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第96話 メリット


フェンリルが襲って来てからどれくらいの時間が経ったのだろう。

ずっと変わることのない白銀の世界は時間の感覚を失わせる。


「貴方達も勇者だったのね」


「みずくせえじゃねえか! 同じ勇者だったら挨拶の一つくらいしてくれよお! にしても寒過ぎるぞこの山! とっとと行ってくれよお馬ちゃん!」


そう言っていつの間にか俺たちの輪の中にいるのは二人の勇者。

一人は女でメアとそう身長は変わらない。

もう一人の男は眉毛に雪が積もり、鼻水を垂らす。


「それにしても貴方、その汚い顔拭いたらどう?」


「どうせ吹いたってまた出ちまう!」


とはいうものの、男はぐいっと腕で鼻を拭う。


「御免なさいね、貴方達。迷惑かけるつもりなんてなかったんだけど……」


「いいえ、そんなことないわ。リトスさん、でしたっけ?」


「ええ。同じ女の勇者として仲良くしましょう」


女勇者リトスはメアに微笑みかける。直ぐ隣にいる男とは3番ゲート行き待合所で出会ったようで、仲間というわけではないらしい。


「けっ! なーにが同じ女勇者だって!? この女装好きの変態野郎!」


「お前男なのか?」


リトスは微笑んだ笑顔を崩さないが、男の方を見るないなやガンをつける。


「バレちゃったら仕方ないわ。ーーそうなの、私は男」


リトスは防寒具のフードを取る。


「……どこが?」


戸惑った様子のメア。


リトスはフードを取っても女にしか見えない。


女性的な顔に栗色の髪。男かどうかも疑わしい。


「これじゃ分からないか……。触ってみる? ここ」


そう言って指を刺すのは下半身。


「け、結構です! 何言い出すんですか!? リトスさん!」


メアが慌てふためいて取り乱す。


「冗談よ、冗談。でも、男っていうのは本当だから。そうでしょ? ギル」


フードを被り直し座る様子も女にしか見えない。そしてギルと呼ばれた男に問う。


「けっ! 色気づけやがって! ああ、正真正銘男だよこいつは!」


「証拠は?」


メアが疑り深くそう聞いた。


「こいつの胸元に手突っ込んでやったんだよ! 間違いなくこいつは男だよ!」


メアが「げっ」と小さく言い、顔を引きつらせる。


「何か女に化ける理由でもあるのか?」


俺の問いに答えないリトス。


「シン、何か事情があるのよ」


メアは小声で俺にそう言う。


「いいわよメアさん。別に隠すことでもなんでもないから。ーー私ね、昔から女と思って生きて来たの。それで、それが変だって分かったのはつい最近のこと。街を出てからずっと一人で勇者をやっていたから。ギルドで仲良くなった人に言われなかったら分からなかったわ」


