇者がいるというのも珍しい。何かありそうだな。


「ん? もしかしてシンか!?」


そう言って呼んできた1人の勇者。

両剣を腰元に携え、深緑の髪に見覚えがある。


「レン! こんなところで何やってんだ?」


「それは俺のセリフだって! シンこそ、そんな美女と可愛い子ちゃん……それにそちらのお方を連れて遥々来たってか?」


「言っとくがルベルトは違う」


「な、なんだ! そうならそうだと言ってくれよ! でも、その2人は否定しないんだな!」


「俺の仲間だ」


ダンダンと地面を踏むレン。


「ねえあんた、シンの知り合い?」


「知り合いなんてもんじゃない! 俺たちは深い、それは深い仲で繋がっているんだよ! なっ!」


「変な言い方はやめろ、きしょく悪い。こいつは昔、たまたま出会っただけだよ。当時の俺と考えが似ていたから意気投合したってだけだ」


肩を回して来たレンを振り払い、メアにそう事情を説明する。


「ふ~ん、そうなんだ……シンにも、そういう人居たんだね」


「居るだろ、それくらい」


俺もメアとセシルと出会う前、1人でずっと旅をして来ていたが、街のギルドやフィールドで他の勇者たちと出会うことだってある。

レンは、俺がまだ勇者ランク2の時に魔物と戦っていた時に出会った勇者だ。

俺が魔物に悪戦苦闘していた時、偶然通り過ぎたレンが参戦した。

そして2人がかりでようやく魔物を討伐し、危機を共に乗り越えた後、互いについて話し合った。

両親を魔物に殺されたという境遇も、村を出たということも同じ、1人勇者として旅をしていたこともあって不思議と通じるものがあった。

今ではすっかり腐れ縁の勇者だ。

互いに進む道は違えど、こうして出会う偶然も神の粋なはからいなのかもしれない。


「いいなぁ勇者。儂も一度、剣を振って魔物を倒してみたいもんじゃ」


「爺さん、それマジで言ってんの? そんなよぼよぼの年寄りが勇者ってわらえーーって痛っ!!」


レンを叩いたのはメアだった。


「お年寄りは敬いなさいって教わらなかった?」


「冗談、冗談だって青髪のお姉さん! そう! 俺はシンと話したいんだよ!」


「レン、あまりメアを怒らせないほがいいぞ。氷の矢を飛ばされる」


「シン!」


怖……と小さく聞こえたレンの声。


「ふぁっふぁっふぁ! やっぱりお主ら仲が良いのう! 羨ましい限りじゃわい!」


「お爺さんまで!」


道行く人々は何を騒いでいるんだとちらちらと俺たちの様子を見ているようだ。


「なあ爺さん、俺たちわざわざ爺さんが村に来いって言うから来たんだ。何もないならもう行くぞ」


「あるある! そう急ぐ旅でもないんじゃろう? ついて来なさい」


「俺も!」


と、レンも混ざって来た。


「ったく……」


俺はめんどくさそうにそう言ったが、内心、昔の俺を知っている人間に久しぶりに会って正直嬉しかったりもする。


その後、村の奥、奥へとその足を進めて行った。


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