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第19話 女勇者、仲間になる


酒場に行けば昨夜の情報屋がいると思っていたが、居たのは俺たちに魔物討伐ゲームを持ちかけて来た男たちだった。


そして今、再びギルドリベルタに来たのは今後のことについてだ。

どうやら、ギルド再開の見通しはまだ立っていないようだった。現在、高レベルの魔物が案件の最中に出てしまった以上、各ギルドも同じように一時停止しているという。ただ一部、高レベルの魔物討伐を請け負うギルドでは今までと通常通りということ。


「ランク上げはしばらくお預けね。まあでも仕方ないよね。誰も、あんな高いレベルの魔物が出るなんて思ってもみないことじゃない」


メアが椅子に腰掛けながらそう言った。


そして今回の高レベルの魔物出現の話以外のこと、黒龍の巣の崩壊に関する話は受付嬢レイチェルの口からは一切出て来なかった。

その為、スカルエンペラーの出現は一時的に起きてしまったことだと今は話が進んでいるようだが、その裏で起きている事実かもしれないことを俺がベラベラと話すわけにもいかない。

もし、本当であればどうして俺が知っているのか問い質されるだろうし、嘘であればそれはそれで問題になる。

黒龍の巣に関する話題なんて、情報の内容もさることながら情報の出処は大概は怪しいものだ。

とまあ、俺は怪しいながらも橋の上で男2人から聞いたわけだが……それは、今後の旅で必要になるだろうと思っての行動だった。


「それも本来は国が管理することなんだがな。こういう対処出来ない事態が起きても、俺たちにはどうすることも出来ない」


それは、いくら黒の柱による魔物生息区域を日夜確認していても、全ての魔物が今何処にいるのかは把握出来ないのが現状。

黒の柱は魔物の邪のエネルギーを捉えてその現在地を確認する為のものではあるが、行動範囲が様々存在する魔物の位置を全て把握するのは至難の技。


「だけど私たちは勇者よ? 魔物を倒して人々を守る! 黙って何もしないなんて、少なくとも私には出来ないわ!」


そう高らかに宣言するメアは、テーブルをダンッ! っと叩く。


「それで、どうするんだ? まさか、今から1人で魔物退治でも行くのか?」


そう言うとメアは目を瞑り、開ける。


「シン。私たち勇者はたとえどんな魔物が出てこようと、引いてはいけない時だってある。その為にもいっときも早くランクの高い勇者になって、臆することなく人々を助ける! それが、勇者である私たちの努めよ!」


「……ご立派なことだな」


「シンは違うの?」


「いや、似たようなものさ」


なるほど、メアは随分と正義感溢れる勇者のようだ。俺はどちらかと言うと、選んだ職業、つまり勇者が適していたからなったというだけ。それは、身体的能力をフルに活用出来ることだったり、よく言えば自由奔放に旅が出来ることだったり、宝剣であるアスティオンを持っていたことだったりする。


そして、メアの言う通り人を助けることが向いていなければ、対峙したくもない魔物を討伐する勇者など選んでいなかっただろう。

勿論、リスクだらけの職業ではあるが、勇者として今まで続けられて来たということは選んだ道に誤りはなかったのだろう。


そうして俺とメアは一時別行動をする為、リベルタを出た後一度解散した。





その日の夜。俺とメアは集合し、昨夜の宿と同じ場所に来ていた。


「ーーで、何でまたいるんだ?」


メアは昨夜と同じように俺の部屋に転がり込んで来て、椅子に座って寛いでいる様子。

手に持つカップの中身は泊まっている宿で無料で提供されている珈琲。


「気にしないでよ! 同じ旅仲間でしょ? あっち!」


飲んだ珈琲が熱かったのだろう、直ぐに持つカップをテーブルに置く。


メアが俺の部屋に来る理由は何となく分かる。俺も勇者として1人旅をしていると、ふと闘いから離れ床に就く時、もの寂しくなる時もあった。

両親を早くに亡くして、家族も、仲間と呼べる存在もいない。

人間子1人、寂しくないわけがない。メアに家族や仲間がいるのかは分からないが、1人で旅をして来たというのだ。少なからず、俺と同じように寂しい思いをして来たのだろう。


