第39話 宝剣の特性解除方法
「僕に何か用があったのかい?」
ようやくクランが話し終わって俺たちの方へやって来る。
「ああ。俺は宝剣を持っている。あんたの背負ってるその剣もそうだろ?」
そう言うとクランは驚いた様子を見せたが、微笑し背負っている宝剣を抜いた。
長剣ほどの厚さの剣だが大剣並みに大きく、刀身中央に見えるクロスした十字が輝きを放つ。
「闇を葬る剣、宝剣ルークス」
やはり、クランの持つ剣は宝剣だった。
まあ見るからに名刀。
となると、会場受付で会った男が言っていた宝剣を持つ勇者はクランなのだろうか。
黄色い髪の青年。華奢な体格ではあるが、鍛えられているであろう体が見てとれる。
「そう言えば、君は剣を持っていないようだけど」
「盗まれたんだよ。で、今は大会の賞品になってる」
クランは唖然とし、言葉も出ないようだ。
「だからその大会に出て取り返す予定なんだが……それよりも、宝剣の特性解除方法を知りたい」
そう聞いた瞬間、クランの目の色が変わった。
そして、自らの宝剣ルークスを俺に向けて突き立てた。
「……何のつもりだ?」
相手が魔物撲滅本部の人間で、尚且つ勇者ランク8だろうと関係ない。
クランを睨んだ。
「意外と冷静なんだ。いいだろう、教えてやってもいい」
クランは宝剣ルークスをしまった。
「宝剣は、宝剣同士を交わらせることでその特性を失う」
「それは本当か?」
「本当さ! 現に僕の宝剣は今特性が無い」
と、クランは言うのだが、口では何とでも言える。
証拠、といきたいところだが、わざわざ嘘をつく理由もない。
宝剣同士の交わり、つまり、それが宝剣の特性解除方法。
意外な方法ではあったが、それなら、今目の前にいるクランに頼めば直ぐに済みそうだ。
問題は俺の手元に宝剣アスティオンがないこと。
そうなると、とっとと大会に出てアスティオンを奪還したいところ。
もしくは、こっそりと忍び込んでアスティオンの奪還。
「それが本当なら良いことが聞けたよ」
「本当さ。なんなら、君が晴れて大会に優勝した暁に、僕と一戦してみるかい? 宝剣の特性解除方法を知りたいなんて言うんだ。君も神剣にするつもりなんだろう?」
「……ああ」
やはり神剣のことも知っていたか。
魔物撲滅本部なんてただの国の犬かと思っていたが、しっかり活動しているじゃないか。
宝剣を神剣にする目的の先なんてただ一つ、魔王の討伐に他ならない。
ただそれが放浪の勇者なら話は違うかもしれないが、クランは魔物撲滅本部の人間。
魔物撲滅本部は勇者たちが国と連携し、最終的に狙うのは魔王の討伐。
なるほど、だんだんと繋がって来た。
俺がアリス王女に魔王の城に眠る秘宝を盗めるかどうかはわからないと伝えた時、直ぐに返答したのは、そもそも信用なんてしていなかったからか。
魔王を討伐した後に、ゆっくりと探す。
そんな考えだったのだろうか。
一重にも二重にも策を置いて、確実に魔王の城に眠る秘宝を盗み出す為。
そうなると、俺や魔物撲滅本部以外の勇者にも魔王の城に眠る秘宝を盗むように頼んでいそうだ。
全く、いいように利用されている。
まあ、考えようによってはいいかも知れない。
効率良くステータスもあげるようになったし、順調に勇者ランクも上がってる。
技能も申し分ないほどだ。
ただ、それらも魔王が居なくなれば無の産物となるとも言えるが、完全に魔物時代が終わりを迎えるとも思えない。
能力や技を鍛えておくのは、今後の為にも役に立つ。
「ま、それが実現するかどうかは君次第だね。ちなみに、僕も1週間後の大会に参加する予定。その時は手合わせ願うよ」
そう言い残して、クランは夜のバタリアに消えて行った。