メアの声はリトスに聴こえていたらしい。


リトスは「ふふっ」と可愛らしく笑い、なおさら男には見えない。


「何、シン。自分で聞いといてまるで興味ないって感じ」


「いや、変わった人間もいるなって思ってだな」


確かめようにも確かめるわけにもいかないし、正直、リトスが男でも女でも俺にはどうでもよかった。

色んな考えの人間がいるのがこの世界だ。人それぞれで良いというのが俺の持論。人の生き方なんて人の数だけ存在している。


「正直な人ね。私、そういう人嫌いじゃないわよ。無理して勇者ランク高く言って自慢げに話す誰かさんとはえらい違いだこと」


「だ、誰がホラ吹きだって!? 言ったじゃねえか! 黒の紙さえ持っていれば勇者ランク7は堅いと!」


ほう、鼻水垂らしの勇者が俺と同じ勇者ランク7。やはり人は見かけだけで判断してはいけないな。


「違うものは違うわ。貴方はランク5の勇者。それも本当か知らないけれど、必死過ぎるからそこは仕方なく認めてあげる」


「んのっオカマ野郎! だったら俺と勝負するか!? そうすりゃ俺の実力を痛い程その身に教えてやるよ!」


ギルは喧嘩っ早いのか自らが持つ剣を取り出した。


「ケンカはやめて!」


そう間に入ったのはセシルだった。


「……なんだお前、獣人が人間様の間に入るってのか!?」


「ひどい! そんな言い方ってないじゃない!」


メアがそう言うが、それでもリトスとギルの間から退こうとしないセシル。


「やめないかお前たち! エボルゼブラが機嫌を損ねたらどうするつもりだ!? 少しは大人しく到着を待っておけ!」


体格の良い男が離れたところからそう言った。


「なんだあ!? えっらそうに! よおし、なら2人まとめて相手してやる!」


体格の良い男もまさかやる気なのか、挑発した男に向かって行く。


「おいおい、言っておいてそれはないだろ。見たところ、あんたも勇者か」


みろ、言わんこっちゃない。誰も止める素振りがないから俺が割って入るしかない。

セシルは一応まだリトスとギルの間にはいるのだが、もうどうしたらいいか分からないって顔だ。

人間年齢に換算するとおそらく14歳くらい。こんな大人たちよりよっぽど大人だ。


「ああ。ーー私の名はルベルト。魔王の城を目指す勇者の1人だ」


これは希少な人間が現れた。魔王の城を目指すなんて俺のようによほどの事情があるか、魔王討伐を夢見る変人か。

さっきの鼻水を垂らしてたギルよりよっぽど強そうには見えるが、1人で魔王の城を目指すなんて無謀もいいところだ。


「魔王の城だと!? お前が!? 勇者ランクはいくつだ!?」


声を張り上げて勇者ギルはルベルトに聞く。


「ランク7だ。魔王を討伐するのは私の悲願。お前のようにぎゃーぎゃー騒ぎ立てる馬鹿とは違う」


「カッチーン! 言うじゃねえか、少しランクが高いからって! よおし、ならこの馬が3番ゲートに着いたらひと勝負といこうか!」


「望むところだ。私とお前、格の違いをその身に教えてやろう。済まないが君たち、見届け人になってくれないか?」


「馬鹿かお前。そんな俺たちに何のメリットもないことを引き受けると思ったか?」


お前ら2人の一戦だ?

勝手にしろって感じだ。


「……そうだな、無理もない。私もどうかしていたよ。魔王を討伐することばかり考えていて、少し躍起になっていたかもしれない」


「……私が言うのも変だけど、魔王の城を目指すなんて無謀だわ。私、シン達がいなかったら行く予定なんて1ミリもなかったもの」


「何!? 君たちも魔王の城を目指しているのか!?」


メア、余計なことを……

みろ、豪語勇者が俺たちに興味を持ってしまったじゃないか。


「あ……いいえ違うわ! ねえ!?」


俺とセシルの方へ振り返るメア。


メア、もう手遅れだ。

ルベルトの真っ直ぐな目。とてもじゃないが、メアが言ったことを俺に取り消すことは出来ない。


「おいおいおいおいおい!? 俺との勝負はどうするんだ!?」


と、鼻水垂らしは言うのだがルベルトの耳には全く届いていないようだ。


「あんた、一度男が勝負するって言ったんだ。引き受けてやれよ」


「うむ、それもそうか。やっても結果は目に見えているが……」


「決まったな! その自信満々な顔崩してやるぜ!」


「言っていろ。そういうことなんだ。済まないが君たち、やはり見届け人になってくれないか? 魔王の城を目指しているんだろう? 本当は誰にも言いたくなかったが世間に出回らない情報を教えてやろう」


