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第22話 意外な過去


魔物討伐ゲームが始まってまだまだ日は明るい。まだ、倒し足りない気もするが十分だろう。


「戻るか」


体から放出される微量の魔力によって動く懐中時計は、タイムリミットの時刻を指していた。


そして、ブルッフラ南正門に帰る途中にも数体の魔物と遭遇した。アスティオンの斬れ味は落ちることなく、むしろ以前より増した気がする。

良くも悪くも、俺的には倒した方だとは思うーー。




「シン!」


心配そうに駆け寄って来たのはメア。服装は少しばかり汚れており、彼女もまた、魔物討伐に勤しんだ様子が見られる。


「ちょうどいい時間だ」


反面、マラルとジャックはゲーム開始前と何ら変わらない様子。余裕の表情を浮かべる。

悔しいが、魔物総討伐数が多い彼等にとって、この辺りの区域の魔物など相手では無かったのだろう。

幸いだったのは、スカルエンペラーのような高レベルの魔物に遭遇しなかったこと。レベル60近い魔物は数体いたが、問題はなかった。


その後、黒の紙に記録された今回の魔物討伐数をそれぞれが確認する。ゲーム開始前の魔物総討伐数から現在の総討伐数を引く。


俺は17体、メアは14体、合計31体。

マラルは39体、ジャックは28体、合計67体。

結果は見ての通り、俺たちの負けだった。倍以上近い差がある。


「はっはっはっは!! 圧勝だぜえ!!」


「俺達相手によくやったさ。だが負けは負け。約束通り俺達と酒は飲んでもらうぞ、青髪の女」


メアは悔しそうだ。それはそうだろう、勝手に酒場で話しかけて来て勝手なゲームを言い出す。俺が言うのも何だが、ゲームを受けてしまった以上は仕方がない。負けてドロンじゃあ笑い者。


俺たちはブルッフラの酒場へ移動した。





「流石に討伐数が違いすぎたな」


「そうよ! 少しはハンデくらい欲しかったわ!」


やはり、魔物総討伐数の差は大きかった。

馬鹿真面目にゲームを受けた俺たちも俺たちだが、メアの言う通り少しくらいハンデがあった方が丁度良かったかもしれない。


「それは悪かったな。……そうだな、だったら1つ、欲しい情報をくれてやろう」


なんだ、結局教えてくれるのか。

それなら、せっかくだから絶対知らないであろうことを聞いてみようか。


「聞き分けがいいな。なら聞く。ーー魔王の城に宝はあるのか?」


と、そう大して期待もせず単刀直入に聞いてみた。


その時、俺の言葉を聞いていたのだろうか隣や向かい席にどよめきが起こる。やはり、場違いな発言だったか。

しんと静まり返った周辺、俺はマラルの回答を待つ。


「ある。……だが、お前程度の勇者では魔王の城に入ることさえ叶わない」


ある、マラルはそう言った。後の回答は、所詮多くの勇者に当てはまること。今更、気にしても意味はない。解決策は魔王の城に入れるくらい強くなるしかない。


「その宝は何だ?」


「質問は1つだけと言った」


質問の仕方を間違ったか。

魔王の城にある秘宝の正体は何だ?

そう聞いておけば秘宝の存在も正体も知れたかもしれない。


いや、そもそもだ。何故、マラルが魔王の城の秘宝のことを知っているのだろうか。

今回の魔物討伐ゲームを含めても、総討伐数は800はいかない。高く見積もって勇者ランク7。

まだ、魔王の城の魔物と戦うには足りないランクだ。


「なんだあ? やけに気にするな。まさか本気で魔王の城に行こうってのか?」


ジャックは大ジョッキに入ったビールを片手にそう聞いてくる。


「だったら何か問題でもあるのか?」


「はああああ! 馬鹿な勇者がまだ居たぜ! そんなに命が惜しくないならな、俺様がお前を今すぐここで殺してやろうか!?」


持つビールを乱暴にテーブルに叩き置き、ガタンっと立ち上がり太い腕を振り上げる。


「おい! やめろジャック!」


「マラル止めるな! 俺様はな、こういう命を粗末にするような奴がこの世で一番大嫌いなんだ! その女々っしい考え、俺様がぶっ潰してやる!」


ジャックは腕を大きく振り上げて殴りかかって来た。


女々っしい考えなんて、言ってくれるじゃないか。俺はただアリス王女に頼まれた任務を遂行しようとしているだけなのに。


「お前ら! 乱闘なら店の外でやってくれ!」


酒場の店主が叫ぶ。ただ、次の光景を見た店主は口を開けて呆けていた。


「コイツ! いつの間に!?」


俺はスキル回り抜けを発動し、ジャックの背後に回った。


「……ほおう、何かの能力者だとは思っていたが、そんな能力だったのか」


「まあな。それよりお前、メアと楽しく酒飲みたかったんじゃないのか?」


そう言うとジャックはどかっと椅子に座るなり、またビールを飲み始める。急に無口になり、楽しそうには見えない。


店内にいる他の客も何事かと見ていたがそれぞれに話し始める。中には、まだこちらの様子が気になっているのか見ていたが、何も起きなさそうと判断したのか連れらしき者と店内から出て行った。


