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第3話 無二のスキル

更新です。


「出ましたね、あなたの真骨頂。初めてお目にかかったけれど、中々のスキルです」


「スキル? 何のことだ?」


「隠しても無駄です。あなたのことは既に知っています」


アリス王女は不敵な笑みを浮かべる。


俺は剣を鞘に戻そうする。


「まだです、次」


アリス王女がそう言い、ラルクが去り、長身の男が歩いてくる。


「まだするのか?」


「言ったでしょう? 力量を知る為だと」


一体何を企んでいるのか。アリス王女は不敵な笑みを浮かべたまま、長身の男に目で合図を送る。


「ゲイル」


「あー、名前なんていい。直ぐに終わる」


「……そうですか」


長身の男は首を横に振り両手を構える。剣は持っているようだが、使わないつもりだろうか。


俺は瞬時に長身の男に近づき頭上を取る。剣を抜く暇なんて与えない。たとえ相手がシーラ王国の戦士でも力の差を見せつけ、先程からずっと上から目線で語りかけるアリス王女の企みを暴いてやる。


「甘い!!」


「かはっ!?」


剣の切っ尖を向けて上空から斬りつけるつもりだった。

だが、あっさりと躱されてしまい、首元を掴まれ空中から床に叩きつけられた衝撃で、背中に激痛が走る。

それはまるで、ライオンが猫を軽くあしらうようだった。

長身の男の表情には未だに余裕が見られ、それ程、最初に戦った男とは桁違いの力を感じる。信じ難い力だ。

男は異常な握力で俺の首元を押してくる。目が笑い、背筋に寒気が襲う。

俺は身の危険を感じ、咄嗟に行動に出る。


「……やはり」


そう小さく呟いたアリス王女は右手の指先を顎に当て様子を見ている。


「はぁはぁ……」


俺は目の前の長身の男から距離を置いてぎろり睨みつける。なるほど、シーラ王国の戦士のレベルは、軽く上級勇者クラスに匹敵することは理解出来た。


「おやおや。いくらスピードがあってもパワーがまるで無い。それでも勇者なのですか?」


そうだ。俺は長身の男のいう通りパワーなんてない。それでも、魔物を倒すのにただパワーがあればいいわけではない。

急所。そこさえ狙えば、俺のようなパワー型ではない勇者であっても魔物を倒すことには困らない。

それは、俺が魔物と戦う度に学んで来た知識、経験値。魔物と対峙する度に力任せに戦うのは馬鹿のすること。


魔物と出会えば、即座に急所の位置を探し確認する。そして仕留める。

それが、ただ力任せに戦わない俺の戦闘スタイル。

それに俺は、魔物に対して力を補える強い味方がいる。

しかしこの無意味だと思える戦いは、勝敗の有無が確認出来れば良いだけ。相手より抜きん出た能力を見せつけ、戦闘意欲を削ぐ。

俺の思考はそこにあった。だが、まさかカウンターを食らうことになるとは予想外の展開になってしまった。

シ-ラ王国の戦士の力の見せつけか。


「お前に勇者のなんたるかを問われる筋合いはない!」


間合いを詰めて再度、斬りかかる。


「やめっ!」


すると、アリス王女がそう叫んだ。

長身の男の動きが止まり、俺も止めた。


「アリス様、もうよろしいので?」


長身の男はアリス王女にそう問う。最後斬りかかった時さえも剣を抜くそぶりはなかった。

恐らくだが、長身の男の強さはそこらの勇者より遥かに上。シーラ王国には、かつて魔竜を討ち取った強者がいると聞いてはいるが、まさかこの長身の男がそうなのか? そう感じ思うほどの戦闘力を垣間見た。


「これ以上の戦いは無意味。彼の力量は理解出来ました。どうぞ、剣をお収めください」


「随分と勝手な姫君だな。まあいい」


剣を鞘に収めると、アリス王女はつかつかとこちらに歩いて来る。

そして、目の前まで来ると俺の両手を握りしめてじっと見つめて来る。透き通るような白い肌は真紅の髪によってさらに際立つ。


一体、アリス王女は何を考えているのか。心の底まで見通すかのようなその瞳は、一度も逸らす事なく俺の目を見続ける。


俺は身を引くような思いで彼女の言葉を待った。



「ようやく、見つけました」


そう言ったアリス王女。

しかし、次第に表情が緩んでいき、遂には笑い始める。


何がおかしいんだ?

