第246話 渇望と支配
「エティネル!! キサマ!! ッ!??」
魔人サタナキアが叫ぶ。が、十字に打たれた光によってサタナキアの動きが止まる。
クランの能力か。
“光化”
俺が初めてその能力を見たのはバタリアでのテクニック・ザ・トーナメント。実際、クランとは戦闘もしたが、別格の勇者はいるもんだとつくづく思い知らされた。
「ボスの心配かい! 君は強いよ。だけど相性が悪かった、チェックメイトだ!」
どれほど長い刀身だろうか。輝く刀身が動けないサタナキアを二度三度と斬る。
そんな様子を見てか、アルギナが持つ長剣を鞘に収めた。
魔物撲滅本部の勇者が2人がかり。アルギナは元魔王群側にいた勇者くらいしか知らないが、クランに関してはたった1人で200の魔物の軍勢を討伐したという。
バタリアに現れた魔人へレムが逃げてしまうほどの勇者。
その力は計りしれなく、サタナキアが手を伸ばすも間も無く力尽きた。
「あいつ、どうなったの?」
「少なくとも死んではいないだろうな」
消えていない魔王の気配。
戦闘を終えたクランとアルギナが寄って来る。
「手を貸すよ」
「いらねえよ」
そう即答で返すと、クランは笑顔で止まるという不自然さ。
「シン! もう誰が倒すとかそういう問題じゃないわ!」
「彼女、分かってるね。そうだ、もうこれは共同戦線で一気に畳み掛ける時」
「……邪魔するなよ」
もちろん、魔王を倒せる確率が上がったことは言うまでもない。
だが、テクニック・ザ・トーナメントのことがあったからか、何故かクランには冷たい態度をしてしまう。
そんな時、辺り一面を照らすほどの光と共に、まるで小隕石と言わんばかりの攻撃が向かって来る。メアが止めようと氷スキルを発動させるが、全く意味をなさない様子。
「魔王め、この城ごと壊す気なのか!?」
アルギナが放った斬撃が回転するように捻れ、向かって来る小隕石を吸収した。
そして数秒後、足元がぐらつくほどの揺れが起こる。
「外に送ったのか」
ここから外は見えないが、衝突音、タイミング的に今まさにアルギナが吸収した小隕石だと思われる。
魔物撲滅本部の勇者はクランにしても優秀過ぎる能力を持っている。
「ーーいつだったか。アルギナよ、お前が我の命令を無視した日、多くの人間が魔人と魔物によって殺されたことがあったのう」
「……さてね、記憶のカケラにもないよ」
一瞬間が出来、アルギナはそう答える。
「ーー我の元に来て知った情報を本部に送っていたのは薄々感づいておったが、その代償は大きかったのう。お前が我の命令を無視せねば多くの人間の命が救えたかもしれないというのに」
「どの口がそれを言うんだよ。お前にとってこの星に住む人間たちなんて、死んでもなんとも思っちゃいないんだろ?」
思わず割って入ってそう言った。
魔王はそんな俺の言葉を聞いて、不敵な笑みをする。
「何を言う。我ほど、お主ら人間共のことを考えておる者はおらぬ。ーー魔物が人間を殺すのはもやは自然の道理。我とて、この星にいる数多の魔物共の行動はコントロール出来はせぬ。ーーだから、我は我が望む未来を人間たちに与えてやろうとしておるのだ。我が望むことはお主ら人間たちにとってもさぞ嬉しいことじゃろう」
俺はこんな邪悪な笑いを見たことがない。
無邪気とも言える魔王の表情は、それらの言葉によって真に迫るような感じだ。
何かをしようとしている、しかもそれは俺たち人間たちの為だと言う建前の上で。
魔王とは初代が現れた時より、地上に住む人々にとって最大の恐怖の対象であり、それは先代、そして現代と時が流れても変わっていない。
過去、多くの勇者が仲間と共に魔王の城に向かったと言われているが、そのほとんどが生きて帰って来た者はいない。
最近ではカサルの地にいた宝剣を持つ勇者が魔王の城より帰還したと本人は言うが、そんなのは奇跡に近いだろう。
「……わけわかんねえことを」
アスティオンを構えた。
すると、魔王が掌を向ける。
「まあ待つのじゃ。此処まで来た褒美として、我が望む未来のことをお主らには先に話しておいてやろう」
◇
魔王が淡々と語るその様に俺たちは絶句していた。
魔王は自らを神と称し、この世の全てを手中に収めるべく壮大なる計画を話した。
その手始めとして、この星に住む人々を自らの支配下に置く。
有能な人間には人並みの生活を与え、それ以外の人間は魔物の餌に。
つまり、人類を奴隷化することが第一の計画だという。
狂っている、そう思っても魔王ならやりかねない。
魔王の話は終わらない。
魔王は自らに従う人間たちを奴隷化した後、魔人の力をさらに凌駕する魔神を生み出すことが第ニの計画という。
俺がそれはこの城の一階にあった石碑に記してあったことか? と聞いたら不敵な笑みを魔王は浮かべた。
そして初代、先代と為し得なかった第三の計画こそ、魔王が最終的に求めていることだった。
宇宙創生。
魔王が神として文字通り全ての上に君臨し、永遠なる命を持ちあらゆる万物を超えた存在となること。その為にまずは、この星を実験台として、魔神を誕生させることが重要だという。
なるほどな。石碑に記されてあった言葉の謎はそういうことだったのか。
魔の根元、つまり魔神。
実に魔王らしい考えだ……が、実現させるわけにはいかない!
そんな他所に、魔王が変化していく。
何処ぞの国の王女と見間違うほどのその美貌は、巨大な龍の身体へと変化させた。
これが、話に聞く……
黒龍。魔竜のような胴体ではなく、何十、下手すると百メートルを超えている胴体は周囲を埋め尽くす。
全てを凍えさせるような冷徹な眼、掴む左手には真紅の玉が見える。
「まさか、黒龍の正体が魔王だったとはな」
俺が古文書で知った話では、黒龍はこの世の秩序を守る為に存在されているとされ、絶界と呼ばれる遥か上の方にある黒龍の巣にいるとされていた。
だが、シーラ王国隣接街を出て出会った男2人の話によると、黒龍の巣が崩壊したらしく、それが魔王と何らかの関係があると知ったのはブルッフラの情報屋から得られた情報。
それももう随分前の話だ。
「正確にはそうじゃない。魔王は黒龍の力を取り入れたんだ」
アルギナがそう言った。
「それが本当なら、脅威もいいとこだな」
黒龍なんてのは、所詮は古文書だけの存在だと思っていた。
それが、こうして現れてしまうと人間で倒せるレベルなのかと思わざるを得ない。
が、そうも言っていられない状況。
アスティオン、神剣となったお前の力、存分に使わせてもらう!




