第88話 スライムたちが目指すもの
カリダ村。
それは人々が魔物の手から逃れついた地。当時から其処には大小さまざまな岩や石があったそうだ。
それが今このカリダ村にあるセルモクラ鉱石ーー熱を放出し、カリダ村に住む人々が重宝するものとなった。
当時はただ開けた場所を休息の為だけに使っていたようだが、セルモクラ鉱石の効果に着目した人々は村を作ると決めたそうだ。
それがカリダ村が誕生した経緯。
だが、カリダ村で送る人々の生活は決して安泰したものではなかった。
当時まだカリダ村が出来た頃、シーラ王国が村として認めたのは人々が移住してカリダ村を作った後、1ヶ月後のことだったそうだ。
それまで、カリダ村には勇者がいたお陰で魔物から住人たちへの被害は食い止められていたとルナの兄ウランは言う。
間も無くしてシーラ王国の兵団が到着し、カリダ村の人々にも漸く安堵の表情が見え始めた。
シ-ラ王国の兵団がカリダ村に滞在所を築き、入れ替わり立ち代わり今年で5年目になるそうだ。
その間、カリダ村に魔物が押し寄せることは絶えなかったようだが、勇者やシーラ王国の兵団の活躍により存続を可能にしていた。
魔防壁の張れないカリダ村は兵団の三重防衛を敷いた中、今日まで至るとルナの兄ウランは神妙な面持ちで話していた。
ただ、俺はその話をルナの兄ウランから聞いて疑問に思うことがあった。
シーラ王国を含む他の国々も魔防壁が無い村や街の防衛はもはや当たり前の時代。
まだ半年にも満たないカリダ村にシーラ王国の兵団が付くことは何らおかしなことではない。
だがカリダ村に三重にも敷かれた兵団の防衛体制は、言い方は悪いがたかだか一つの村に対しては大掛かり過ぎる。疑問に思うのは自然な流れだった。
しかしだ、それもルナの兄ウランに理由を聞けば納得した。
スライムなんて弱小の魔物にそこまでの防衛体制を整えるシ-ラ王国の第五兵団。
守備に特化した第五兵団ーーその一部隊、第五部隊は30名にも及ぶそうだ。
「ウラン、そのスライムたちのレベルは分かるか?」
「弱いのだと10くらいだって。ーーでもね、気をつけたほうがいい。スライムの大群を侮ると命がいくつあっても足りない。それに、問題はスライムだけじゃない。ロング隊長やルーン隊長、副隊長や他の兵士たちが居なかったらって思うとゾッとするよ。君もルナから話を聞く分には強いのだろうけれど、油断しないことだね」
「言われなくてもな」
レベル10のスライム。そのあたりは問題ですらないのだが、兵団の隊長2人、そして続く副隊長や兵士たち。それほどの大部隊を編成する必要があるカリダ村の防衛。
現在のカリダ村はシーラ王国の兵団が第一の防衛ラインに第七部隊半数。第ニの防衛ラインに第七部隊残りを半数。
そして第三の防衛ラインに第五部隊。
ここまでして大掛かりな防衛。
無論、弱いスライムばかりではないことは知っている。俺がランク6に上がる際、ラグナ平原で討伐したインプ-ルスライム並みのスライムもいることだろう。
あの時のインプールスライムのレベルが66。そう考えれば70、へたをすれば80台のやつもいるかもしれない。
ただ、そうした3つの防衛ラインを引いていても抜けて来る魔物も中にはいるらしい。
カリダ村に入る前俺が討伐したキマイラもそんな魔物の一体だった。
この村に来る魔物の大半はスライム系がほとんどだそうだが、カリダ村が魔物生息域にある以上、他の魔物の侵入は避けられない。
それに、ロング隊長が呼んだ兵士から渡された紙の内容。スライム以外の魔物の存在も気をつけなければならない。
間も無くして戻って来たメアとセシルにスライム討伐の件を説明し、その時が来るのを待っていた。
◇
そして、その時は直ぐにやって来た。
シーラ王国の第五部隊の滞在所が慌ただしくなる。
第七部隊がどうだの、地上からどうだの、通信水晶体を通して会話をしている様子が確認出来る。
まだ、戦闘音は聞こえては来ないが……スライムとの戦いは近い。
スライム。