次元の違う世界で住んでいる人間の考えが分からない。


ただ俺は一度、アリス王女を見たことがあった。


それは1年に数回行われる王国の演説の時ーー国の情勢、意向、課題、今後の目標など様々なことが大衆の前で説かれる。勿論、シーラ王国の王を含め、王位を持つ人間が登壇する。

そうした演説をたまたまシーラ王国で傾聴したことがある。その時のアリス王女が大衆に語りかける様は、天使のような美声で見る者聴く者を虜にするほどだった。

時折みせる笑みは、いくら王女と言えどもまだまだ幼さが残ってはいたが、それは大衆の前でこその笑顔だろう。

良く言えば天使のような笑顔。

無邪気さというより、作られた笑顔のようにも見えたことを覚えている。


ただ今俺の目の前で笑っているアリス王女。

それは作られた笑顔ではない、心の底から笑っているように見える。

間も無くアリス王女の笑いは収まり、くるりと振り返り歩き出す。


「勇者シン。あなたに、極秘任務を与えます」


「任務?」


「ええ。光栄なことですよ。王国からの任務など、本来は7ランク以上の勇者ではないと頼みません」


ランクとはその名が示す通り、勇者のレベルを表すもの。

アリス王女の言う7ランクとは、魔物総討伐数700を超え、尚且つ、レベル70以上の魔物を討伐した勇者に与えられる。

勇者にランクが与えられるように、魔物にもレベルが存在している。


そして、魔物を討伐する度に記録されていく黒の紙。

それをギルドに提示することで、対価として報酬の受け取りの他に条件を満たしていれば勇者ランクも更新される。

俺の勇者ランクは5。つまりアリス王女の言うように、本来は王国から任務を受ける立場ではない。


「だったら何故俺に頼む?」


「……探していました、あなたが持つスキルを」


アリス王女が言うスキル。

それは、個々の人間に対して極めて稀に発動する能力を指す。およそ10000人に1人の割合で発動するとされる。

能力を持つ人間の希少性は非常に高く、おおかた、名の知れる有名人となっていく。

その為、自身が持つスキルを活かして勇者に転身する者もいる程。

それ程、勇者を生業とする者にとっては己を支えてくれる有難いものとなる。

中には宝の持ち腐れ者もいるようで、ごく普通に暮らしている者もいるそうだ。


「……それが狙いか」


黒の紙の没収による個人情報の把握。

国の権限とは言え、やり方が乱暴過ぎやしないか?