「シン、そう言ったな?」


「ああ」


何だろうか、マラルの雰囲気がさっきと少し変わったような感じがする。


「魔王の城の宝のことは気になるだろうが、それは自分の目で確かめるといい。それ以外のことなら、俺たちが知っていることを話してやっても構わない」


彼等の魔物討伐ゲームを受けて良かったと、素直にそう思った。

意外過ぎることだったが、マラルは一体何を話してくれるのだろうか。


マラルは注いであったビールを一口飲み、口を開いた。





「ーーこれで分かったろう? 俺たちが仕掛けたゲームにすら勝てないようでは、魔王の城には行くべきではない」


マラルは長々と話してくれた。


その内容はマラルもジャックも過去に魔王の城を目指していたということだった。

そして、話の中にもう1人出て来たのがスレッド=ウォーカーという人物。

勇者ランク9の実力者だったようで、驚くべきことに彼もまた俺と同じようにアリス王女から魔王の城に眠る秘宝を盗み出すように頼まれたようだった。

しかしそのスレッドでさえ、魔王の城周辺にいた魔物に殺されてしまい、マラルとジャックは運良くその場から逃げることが出来たそうだ。


「忠告は受け入れる。だが、それは俺が決めることだ」


「シン! 待ってよ!」


マラルとジャックは俺たちを止めなかった。それは、俺がアリス王女から魔王の城に眠る秘宝を盗み出すように頼まれていることを言わなかったからだろうか。もしくは、自分たちがいくら何を言おうと俺が魔王の城に行く決意を察したからだろうか。

自分たちが入れなかった場所に、勇者ランク5程度の俺が行けるわけがないと心底思ったことだろう。

だが、それでも俺は魔王の城に行くと決めた。この先、何度も何度も笑われたり、やめたほうがいいと言われるに違いない。


「シン、あいつらの肩を持つわけじゃないけど、私もやっぱりそう思う。魔王の城の宝だなんて、無謀もいいとこだわ」


メアがそう言いたくなる気持ちはセイクリッドで会った時から変わってはいないのだろう。


魔王の城ーー別名、勇者の墓場とも言われている。

確かに昔の話では勇者となった者は必ずと言っていいほど魔王の城を目指していたという。しかし、帰らぬ勇者の数は増える一方で、遂には行っても無駄という風潮が世間に流れ始めた。

そして今、魔王の城を目指す勇者は激減しており、それを口に出せば変人か奇怪な目で見られるのがオチ。


ただ、俺には魔王の城に行ってその場所に眠る秘宝を盗み出すという任務がある以上、変人に見られようがなんだろうが行く。それはアリス王女、もといシーラ王国から頼まれた任務ということもあるが、今はこの心のモヤモヤを晴らしたい気持ちが強いというのが本音。



その後、メアとギルドリベルタに向かった後、今回行った魔物討伐ゲームの報酬を受け取った。


「随分討伐されましたね、お二人共。ですが、まだ今後も注意はお願いしますよ」


「レイチェルさんも、身体に気をつけて頑張ってください」


レイチェルに話を聞くと、ギルドは再開しているということだった。ブルッフラにはシーラ王国の調査隊が送られて来たようで、ギルドの停止となった原因の高レベルの魔物の出現は一時的なものだったと判断が下されたようだ。


ギルドの受付も大変な仕事だ。先日の高レベルの魔物出現の件のように、急いで黒の紙の報酬処理を行う時もある。勿論、俺の知らない大変なことは他にも沢山あるのだろう。


受け取った報酬は布地の袋に詰められており、俺たちは今後の予定も兼ねて宿に戻った。





「でも、あいつらのゲーム受けて良かったかもね」


「そうだな。ランク上げの助けになったし、こうしてお金も入った」


布地の袋を開けて再度確認すると、50枚以上の金貨がある。これからの旅の資金としては上出来、十分過ぎる量となった。それに、勇者のランクアップに大きく進んだ。後、7体の魔物を討伐して尚且つ60から69の魔物を討伐すれば俺は晴れてランク6の勇者となる。


しかしこの勇者ランク。これはあくまでただの指標に過ぎず、黒の紙で更新したからといってステータスの上昇が起きるわけではない。ステータスの上昇は、あくまで討伐した魔物のレベルに応じて徐々に変わっていく。勇者のランクが活きるのは、ギルドの案件を受ける時か、俺がシーラ王国から任務を受けたように国がみる時だ。


だから俺の今のステータスを見ても、正直まだまだ魔王の城に入るにはほど遠い。



ATK.86

DEF.77

AGL.118



ATKは攻撃力、DEFは防御力、AGLは回避率や素早さのこと。

自分のステータスは、黒の紙のように目視することは出来ない。

自分に問うことで、脳内に返ってくるそれぞれの数値が答えだ。

自身のステータスは観察眼のように魔力を消費することなく確認出来る。


その為、どういった魔物を討伐すればどのステータスの上昇が起きたのかも直ぐに分かる。


俺の素早さは勇者ランク5にしては高い方だ。

問題は攻撃力だが、それはアスティオンの特性である使用者の攻撃力50%を加算する事で補えてはいる。

しかしこの先、アスティオンを神の武器へとする為には特性を使ってはいけないと情報屋のアンナに聞いている。ただ、未だにその問題は解決していないが。

暫くはアスティオンの特性の事と、勇者ランクを上げていくことが課題だ。


幸いなことにブルッフラには情報も集まってくるし、ドロウスバットといった少数の魔物を除けば十分にステータスの上昇に影響する魔物も数多く生息している。


ランクアップも兼ねて、俺とメアは宿にさらに2日の宿泊予定を提出した後、ブルッフラで今後の為の情報収集を行うことにした。


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