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第41話 死のダイブ


宿屋を出てからメアと別れ、ギルドサルーフに来ていた。

魔物の討伐案件のボードを見ていると、どれもこれも厳つい奴ばかり。

しかもベヒモスの討伐案件まである。


ベヒモスは1個体の大きさが異常で、まず、勇者ランク5程度ではかなわないだろう。

山林を荒らすベヒモスの討伐、必要な勇者ランクは8で3人以上と来た。

これは俺の討伐範囲外だ。


勇者ランク6で、尚且つ、アスティオンを持っていない状態の俺に適した魔物。



【アギラ】


オーロラブリッジに現れるアギラの討伐。必要な勇者ランクは6以上。

報酬は金貨12枚。



アギラは鷲の顔を持つ魔物で、図体は獄炎のように紅い。

個体の強さもばらつきがあり、この討伐案件のアギラは強いほうではある。

必要勇者ランクは6以上となると、レベルは50台から60台後半あたりか。


「アギラの討伐ですね。黒の紙をお預かりします」


受付で黒の紙を渡して手続きをする。

バタリアは巨大ギルドとしても有名で、受付は3つ置かれてある。

そして今、隣の受付で丁度討伐案件が終わったのか、じゃらじゃらと金貨を受け取っている勇者。

三叉に分かれた槍を背中に携え、嬉しそうに金貨の入った袋の中を覗き込む。


「今回ばかりは時間がかかっちまったな」


「ほんと参るよなぁ。あの豚野郎共、鼻息荒くしてしつけえのなんの!」


三叉の槍を持った男の仲間なのだろう。

金貨を受け取って数えている。


「ユランとラックが仲間だったから私何もされずに済んだ」


「当たり前さ! もしエレナに指の一つでも触れて見ろ! 八つ裂きにするだけじゃあ済ませねえ!」


「さっすがユラン! でもまあ、ここらの地域ではわりと出現するって聞いていたし……。さっ! とりあえず今は討伐も済んだことだし朝食タイムと行こうぜ?」


男2人と女1人はサルーフの扉を開けて出て行った。



「お待たせしました」


黒の紙の連動が終わり受け取る。

この作業をしなければ、依頼以外の魔物とそうでない魔物の区別がつかない。

今回、討伐依頼に挙がったアギラの他にも同種はいるだろう。だが、オーロラブリッジに出没するアギラと指定までされていることから、その個体の討伐を依頼主が望んでいるということになる。


