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第4話 王女の頼み

更新です!


移動した先は豪華な装飾が一層際立つ一室。ただ、一室と言っても一般的な民家一室の3倍くらいか、それ以上はある。


高級感漂う白のソファと光沢のある樹脂仕様のテ-ブルが中央に置かれてある。

そしてまたしても、黄金に輝く大鷹のオブジェが異様な威圧感を放っている。趣味が如何にもシ-ラ王国らしい。


「どうぞ、お座りになってください」


俺はまだ、アリス王女に対して警戒心を解いたわけではない。むしろ、更に増す一方。

ここまで来ても、まだ目的を話さないアリス王女。

そして、この一室。扉は閉ざされており、窓も無く、天井には吊るされている巨大なシャンデリアのみ。

壁はシンプルなべージュ色のもので、ざっと一室を見ても特に変なものはない。


それでも、扉の向こうには先程いた4人の男と、もしくは他もいるかもしれない。

逃げる選択肢は実現しそうにない。


アリス王女が白のソファに座り、どうぞと言われ警戒しながらも俺は反対に座る。


「目的を話せ。何故、俺を試していた?」


「あら、分かっておられたのですね」


俺が戦った2人の男。始め戦った男は俺と同等かもしくはそれ以上。次に戦った長身の男は、俺より遥かに強い。2人とも間違いなく手を抜いていた。

シ-ラ王国の、しかも王室にいた人間だ。俺も初の手合わせだったが、手を抜いて闘う造作など簡単だっただろう。

勇者ランク5。決して高いとは言えない。だが、長年勇者として日々を過ごして来た俺にとっては屈辱的だった。


「質問に答えろ」


「まあ、そう怖い顔をなさらずに。落ち着いてください」


「……いいだろう」


俺は深く目を瞑り一つ深呼吸。今の状況を一先ず受け入れた。

アリス王女はニコッと笑い、立ち上がる。そして、俺の元へ来るなりソファに座り片腕を抱いて来る。


「何のつもりだ?」


「これがかの解錠スキルを持つ手。本当に、本当に素晴らしいです」


アリス王女は目をトロつかせて俺の手を見る。見惚れている、そんな表現が正しい。

俺は現状が理解出来ず、ただ、アリス王女の言葉を待つしかない。


何故、そこまで俺が持つスキルを気にしているのか。

俺は手を振り払いアリス王女の言葉を待った。


「あなたの持つスキル、解錠。私……いえ、シ-ラ王国はずっとそのスキルを探していました」


「国が探していただと?」


「ええ。苦労しました。ただでさえスキルの保有者は少ないというのに……。でも、こうして私達、シ-ラ王国が探し求め続けていたスキルを持つ、あなたを見つけられたことには運命を感じられずにはいられません」


アリス王女は瞳を輝かせて見つめて来る。


「運命だと? ふざけたことぬかしやがる」


「ふざけてなんかいません。分かりませんか? 私のこの真剣さが」


アリス王女は再び俺の右手を強く握り、真っ直ぐな瞳で見る。純粋無垢、一切の穢れを感じない瞳の奥に何を考えているのか。

返ってその穢れの無さを感じさせない瞳に、長身の男と戦った時とはまた違った悪寒が襲う。


「ーー分かりました。では、率直に言います」


アリス王女は目を閉じた後、俺の座るソファの横に腰を落とす。


俺が持つスキル、解錠。スキル保有者の希少性を除けば、さほど珍しいものでも何でもない。

使い道は、俺が牢に投獄された時のように手足の枷の錠を外すか、紛失した鍵の代替えくらいだろう。


「あなたの持つ解錠。それに加えあなたが勇者であるということ。俊敏性、力量、その他の要素を入れましても、あなたにしか頼めません」


アリス王女は体を向けそう話し、再び俺の右手を両手で握る。


「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」


「……お前、正気、なのか?」


「ええ」


アリス王女の返答は早く、まるでそう答えることが決まっていたかのようだ。


魔王の城に眠る秘宝。それが何かは過去に倒されて来た魔王の時代から永く解明されていない。

一説によると、魔王が恐れる神の武器があると言われている。強大な力を持つ神の武器。魔王はそれらを手中に収め、勇者や王国の手に渡らないように城の何処かに隠していると噂されている。