通常、黒の紙は魔物討伐数を記録する為のもの。

それは、過去に存在した偉大な研究者が開発した代物で、個人、つまり、使用者のみが持つ生のエネルギーをまず記録する。

その後、黒の紙に記録した同じ生のエネルギーを持つ個体が、魔物のみが持つ邪のエネルギーを消し去った時にプラス1とカウントされていく。


この黒の紙が開発された発端は、勇者を生業とする全ての人間の平等性を測る為。

それまではギルドより依頼、もしくは引き受けた案件を等の本人がこなしてギルド側によって確認成立後、報酬が支払われていた。

しかしそれは人間による確認作業だった為、勇者との食い違いが多発していた。

勿論、整合性を保つ為に案件にある魔物を討伐されたかどうかを確認する専門の人間ではあった。

ただ、そうした食い違いと合わせて、他の勇者が討伐した魔物を自分のものとする輩まで現れる始末。

この世界において、魔物群の拡大を収める為には勇者という職業は必要不可欠であり、相応にして報酬単価も高くなる。

その為、例え魔物一体であろうとも、金の無い勇者は悪知恵を働かせる。

魔物を倒すのも楽ではないからだ。


最終的な確認は人間によるもの。

悪知恵を働かせた者達は、その人間に媚びさえも売る。

媚びとは、受け取る金貨を分け前として渡すこと。やり方は様々あるようだったが、大半は金銭のやり取りだ。

中には魔物の討伐が完了していない案件に虚偽の報告を行い、不当な報酬を得ていたという事例もある。

魔物を退治する勇者たちへの不信感が芽生え始めたのもこの時期からだった。

そうした一部の勇者により、本当に魔物を討伐している勇者たちにとっては迷惑この上ない話だ。


そして間も無くして開発されたのが黒の紙。

勇者を生業とする者全てに持つことが義務づけられることになった。

これにより一切の不当は無くなり、実力がものを言う職業となっていった。


俺が面倒ごとに巻き込まれた村も、そういった名残の影響があったのかもしれない。

討伐がされていない魔物が村を襲った。十分考えられる話だ。


そんな黒の紙。

記録するのは単に討伐した魔物の数だけではない。ギルドで聞いた話では、どのような手段で魔物を討伐したかを調べることも出来るらしい。

ギルドにはそこまで調べる権限はない。

というより、特殊な手段ではないと調べることさえ出来ないと聞く。

何の為にそんなことをと思っていたが、考えれば直ぐに分かることだ。

黒の紙を持つ使用者のスキルがバレる可能性がある。

討伐された魔物の経緯を見れば、使用スキルの把握率は当然上がる。


およそ10000人に1人の確率で発動するスキル。

隠す必要はないとは思うが、どんな人間が持っているのかと興味ぐらいは持つのだろう。

中には勇者稼業に支障をきたすと隠す勇者もいるようだが、それは俺にも当てはまっていた。


「解錠、見事なものです。そのスキルで手足の枷を外したのでしょう?」


「……」


俺は黙るしか無かった。

スキル、解錠。鍵を必要とする全てのものであれば、解錠によって開くことが出来る。


俺が地下に放り込まれた時も正直な所、直ぐに逃げ出せる状態ではあった。

しかし、既にシーラ王国の中。下手な行動は俺の立場をさらに危めると判断していた。ただでさえ、村に魔物を送った勇者と勘違いされているというのに。


アリス王女が俺の解錠スキルを知っていたのも、恐らくだが牢獄の看守が報告したのだろう。黒の紙だけでは、いくら討伐された魔物の経緯を見てもスキルの把握まで辿り着くのは厳しいものがある。そもそも、解錠は戦闘向きではない。


「そしてもう一つ……」


アリス王女は俺から目を逸らした。


「っ!」


先程、俺の喉元を握りしめて来た長身の男が剣を抜き降りかかる。


「お見事です。流石、2つ(・・)のスキルを持つ勇者」


閃光の如く払われた斬撃を間一髪回避する。


俺はもう1つの保有スキル、回り抜けを発動した。

本来、運良く何らかのスキルを授かったとしても、2つ目のスキルが目覚めることは極めて稀。

ただ、旅路の中で唯一俺の他にも2つのスキルを持つ勇者に会ったことはある。


そして俺が持つ2つ目のスキル回り抜けは、一度触れた相手であればスキル範囲内で瞬時に相手の背後へ移動することが出来る。


俺は長身の男の背後に移動し、素早く彼等から離れた。


「そう警戒なされないでください」


「……俺の事をどこまで知っている?」


アリス王女は不敵な笑みを浮かべたまま俺の方へ歩いてくる。


「ふふ、知りたいですか? でも、それを聞いたところであなたには何の意味もありません。さあ、こちらへ」


案内するアリス王女。

俺は言われるように再びアリス王女の言う方へ移動せざるを得なかった。


次回、夕方頃に更新します。

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