その個体の数は他の魔物を圧倒し、数百にも及ぶ種類が存在する。
「メア、セシル、旅のついでだ。無茶はするなよ」
「はーい!」
セシルは本当に分かっているのだろうか。
いや、ここは一つ、セシルのことを信じよう。
「セシル、張り切るのも良いけど、危なくなったらいつでも敵から逃げるのよ。それも戦略のうち。敵わない敵に向かっていくほど無謀なことはないわ」
メアのその言葉はまるで俺に言われたような気分になった。
旅の目的、魔王の城を目指していることがどれだけ無謀なことか。もちろん、承知の上で無謀な旅路を歩んでいる。
だがそれも、言い訳してる場合ではない。
少しでも魔王の城に眠る秘宝を盗む確率を上げるならば、このカリダ村に向かって来ているであろうスライムの大軍隊を討伐しまくろうじゃないか。
「こちら第五部隊! 第七部隊2班、応答願います! 状況の伝達を速やかに実施せよ!」
「こちら第七部隊2班! 現在スライム及び、数体の別の魔物が確認出来ます! 戦場はこちらが有利、引き続き第五部隊は待機せよ!」
魔法水晶体の音声が拡張されてかなり広範囲に聴こえて来る。
通常、魔法水晶体は持っている個人と個人が会話する為に作られており、受信側の声は送信側の者にしか聞こえない。
だがこうした戦場において、広範囲にいる他者に聞こえるようにした通信水晶体を、国の兵団の間では用いられることが多々ある。
国の兵団専用の通信水晶体だ。価格も馬鹿みたいに高いとは聞く。
「なんだか、かなりのおおごとみたいね」
「ああ。カディアフォレスト以来の戦闘だ。身体が鈍って退屈してたところだ」
セシルではないが、俺もそろそろ魔物と戦いたくなって来てたところだ。
カリダ村に入る前キマイラと戦ったが、もう少し手応えのあった敵の方がいい。その方が技も磨けるし、何よりステータスの上昇に大きく影響する。最も相手がスライムでは手応えなんて感じないかもしれない。
だが、スライムの種類を考えると骨のあるやつもいる。
俺が勇者ランク7になってからの魔物総討伐数は726体。つまり、後、74体の魔物を討伐しレベル80以上の魔物を一体でも討伐すれば勇者ランクは8。
魔王の城を目指す、その目的がなければここまでの時間でこうも成長しなかっただろう。
「言うじゃないシン。でも、私も同じかな。新しい技も試してみたいし」
「メアの新技? 見たい見たーい!」
「へえぇ、それは気になるな」
メアの魔法は氷を操る。俺のスキルである回り抜けと解錠、接近タイプとは違い遠距離攻撃に長けた能力。
「楽しみにしててよね! 私の魔法は常に進化していくわ!」
「魔法か。僕らも使えたらどんなにいいことか」
「うん。羨ましいよ。私にも魔法の力があればっていつも思う」
俺たち3人がスライムの討伐のことで話し合っていると、ルナやルナの兄ウラン、マルスは蚊帳の外といった感じだった。
「2人ともそんなこと言ったって無いものはないしスライムの大群は来る! 俺たちは俺たちに出来ることをしていようぜ!」
「うん、そうだね。じゃあ、私たちはもう行くね。スライムの討伐、お願いします!」
「まっかせて!」
「セシルがんばる!」
ルナとルナの兄ウラン、マルスは俺たち3人の元から去って行こうとした時だった。
魔法水晶体が受信した音が拡張して鳴り響いた。
「こちら第七部隊2班! 複数体のスライムが第一の防衛ラインを突破した模様! 引き続き第二の防衛ラインの指示を待て!」
第五部隊の兵士が第七部隊2班に応答を返す。
スライムがとうとう第一の防衛ラインを突破したようだ。
そして次にある第二の防衛ラインは第五兵団第七部隊の残りの半数。
その半数の部隊を通り抜けなければ、カリダ村にまでは来れない。
いよいよ戦いの時が迫る中、うずうずとした武者震いが沸き起こった。
スライムか……
ラグナ平原のインプールスライムにしても、昔戦ったことのあるスライムにしても因縁が深いな。
さて、魔物特攻特性を失っているアスティオンで何処まで戦えるのか。
戦いの時を待つとしよう。