他には、魔物が持ち去った金貨や銀貨、高価な宝石などが山のように眠るとも言われているが、何故、魔物がそんなものを持ち去る必要があるのか。

諸説あるが、それらを求めて魔王の城へ足を向ける人間を食っているとの噂もある。

魔物は好む食べ物も様々だが、好物は人間というのは世間的にも熟知されている。人間の血、それが奴ら魔物にとっては極上の味。


「もちろんただでとは言いません。金貨10000枚、その他、あなたには歴代の勇者と同じ称号を与えます。王室への出入りは許可出来ませんが、私達が出来る範囲のことはして差し上げます」


金貨10000枚。お金目当てで勇者になったものなら飛びつく提案だろう。

おまけに、歴代の勇者と同じ称号を持つとなれば、たちまち有名人だ。ギルド、街、行く王国など……好待遇の扱いを受けることうけあいだ。

それは、今は亡きシーラ王国の歴代勇者の武勇伝を散々いろんな場所で聞いて来たことから分かる。

食事、宿屋の無料化。その辺りの事はおまけ程度で、他にも腐るほどの好待遇を受けていたようだ。

そもそも、それで生活が成り立つのであれば、金貨10000枚の意味は無くなる。


金貨10000枚もあれば、まず手に出せない武器の入手、勿論、当面の生活には困らない。

好条件というのは言うまでもない。わざわざ、危険な魔物を退治する事なく生活出来るのならば願ったり叶ったりだ。


ただ一つ疑問に思うのは、俺のような名も無き勇者にそれ程の待遇をくれるということ。

しかし、シ-ラ王国が欲するスキルを俺が持っていること、魔王の城に行くことを考えると、腑に落ちる話ではある。


「聞くが王女。王女は魔王という存在、その魔王の城にいる魔物のレベルを知っているのか?」


「そこに疑問を持たれるのは当然ですね。ええ、知っています」


平然とアリス王女はそう答える。


「知っていて尚、俺に頼むというのは賭けか? それともまた、試しているのか?」


俺の勇者ランクは5。つまり、魔物総討伐数がようやく500を超えて、レベル50そこそこの魔物を討伐した段階。

フェンリルーー巨大な狼の姿をした魔物で、獰猛性の荒さ、加えて高速な移動をする。

単独での行動を好み、個体数はそれ程多くはない。

しかし、あちらこちらでフェンリルの目撃談が聞かれるのは、その活動領域の広さからだろう。

俺が出逢ったのはまだ幼いフェンリルではあったが、それでも、討伐するまでに数時間はかかった。


そして、魔王の城にいる魔物のレベル。

直に魔王の城に入ったことのある勇者に話を聞く機会はまず無く、話伝いで知る限りではレベル100をゆうに超える魔物が蠢いているらしい。

その上、魔王の城一辺の魔物のレベルも桁違いに高く、並みの勇者は近寄る事すら許されない領域。地獄、そう言われるに等しい場所。


そもそも、勇者ランク5の俺が立ち寄れるような場所ではない。

魔王の城に入るまでに、周辺の周辺にいる魔物と遭遇しただけでも今の状態では瞬殺されてしまう。一人で行くなんて自殺行為に等しい。

そんな場所に、魔王の城に眠る秘宝を盗んで来て欲しいと俺に頼むアリス王女。

イかれているのか、俺に死にに行って欲しいか、もしくはその両方。

俺の理解出来る範囲を超えている。


「何を!?」


すると、アリス王女はおもむろに自らの身体を俺に密着して来た。

引き離そうとするが、アリス王女は自身の両腕を俺の身体に絡め離れようとしない。


「聞こえませんか? 私の心臓の鼓動。こんな高鳴り、生まれて初めてです」


密着するアリス王女の心臓の鼓動が、どく、どくと伝わって来る。その肢体にどれほどの力があったのか、引き離すことが出来ない。パワー型の勇者でない俺だとしても、女性であるアリス王女に力負けするというのか。


……しかしアリス王女、臭くはないのか?


俺はこのシーラ王国に送られる前に、嫌と言うほどゴブリンゾンビ共の相手をしていたんだ。さすがに臭さは薄くはなっているが、それでも、腐敗臭はまだ鼻につく。

悪臭フェチというわけでもあるまい。


……いや、相手はシーラ王国の王女だ。

一勇者では考えられないくらいの価値観を持っているかもしれない。

それ程までして魔王の城に眠る秘宝を欲しているのか。


アリス王女は臭いなど気にしていないのか、俺の胸元から離れようとしなかった。


次回、夕方頃に更新します!

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