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第91話 ランク7の勇者の力


俺の仲間と後から来た兵士たちとガンハンの手によって、第一軍の魔物は討伐されたのだが、まだ敵の進行は止まってはいない。


「戦いはまだ終わっていない。勇者の旦那とお連れは俺たち兵士の邪魔をしないよう別のところに行ってほしい。ワイバーンとラストコカトリスを倒したのは見事ではあったがカリダ村に来るスライムを侮ってはいけない」


邪魔だ邪魔だと、偉そうな兵士だな。


「そんなことは分かってる。それに俺たちは俺たちの好きにさせてもらう」


「そうよ! さっきから邪魔邪魔って! 私たちがいつ邪魔したって言うのよ!」


そう言われると思っていなかったのだろう。

ガンハンは驚いた様子を見せたが、両手を下のポケットに入れたままメアの方へ行く。


「な、何よ」


「強気な女は嫌いじゃない。さっきの氷の魔法も見事なものだった」


どれだけ詰め寄るんだというほどに近く兵士ガンハン。メアがじりじりと後退りする。


「ふ、ふん! 褒められたって何も出ないから! 行こうシン! セシル!」


メアがスタスタと歩いて行く。


「邪魔したな、俺たちは俺たちで勝手にやるとするよ」


兵士ガンハンはポケットに手を入れたまま一言も言葉を発しない。


その後、俺たちは兵士たちが居ない場所へと移動した。





それからは次第に防衛ラインを突破して来るスライムも増して来た。

兵士たちは皆走り出し、防戦とは名ばかりの攻撃部隊だ。

弓に剣、それら二つの武器を持つ兵士たちは次々とスライムを討伐して行く。

数も数。強くもないスライムにはなす術がないようだ。

しかも、スライムの群れに混ざりいた魔物すら難なく倒している。


俺たちはカリダ村にぴょこぴょこと近づいてくるレベル10から30程度のスライムをただ倒すだけ。

羽も覆う皮膚もないスライムも居れば、牙を剥き出しにしたスライム。真っ赤に燃える火の玉のようなスライムに、角があるスライム……


全てレベル30以下の魔物。

軽くアスティオンで薙ぎ払うだけで絶命していく。

スライムたちもこのカリダ村にあるセルモクラ鉱石を求めてやって来ているのだろうが、此処が人の住む村である以上、入ることは許されない。


ルナの兄ウランの話によると、カリダ村にやって来るスライムの群れはずっと前から押し寄せて来ていたという。

その当時はまだシーラ王国の兵団もおらず、押し寄せたスライムたちはことごとくカリダ村にあったセルモクラ鉱石を取っていったと話す。

ただスライムたちのお目当てがセルモクラ鉱石だけだったようで、人々への被害はなかったそうだ。


そうして間も無くして到着したシーラ王国の一部隊。それが今カリダ村に滞在している第五部隊だそうだ。

スライムはランダムな日にやって来るそうで、例え弱小と名高い魔物でも数の暴力と言わんばかりにその数は一向に減らないらしい。

勿論、押し寄せるスライムたちの討伐をするのはシーラ王国の第五部隊で、現在カリダ村にいる勇者は2人しかいないようだ。


そのうちの1人はルナとマルスと一緒にいた少年メルク。

現在第二の防衛ラインにて第七部隊の兵士たちと共にいるそうだ。


「メア、セシル。この戦いが落ち着いたらもうこの村を出よう」


「そうね。カリダ村にしても、あのヘリオスの村にしても優秀な人たちがいることだしね」


こんな魔物時代に勇者も国の兵団の防衛もない村なんてまあないだろう。

ヘリオスの村は……特殊だ。


「キュッ!」


戦う兵士たちの間をすり抜けて来たのだろう。

見た目はキュートな無色透明のスライムが弾むように俺の前に。


観察眼でステータスを確認するまでもない。

討伐するのはいささかかわいそうだがお前は魔物。


「ほんと、スライムって魔物には見えないわよね」


「見た目はな」


丸い目に切り分けたリンゴをやっと食べれるような口の大きさ。