なるほど、ということはどのみちアスティオンを取り戻す為にはどこかでクランと一戦する可能性があるということか。
「シン、ラッキーね! 宝剣を持ってる勇者なんてなかなか出逢わないわよ!」
「そうだな、バタリアに来た甲斐があったよ」
偶然と言えば偶然。
ほんの1日でもバタリアに来るのが早いか遅ければ、出逢わなかったかもしれない。
1週間後の大会。
そこでクランの実力も分かる上、優勝すれば俺の手元にアスティオンが戻る。
そして優勝した暁に宝剣同士を交えれば、アスティオンの魔物特効特性は解除される。
魔人が逃げ出すほどの勇者。
生半可な力では勝てないだろう。
ただクランが言う、宝剣を交えるという意味がどの程度を指しているのか。
まあ、その時にはっきりするだろう。
◇
宿に戻る途中、バタリアで有名な店で食事をした。
じっくりと煮込まれたビーフシチューに、フレッシュなトマトの酸味が際立つチーズのサラダ。
加えてキングサーモンのウォッカのスパイシー塩漬けにパセリライス。
食後のデザートは濃厚なレモンクリームソースの味が際立ったエクレア。
とても、満足出来た食事だったーー。
「チェック」
宿に戻って、気晴らしがてら置いてあったチェス盤でメアとゲームをしていた。
「……また、また逃げ場がないよー!」
メアは頭を抱えて左右に振る。
「俺の勝ち」
ルークがメアの持つキングの行く手を阻み、移動した先には俺のクイーンが待ち構える。
まるでラグナ平原にいた魔物ラーナのように突き進むルーク。
前後左右に直進することが出来て、尚且つ、斜め四方の直進移動も可能な駒クイーン。
言うなればチェスにおける最強の攻撃駒。
上手く行けば相手側の駒の動きを抑止し、こうしてチェス盤のフィールドを制圧する。
自由に動ける駒ならではの強さだ。
「シン、1人で旅してたって言うのにやたら強いよね」
「まあ、成り行きでそうなったんだよ」
と、簡潔短文にまとめるが、実際のところはギルドのマスターとの手合わせによる賜物だ。
俺が強いかどうかは分からないが、今日初めてやり方を覚えたメアには強く見えるのだろう。
「ふ〜ん。じゃ、もうしまうね」
メアはチェス盤を片付け始める。
白と黒の駒がメアの手により箱に転がり落ちていく。
「……ところでさぁ、シン」
「なんだ?」
「今夜……ううん何でもない! おやすみ!」
急ぎ足にメアは部屋から出て行った。
何だったんだ?
メアが暇つぶしにチェスしたいっていうから部屋入れたのに。
結局、本当にチェスしたいだけだったんだな。
「1週間後か……」
テクニック・ザ・トーナメントは1週間後。
思いの外時間がかかる。
ギルドサルーフで魔物討伐に勤しみたいところだがアスティオンがない。
まあ仮にアスティオンじゃなくても魔物を討伐すれば黒の紙には数はカウントされる。
ステータスの上昇も問題はない。
素手というのもありだが、武器屋では武器のレンタルも出来る。
良いものだと買えば金貨十枚程度から、中には50枚という代物もあるがレンタルだと1日銀貨数枚から貸し出してもらえるところが多い。
ただ、問題がある。
今までの俺はアスティオンの魔物特効特性で魔物を討伐して来た。
だから魔物特効特性を持たない剣だと、俺自身の攻撃力で戦うことになる。
ギルドサルーフの討伐案件に挙がる魔物は、基本的に勇者ランク5以上のものばかり。
決めた。明日の予定は武器屋へ行こう。
魔物の討伐くらいなんとでもなるだろう。
俺はほとんどの戦いにおいて技能をさほど使っては来なかった。
しかし今回ばかりはそうもいかない可能性がある。
さて、今日はもう明日に備えて寝よう。