「好きにしろ」


ぽかんと口を開けるメア。そんなに意外な言葉だっただろうか。


「うん! そうする!」


そう嬉しそうにするメアは、少し冷めて来たであろう珈琲を啜るように飲む。

そして、俺もメアが持って来てくれた珈琲を飲んでみる。

一口、仄かに漂う珈琲の香りはやはり落ち着く。珈琲の香りは、リラックス状態の時に現れるα波が増加して、手軽安価にリフレッシュ出来る最適な飲み物。

勇者として日々魔物と対峙していると、休める時なんてこうした時間くらいと数えるほどしか無い。


「ところでさ、少し気になるんだけど……」


「何だ?」


「シンは何で魔王の城なんかに行こうとしてるの?」


「……それは」


やはり、一緒に旅をするとなればそろそろ気になって来る頃だろうとは思っていた。だが、アリス王女から頼まれた任務を言ってしまってもいいものか。アリス王女は誰かに言ってはいけないとは言わなかったが、返答に少々困る。


「言いたくなかったら話さなくてもいい。……だけど、きっと何か理由があるのよね?」


メアは持っていたカップをテーブルの上に置いて、じっと俺の方を見てくる。言ってほしい、まるでそんな言葉が聞こえるように。


「シーラ王国の……アリス王女に頼まれたんだ。魔王の城に眠る秘宝を盗んで来てくれって」


話していいものか迷ったが、旅の目的を話すくらい構わないだろう。別に誰かに話したからと言って目的が果たせなくなるわけではない。いや、そもそも目的が果たせるのかも怪しい任務だというのに。


「アリス王女ってあの!? ……あっ! だからセイクリッドに……」


メアも話の流れで勘付いたのだろう。セイクリッドはシーラ王国にある。俺とメアが出会った経緯を思い返せば、容易に想像できる。


「まあ、今回の旅は目的があって助かるよ。普段だったら適当な魔物倒して目的もなく暮らしていたからな」


もし、アリス王女が俺に魔王の城に眠る秘宝を盗んで来て欲しいと頼まなければ、刺激がないとは言わないがあてもなく魔物を討伐する日々が続いていただろう。

始めのうちは、何故俺がそんなハイリスク過ぎる任務をしなければいけないのかと思っていたのだが、時間が経つにつれて少なくともポジティブに考えるようになっていた。


「……そうだったの。ーーシン、私じゃなんの力になれないかもしれないけれど、これからはひとりの仲間として旅に付き添わせてほしい……なんて」


メアは本気でそう思っているのだろうか。セイクリッドで魔王の城に行くことを話した時はかなり驚いた様子だった。

魔王の城は多くの勇者が避ける場所であり、みすみす命をかけてまで挑む人間は少ない。それは、初めて会った時のメアが言っていたように、勇者になったからといって魔王を倒す必然性がない時代だからだ。

勿論、今回俺がアリス王女から頼まれた任務は魔王を倒すことではなく、あくまで魔王の城に眠る秘宝を盗んでくることではあるが、魔王の城に行くことには変わりない。


「……分かった。だったら、俺はもう何も言わない」


これから魔王の城に行くまでに自分の命は自分で守らなければならない。それは、俺もメアも勇者ランク5とまだまだ実力的に不足していることに加えて、他者と旅をしたことのない俺にとっては正直なところ重荷でしか無い。

しかしそれは、魔物を討伐して尚且つ相手をする魔物レベルを上げていけばしっかりと実力は付く。そうなれば、互いに助け合えるという絶妙なバランスが生まれて来る。まあ、これはあくまでただの考えではあるが、うまく行けば魔王の城の秘宝を盗めるかもしれない。


ただ、それまでに2人というのはやはり心許ない。せめて、後もう2、3人の高ランクの勇者か同等の実力を持つ者の助けが必要だ。

メアが何処までついて来てくれるのかは分からないが、俺としては旅について行くと言った彼女の気持ちは素直に嬉しかった。





それから三日後の早朝、俺はアスティオンを取りに行く為に武器屋に向かった。

アスティオンは見事に修復されており以前となんら変わりのない姿で俺を出迎えてくれた。

そして、費用は金貨10枚と思っていたより安く済んだ。ただ、本来なら金貨20枚は必要だと言うことだったが、安く済んだのは武器屋の店主のご好意だ。

その代わり、直した剣でどんどん魔物を討伐してくれとのことだった。

たった金貨10枚で済んだのも、綺麗に折られていたことが大きな理由らしい。


「良かったわね、ちゃんと直って」


「ああ、これで心置きなく魔物を狩れる」


持つアステイオンを振り払ってみると、気の所為か前より軽くなった気がする。


「ちょっと、街中で武器の使用はダメって言ったのはどこの誰かしら?」


そうメアに注意されてしまい、直ぐにアステイオンを鞘に入れた。


鞘に剣が収まっているとやはり落ち着く。勿論、全ての戦闘をアスティオンに頼っているわけではないが、それでも、あるとないとでは心持ちが全く違う。


歩き始め、俺たちはブルッフラの南正門へと向かった。


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