俺たちになんのメリットもない情報ならば相手にはしない。


「どんな情報だ?」


一応聞いておこう。

俺に与えられた任務、魔王の城に眠る秘宝を盗む確率を上げる為に少しでも有力な情報は得ていたい。


「いいか、心して聞け。お前も勇者だろう? 聞いても構わないぞ?」


「興味ねえな! ゲートに着くまで向こうに行ってらあ!」


そう言って、鼻水垂らしは離れて行った。


「……全く、馬鹿な男だ。勇者なら興味の一つくらい持ってもおかしくないはず。君たちはそうでもなさそうだな」


「御宅はいいから話せ」


メアとセシルは寒いのだろう。いつの間にか二人一緒になってくっ付いている。


「怖いな。ーー今から半年とふた月ほど前、魔王は自らの配下にいる者たちを遣わせた。6体の地獄の使徒……。今、極秘で魔物撲滅本部の人間達が戦っている」


地獄の使徒ーーそれは魔王の配下にいる6体の魔人のことを指す。魔人の中でも特に脅威とされている。


「それが本当なら人類にとって脅威だな」


「本当だ。私が君たちに嘘をつく理由はない。魔王は業火の種火を既に点火した。人類終焉へのカウントダウンは既に始まっている」


その言葉の現実がいつ起きてもおかしくなかった。

ルベルトを見る限り、嘘をついているように見えない。


「……魔人ってバタリアで見たわよね」


「ああ」


俺がバタリアの街で見た魔人のことを思い出したが、そいつが地獄の使徒かどうかは不明。

勇者が集う街に現れるくらいだ。魔人の中でも上の奴だったのだろう。

魔物にもレベルによる強さの違いがあるように、魔人にもそれが存在している。

地獄の使徒ともなると、その強さは未知数。

ただ、何故バタリアの街で遭遇した魔人のステータスが観察眼で確認出来なかったのか。そこは未だに不明だ。


「バタリアで……うむ、可能性はなくはない。たった一体で悪魔族の束と張り合うレベルの魔人。思考力もある魔人が、そうバタリアに現れることもないだろう。地獄の使徒なんて一体でも現れてしまったら人害以外の何者でもない」


つまりルベルトの言葉から読み取れるのは、強者がいるバタリアにわざわざ単身、魔王の部下が来るかということ。


「……ごくり」


誰かが生唾を飲む音が聞こえた。


「ね、ねえ! 私まだ死にたくないよ!? もちろん、女1人で勇者するって決めたのは私自身よ!? だけど今はこうしてシンとセシルと一緒に旅をして……ずっとそうしていたいって思ってる!」


「勇者は皆同じだ。死にたいやつなんてそもそも勇者なんていう職業にはつかない」


ルベルトに同感だ。ただし一定数、この終わりの見えない魔物時代から身を引こうと死の確率が高い勇者を選ぶような者たちもいる。勇者になるほどの腕なのに勿体無いとはこのことだ。


「……それが世間に出回らない情報とやらか?」


「まだ続きがある。ーー無論、国がそれを放っておくわけがない。もう、何人ものランク8越えの勇者たちが動いていると聞いている」


そんな情報を知っているルベルトは何者なんだという問いが頭に思い浮かんだが、まず話を最後まで聞こう。


「へえ……ランク8ね」


ランク8と聞いて真先に奴が思い浮かんだ。バタリアのテクニック・ザ・トーナメントの大会で俺と戦った勇者ランク8の勇者、クランだ。

あのくらい強いと地獄の使徒の件でも動いていそうだな。


「話はそれだけではない。地獄の使徒を討伐するのはそれは骨が折れる仕事だろう。だが、討伐が成功した暁には勇者としてさらなる自信、力も数段上がる。そんな地獄の使徒の目撃例がこのアイスベルク山脈の先にある」


勇者が魔物を討伐するということは、自身と同程度の相手であればステータスの上昇はほぼ横ばいかやや斜め。少し上の強さの相手であればステータスの上昇率も比例して上がる。

そして、それは格上の相手であっても同じこと。相手が強ければ強いほど、そして、対峙した相手を討伐した時、ステータスの上昇率は跳ね上がる。

極端な話、勇者ランク3なのに勇者ランク5の強さを持つ場合もあるということだ。反面、かなりリスクがあるやり方と言える。


そうして、ルベルトと話しているといつの間にか中間地点に近づいていた。


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