「……メアリーさん、確かこの区域は多種族の魔物が現れる場所だよな?」


名前が直ぐに分かったのは、ネームプレートに書いてあったからだ。


「ええ。特に鳥翼族、魔獣族、亜竜族の生息区域になります。どうぞ、お気をつけて」


そうか、魔獣族が出るのか。魔獣族は他の種族に比べて活動的な奴らが多く、それに比例するように被害も多い。

今回の依頼は鳥翼族のアギラだが、多種族への注意は無論必要だ。


ギルドサルーフを出て、南東に位置するオーロラブリッジに向かった。





「あいつらの言ってたことが本当だとすると面倒な相手だ」


ギルドサルーフに居た男2人と女1人のチームの会話。

豚野郎なんて呼ばれる魔物は数えるほどしかいない。

恐らくだが、その豚野郎は魔獣オークのことを言っている。

勇者でもないのに棍棒や斧と言った武器を持ち、その屈強な肉体が向かう相手を翻弄する。

反面、知能は弱く、勇者が作ったちょっとしたトラップさえ気付かない。日中、夜中と関係なく活動する種族。


ただ、ひとつ問題がある。

対峙した相手を躊躇なく襲って来る魔獣オークだが、それが女と分かれば話は違ってくる。無理やり犯し自らの子孫を残す。それが魔獣オークという種族だ。

本来、生物とはつがいとなり子孫を残すが、何故か生まれて来るオークは全て雄。

その為、無理やりにでも犯さないとオークという種族は保たれない。

しかも相手は人間だけでなく、人間に似たエルフや獣人族も対象の範囲だそうだ。


しかし最近の話では、オークという種族が絶滅の危機にあるとも言われている。

それは魔物と敵対する人間側がオークの危険性を危惧したこそからの措置だとも聞く。

この分だと魔獣オークがこの世界からいなくなる日もそう遠くはない未来だろう。

人間を含めてエルフや獣人族にとってもそれは喜ばしいことだ。

この二種族は人間には近いが人間ではない。だが、人間に危害を及ぼすことはなく、人間のように集団の中で生活している。

このバタリア周辺に生活圏はないようだが、度々、獣人族が現れるという話も風の噂で耳にする。


「この鉄剣でどこまで通用するか」


鉄の長剣を抜いて振ってみるが、やはりアスティオンのそれとは全く違う。

風の斬りが重い。

アギラ相手にどの程度通用するか。

しかもだ、オークが出るなんて話を聞けば、鉄の長剣一本で足りるかどうか。

だが、相手は所詮魔獣。

肉厚の体をぶった斬ってやれば、いくら知能が低くても生命の危機本能くらい感じるだろう。


まあ良くも悪くも、オークは攻撃力に長けた魔物。

この辺りだとレベル50台後半は固い。ステータスの上昇に影響はするし、人間に害を及ぼす魔物の駆除にもなる。

ただもともと魔物という存在自体が人間に害を及ぼす。しかし、それでもオークが優先的に討伐されてきたのは人間に害を及ぼす行為が他の魔物に比べて鬼畜だからだ。

国が総力を結集して討伐したいのも頷ける話だ。


アギラのいるオーロラブリッジに向かう際には、バタリア手前にあった岩地を通って行く必要がある。

オーロラブリッジは霧の谷と呼ばれる場所にかかっている橋の名前であり、全長は約180メートルもある。その橋が出来たのは今から50年以上も前の話だそうで、バタリアに向かう商人にとっては必要不可欠だそうだ。

しかし、そんな橋に現れたアギラのせいで、さぞかし商人たちも苦労していることだろう。


もともと勇者になるなんて奴は他の職業に比べて儲かるだとか一躍有名になりたいなんて思って選ぶことが多い。

俺は両親と村の人たちを殺されたという動機で勇者を選んだわけで、魔物を討伐することに躊躇いはない。

ギルドが魔物の討伐を依頼をするのなら、その依頼者の心情を汲み魔物の討伐をする。

ギルド、勇者を通してでないと魔物を討伐出来ない依頼者からすると、憎き魔物は早く消えてほしいだろう。


俺は急ぎ足でオーロラブリッジに向かった。





「ーー霧が深くなってきたな」


オーロラブリッジに近づくにつれて、辺りに霧が立ち込めてきた。

僅か数メートル先の視界でさえも、立ち込める霧のせいで見えない。


そんな中、一際目立つ金色に反射する光が俺の目に入って来る。それは動き、宙へ浮いてしまいには迫って来た。

刃物を擦り合わせたような金属音が響き渡り、俺は向かって来たそれをさっと躱す。



ゴールデンマンティス

LV.59

ATK.70

DEF.41



ゴールデンマンティスは中剣1本分程度の大きさの魔虫。

体全面を覆う金色は神々しくも写りさえする。ゴールデンマンティスを知らない勇者が金塊を見つけたと近寄って返り討ちにされた話も聞く。

それはゴールデンマンティスの狩りの仕方。自らの体を活かして近寄って来る人間を仕留め喰らう。

それが出来なければ複数体のゴールデンマンティスが獲物の逃げの退路を塞ぐ。

魔獣オークより賢い奴らだ。

現に俺の観察眼にはもう2体のゴールデンマンティスを確認している。


面白い。アスティオンを持たない今、どれだけこの鉄の剣で戦えるか。

試させてもらおう。


鉄剣がゴールデンマンティスに振り下ろされる。


だが、交互にクロスする鎌が、鉄剣を受け止める。ぎりぎりと力任せに斬りつけてみるが、振り払われた衝動で鉄剣が弾き飛ばされた。体の大きさの割に力が強いな。

そしてその隙を逃さまいと瞬間的に俺の懐に入って来る。

ただ所詮魔物の考えることなどたかが知れている。魔物にしては馬鹿みたい突っ込んで来ないだけ賢いが、結局は人間を殺すことしか考えちゃいない。


俺は腰元の短剣を抜き取り、両鎌を防ぐ。その勢いで撃技+3を解放して一刀両断。

なるほど、ゴールデンマンティス程度では撃技+3も要らなかったか。手応えがあり過ぎる。

斬ったゴールデンマンティスの血を振り払った瞬間、もう2体が斬りつけて来た。それをバックジャンプで躱して転がる鉄剣を拾い上げる。


「魔虫なのに、防御力がまるでないな」


本来、魔虫という部類は魔物の中でも防御力が高いのだが、ゴールデンマンティスはその体の構造上防御力が低くなってしまう。金というくらいだから硬いかと思いきや、張りぼての体だったということだ。

生き延びる為に金色の体に変化していき、その色に引き寄せられた人間を仕留める。

そんな魔物、俺の相手ではない。


長剣を引き、空を跳んで回転しゴールデンマンティスの体を上から突き刺す。


「ギャアアアアアアアアア!」


喚き、悶え、その両鎌で鉄剣の上に乗る俺を斬ろうとする。やはり、一刀両断くらいでもしないと死なないのか。タフな生命力だ。


そう言えばもう一体いた。

仲間を助けようとでもしようとしているのか、奇声をあげて向って来る。それを撃技を込めた短剣でダーツの要領で撃ち落とす。

なるほど、ゴールデンマンティスくらいであれば撃技+1で事足りる。


時期に生き絶えた下のゴールデンマンティスと他2体。

死んだ魔物から出る死臭を手で押さえ、その場を離れようとした。


「っ!!」


俺は宙に高々と浮いた。

肩に鋭い爪が食い込み血が滲む。

紅い剛毛、人間ほどの体の大きさを持ち、黄色い眼光。

アギラだ。


そして、そのまま……


アギラは俺を谷の底に放り投げた。


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