多くの者が思うだろうーーこの魔物の何処が人間に危害を加えるのかと。


目の前の芝の上にいるスライムは俺がアスティオンを揺らすだけで縮まり込む。

小さい身体がさらに小さくなった。

斬る気も失せる。


だがそれも弱いながらにスライムが獲得した人間に対する心理的誘導だった。

スライムは飛び上がりぐばっと口を広げる。その口の中は無色透明で見えなかったはずの赤い舌。

飛んだスライムの唾液が芝の上に垂れジュッと音がする。


「悪いな、正当防衛ってやつだ」


頭上から振り下ろされた剣ーーアスティオンはあっさりとスライムを真っ二つにした。

芝の上に二つに落ちたスライムから出てくる液体。これはスライムが持つ特有の酸。さっきの芝の上に落ちたスライムの唾液も同じ成分。

ほとんどのスライムが持つとされる特有の酸はじっくりと時間をかけて人間を消化していく。

スライムの捕食は丸呑みが基本。

その為、スライムだからと言って安易に倒してやろうと近づこうものならパックリと食われてお終いというわけだ。

職業が勇者と名乗る者にはまずないことだが、ただの一般人にとってはスライムすら凶暴な魔物に映る。


まあ、だからってこのカリダ村にシーラ王国の部隊が二つもあるなんて大袈裟過ぎるとは思うが。

最もそれは、スライムの他の魔物に対処する為だそうで納得した。


「そっち行ったぞ!」


そう1人の兵士が俺たちの方を向いて言っているようだ。


「あの時のやつか……なわけないか」


あの時ーーまだ情報が集まる街ブルッフラにいた頃、ラグナ平原で遭遇したインプールスライム。流石にあの時のインプールスライムではないが、その強さは体感したからこそ知っている。


インプールスライムが先手を打った。

お得意の矢のように放たれた触手が俺めがける。


が、インプールスライムから放たれた3本の触手はアスティオンの前に宙に舞った。連続して刻むように伸びる触手を斬る。

インプールスライムは瞬時に出した3本の触手を引っ込める。



インプールスライム

LV.58

ATK.55

DEF.69



ラグナ平原で対決したインプールスライムよりレベルは低い。

あの時の俺と今の俺、その差を確かめる相手にはちょうどいい。


インプールスライムはグググっと屈んだ直後、上空高らかに飛んで行く。

カリダ村が近くにあるっていうのにあの高さからの衝撃は若干まずいな。

インプールスライムの得意技と言っていい。


巨人が弓矢を地面に向かって放つかのごとく、的である俺に空中で狙いを定めているようだ。


そして放たれた巨人の弓矢。

兵団の部隊がいなければ間違いなくカリダ村は存続していなかっただろう。

こんなスライム、カリダ村の人々だけで対処できるはずもない。


「1、2……5」


撃技を+5解放させた。


風の流れと合わせるように撃技+5を纏った斬撃が大きく一閃上へ飛ぶ。


それは空中で縦長になっていたインプールスライムに直撃した。


ドンっと斬撃とは思えない音が響き渡った。


「相変わらずすごい斬撃ね」


「これでもまだ50%くらいだけどな」


撃技+5を纏った斬撃が直撃したインプールスライムは木っ端微塵に吹き飛んだ。

あの時の勇者ランクは5で今は7。ランク5だったら今放った斬撃も後1、2発必要だっただろう。


セシルがさっきから一言も言葉を発していない。


「むむむ……セシルも斬撃飛ばしてみたい!」


「無茶言うなセシル。セシルには斬撃にも負けない強い拳があるだろう?」


セシルが自分の拳を見る。


「そうだった! セシルの拳は強い! ーーやあっ!」


拳を握り締め走り出したセシルは、再び上空から防衛ラインを抜けて来たスライムたちを強く跳躍して蹴り倒していく。

流石獣人の脚力。軽く7メートルは跳んだ。


そうしてただただ黒の紙に魔物討伐数が加算されていくだけのスライム討伐と、僅かにいるスライム以外の魔物を討伐していた。


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