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第17話 ギルドの停止


「シン!」


薄い青髪を靡かせて駆け寄って来たのはメア。

何度も言うが、彼女は俺と同じ勇者ランク5。だがしかし、至って普通の美少女。とても、剣で魔物を斬れるようには見えない。


「また、何かあったのか?」


「またって、それが原因でこうなっているんじゃない!」


どうやら、この騒ぎは昨夜のことが原因らしい。リベルタの入り口からは長い列と、その周辺には深刻な表情を浮かべる者達も。


「もしや、あなたが噂の勇者?」


そう話しかけて来たのは、梟のシンボルマークを服に付けた男。


「……そうだが、何故、王国の人間がこんな場所に?」


「やはりそうでしたか! 私はですね、少しこの街に用がありましたもので。そしたら、この近くの森で死の谷にいるはずの魔物が出たなんて聞くものですから。国の人間としては放ってはおけませんからね」


サーベルを腰にかけており、しかし勇者ではない。

それが分かるのはグレーと白が混合するベストにつけられる梟のシンボルマーク。それは、シーラ王国と親交が深い国の一つであるソフィア王国のものだ。

黒の紙を始め、黒柱の開発に大きく関わったのもソフィア王国だと言われている。


「なるほどな」


「どちらへ? 話はまだーー」


「話は終わった。悪いが、俺は急いでいるんでな」


そうして、長い列の先に立っていたリベルタの者に話を聞いた。

どうやらこの長い列は、魔物討伐記録をした黒の紙を提出する為に出来たようだった。




「えええ!? ギルドの停止!?」


戻って待っていたメアにそう伝えると、とても驚いた様子。俺より先に着いていたようだが、ギルドの停止のことは耳に入っていなかったようだ。


「そうらしい。でも、仕方ないんじゃないか。あんな化け物が出たんだ」


話によると、それまでに数人の勇者が高レベルの魔物から襲撃を受けたようで、ギルドの措置は暫くは様子を見るということだった。

しかし、俺がサギニの森でスカルエンペラーから襲撃を受けたことが決定打になったようだった。


「それで、こんなにも長い列に」


そして、ギルドリベルタが停止になったことで、報酬の受け取りを早く済ませておく為に長い列は出来ていた。


勿論、黒の紙の提示は何処のギルドでも出来る。だが、もしかすると他のギルドも同じような事態になっている可能性がある。

その為、一にも二にも生活の基盤となる報酬の受け取りを早く済ませたいと思った勇者が多くいたのだろう。

それは、俺にも言えること。長い列の最後尾に並び、メアと共に順番を待った。





漸く順番が回って来た頃には、時刻は正午近くになっていた。

朝から慌ただしく黒の紙の確認作業をしていた受付嬢達は少しばかり疲れた様子。


「あなたは昨日の、ドロウスバットの案件を受けた勇者の方」


女性は、昨夜俺が案件を引き受けた際の受付嬢だ。

その両隣にはもう2人の女性がおり、忙しく入力作業をしている。


俺は小さく頷き、自らの黒の紙を差し出して、入力が終わった後に魔物討伐数に応じた報酬を受け取った。


その後は朝食を取る為に開店したばかりの喫茶店にメアと入った。何やらメアが話したいことがあるそうだ。


「忙しいのに悪いわね。本当はリベルタで話したかったことだけど……」


「何をだ?」


「……実は私も旅に連れて行ってほしいの。あなた、確か魔王の城に行くんでしょ? 私じゃ、戦力にならないかもだけど、いないよりはマシだと思うわよ?」


「……好きにしろ」


メアがそう言ったことに対して、正直なところ気にはならない。

これから魔王の城に行くというのだ、勇者は1人でも多いに越したことはない。

ただ、あれ程魔王の城に行くことを反対していた張本人。どういう風の吹き回しだろうか。


メアは微笑を浮かべて、間も無く来た朝食セットを食べ始める。卵とハムのサンドイッチにレタスサラダ、豆の香りが強いブレンドコーヒー。喫茶店メニューの定番。


そうして、朝食を済ませて今後のことを考える。


ギルドは停止、暫く案件は受けられないだろう。いや、そもそも折れたアスティオンを直すのが先決だ。だが、武器屋の店主によれば3日ほど待たなければならない。


ギルドでランク上げも出来ない、アスティオンもない。情報屋で何か情報でもと思ったが、昨夜、持ち合わせの金貨は全て使ってしまった。

僅かな残り銀貨で朝食の支払いは何とか出来る。


「そう言えば、あなた剣はどうしたの?」


「武器屋に預けている。後、3日は待ってほしいそうだ」


「3日も!? 剣を直すのって、そんなにかかるものなのね」


「まあ、特別な剣だからな。時間がかかるのは仕方がない」


事実、嘘は言っていない。俺の持つアスティオンは宝剣。しかも、神の武器になる可能性があるときた。


「特別ねえ。だったら、私の剣はもっと特別よ! ほらっ! この輝き! 中々見ない剣でしょ?」


メアは腰元の鞘から剣を抜き、路上で見せる。


「……お前、ほどほどにしといたほうがいいぞ」


と言うのは、このブルッフラもセイクリッドと同じようにむやみに街中で武器を取り出すことに厳しい。能力も使ってはいけないことになっているが、それ以上に武器の使用はしないほうがいい。


「そ、そうね」


メアには二度目の注意だ。

確かに、研ぎ澄まされた美しい剣ではあるが街中で見せびらかすものではない。


メアは鞘へ剣を収めた。


「これから酒場に行こうと思う。お前はどうする?」


「もちろんっ!」



ーーそして、酒場に行くと朝っぱらから気持ち良さそうにビールを飲んでいる数人の者たち。

店内には他にもちらほらと客がいる。


昨日、俺が話した情報屋アンナは表に居なかったが、もしかしたら、また、有益な情報を提供してくれるのではないかと思っていたが、彼女も忙しい身なのだろう。


「ギルド、いつ復活するんだろうな。これじゃあ俺たち、商売上がったりだよ」


「まあ確かにそうだよな。でもこれも、神が俺たちに与えた休息だってことだよ」


少し酔っているのだろうか、戯れ言が聞こえて来る。

2人の男は丸いテーブルに置かれた数本のビール瓶を既に飲み干している。


1人は巨大な剣を持ち、もう1人は弓を背中にかけている。勇者だろうか。


「おおお! 美女発見! こっち来て俺たちと一緒に飲もうぜ!?」


すると、その者たちは俺達に気付くなりメアにそう言った。


「そんな冴えないやつといるより、こっちで楽しく飲んでる方が良いってものよ!」


2人して朝からやけ酒なのか。他の客の目もやや引き気味だ。


「悪いが、俺たちはお前らみたいに暇じゃない。ナンパなら他でするんだな」


「……言ってくれるじゃねーか、若僧」


椅子から立ち上がった男は俺の目の前に立った。とても大きなその巨体はゆうに2メートルは超えているだろう。


「ジャック、 騒ぎは起こすなよ」


「わーってるよ! 俺様はただ、この生意気な若僧に世間ってものを教えてやるだけさ」


「世間を教える? それは逆だろう。いきなり絡んで来て、どっちが世間知らずだ」


メアは隣で俺を落ち着かせようとするが、どうも俺はこういう世間知らずな連中が嫌いだ。


「よし分かった! だったらゲームをしようじゃないか!」


「……ゲームだと?」


「ああ! ゲームさ! それで、ゲームの勝者がその美女と酒が飲めるってことだ! どうだ? 単純だろう?」


やはり、このでかい男は酔っている。何がゲーム、ふざけているにも程がある。

すると、黙って聞いていたメアがずいっと前に出るなり巨体な男に言いたげだ。


「ちょっとそこの! さっきから聞いていれば随分勝手なこと言ってくれるじゃない! ゲーム? 冗談じゃない! 私をもの扱いしないで!!」


啖呵を切るとはこういうことを言うのだろう。

両目を見開いた巨大な男は微動だにしない。だが、次第に笑い始め、ついには連れの男も笑い始める。


「ますます気に入った! ものおとなしいとは思っていたが、肝が座っている! 是非とも一緒に飲みたい!」


メアは引き気味だ。それはそうだろう。諦めてくれると思って言っただろう言葉が、逆に彼等を刺激したのだ。



「おい何処行く!? 話はまだ終わっていないぜ!?」


おかしな連中の相手などしていられない。

俺とメアは急いで酒場から出た。


「何だったのよアイツら!? あったま来ちゃう!」


不機嫌になってしまったメア。自分をゲームの賞品にさせられたのだ。怒るのは当然だ。


「いたいた! 話はまだ終わっていないぜ!?」


「げ……」


メアの表情が引きつり、俺の後ろにサッと隠れる。


「あんまりしつこいと、監視人たちの目につくぞ。それでもいいのか?」


「それは大丈夫さ! 何故なら、俺たちはこの街で騒ぎを起こすつもりなんてこれっぽっちもない!」


そう言うが、説得力に欠ける。いきなりメアをナンパして来るような奴等だ。


「ジャックの言う通り。俺たちは、ただ楽しく美女と酒が飲めればいい。なあ? 宝剣を持つ勇者よ」


「……お前」


何故、こんなゴロツキのような奴等が俺の剣の秘密を知っている?

まさかと、嫌な予感が頭をよぎる。


「マラル、どうやら本当らしいな」


「ああ。是非ともそこの美女とは酒が飲みたいが、宝剣はこんな弱そうな勇者づらしたガキには実に勿体無い」


どうやら、俺とメアを逃してはくれないらしい。騒ぎは起こさないと言うが、これは面倒なことになってしまった。


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