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第16話 寂しがり屋の女勇者


「でも、無事だったから良かったじゃない」


俺とメアはブルッフラのギルド、リベルタに来ていた。


「案件はどうなる?」


「こんな状態でまだ案件の心配!? あっきれた勇者!」


メアがそう言うのも最もだ。

低レベルの魔物であるドロウスバットの討伐案件で命を落としかけたのだ。実際のところは、突如現れた高レベルの魔物、スカルエンペラーの襲撃を受けた。


不器用にもメアが巻いてくれた包帯に手を当てる。


「そうですよ勇者様。その子の言う通りです。まずは、無事だった命に感謝しましょう」


受付嬢と目が合うと、彼女は微笑した表情を俺に返した。


「……そうだな」


今回の件はギルドも予想出来なかったことだろう。そうなると、黒龍の巣が崩壊したという話は伝わっていないと思われる。

こればかりはギルドに非はない。本来ならば、魔物はある程度決まった場所を生息域とする。

その為、この基本的な考え方の元、ギルドは魔物討伐案件を出す。


だが、今回俺が受けた魔物討伐案件に起きたスカルエンペラーの襲撃は、ギルドや国の予想範囲外のことだっただろう。

しかし、もしもギルド……国側が知っていたことならば大問題だが、それはないだろう。俺の勝手な憶測だが。

ましてやリベルタの受付嬢が知っているなら、無事だった命に感謝、なんて普通言うだろか。そもそも、隠す理由がない。魔物を討伐する為の職業である勇者が減ることは、とどのつまり、人類終焉へのカウントダウンを加速させるということ。


ただ一つ気になる事と言えば、国が管理している情報屋についてだ。俺は、情報屋アンナから黒龍に関する情報を知ったわけだが、国はその情報を知らないと言う事だろうか。

そもそも国は、情報屋が仕入れる情報に対してある種の信頼を寄せている。それは、情報屋が売った情報によって巡り巡って国は潤うからだ。理由として、情報屋から情報を買った勇者などが、行くその地その地でお金を落としていくから。すると、その地に住む人々の生活は向上して、また彼等住人がお金を使う。

魔物が蔓延る世界だが、それに負けじと人々は強く生きている。そうして、国は人々から税金を貰い、人々は国から守られているという構図が出来上がっている。


つまり、それらを念頭に国は情報屋を信頼しているということなのだが、だからと言って無法に放置するわけではないらしく、国の人間と情報屋が接している噂もある。

しかし仮にそうだとしても、黒龍の巣の崩壊をひた隠しにする理由は全くないと思う上、それどころか、今回俺が襲撃された高レベルの魔物の件によってギルド案件をこなす勇者は間違いなく減る。


ギルドは国が管理している為、案件を出した者と直接的な金銭のやり取りは少ないが、まだ世に出回らない情報を情報屋が買い取っているという見方も出来る。そして、もしも情報屋アンナが国側から黒龍に関する情報を買い取っていたとするなら、聞きたいこともある。

本来なら、ギルドは勇者が魔物を効率よく討伐したい時や他の勇者との情報収集として使う場所だ。だが、見方を変えればリスクがある場所とも言える。

それは、誤ったデマを信じてしまったが為に苦労する羽目になったり、引き受けた案件の相違などが挙げられる。


ギルドが出す案件は事前に調べられた結果、報酬額の提示や勇者ランクの設定をする。

ましてや案件の最中に、今回、俺がスカルエンペラーから襲撃を受けたように、何らかのトラブルに巻き込まれることもあるだろうし、ギルド側の確認不足などもあるかも知れない。


そしてギルド受付の人間とは、他の店などと同じように採用された者に過ぎない。

たったレベル28程度のドロウスバット討伐案件に、まさかレベル86の魔物が出るなんて受付嬢も思ってもみなかった事だろう。


微笑む受付嬢がいるギルドリベルタを後にして、俺はギルドを出た。





「ーーこれからどうするの?」


「決まってる」


俺の目的地はあくまで魔王の城。

今回、スカルエンペラーの襲撃により右手を負傷しアスティオンは折れてしまったが、魔王の城に行かない理由にはならない。


「ああ、あれね。魔王の城に行くって言う」


メアが何故、サギニの森の中にいたのかも不思議だが、それよりも彼女が居なければ俺は死んでいたかもしれない。


「メア、今回は助かった」


「……えっと、そんな真面目に言われたら照れるわ。なんだか、あなたらしくない」


やはり、この女勇者は失礼だ。助けてもらったことには感謝するが、それだけだ。


俺は今夜の宿を探す為、歩き始める。


「無視する性格は相変わらずね。待ってよ!」


ブルッフラの街の夜は静けさを取り戻す。

いくつかの店はまだ営業中のようだが、人々の活気は落ち着きを見せる。


宿屋を探し街中を歩いていると、折れてしまったアスティオンとの思い出が蘇る。


本当に、何が起きるかわからない世の中だ。



ーーそうして、見つけた宿に着いた時には針は午前0時を指していた。


「で、なんでお前がいる?」


部屋の中には、椅子に腰をかけたメアが当然のようにくつろいでいる。


「なんでって……だめ?」


首を傾げてそう言ってくる。この女勇者の性格が分からない。

さも、当たり前のように振る舞う様が腹が立つ。

だが、仕方がない。サギニの森での貸しの一つだと、一泊の宿代を払う羽目になった。


「宿代は払っただろう、自分の部屋に行けよ」


と言うのだが、メアは動こうとしない。


「いいじゃない少しくらい! あっ、そういえばこの部屋、私の部屋より広いんじゃないかな?」


雑談でもしに来たのか?

メアは部屋の広さがどうのこうのだの、置かれている家具や絵を見る。そして、時折こちらを気にする様子を見せるのは構って欲しいのだろうか。


「気が済んだら出て行けよ、俺はもう眠い」


そう、俺は眠いんだ。シーラ王国を日の出間も無く出発して、このブルッフラまで来た。

そして、いつになく眠いのはサギニの森での緊張感から解放されたこともある。

それに、折れたアスティオンのこともどうにかしないといけない。

だが、こんな疲れた状態。まともな解決策が浮かばない。


俺はベッドの上で横になり、子供のようなメアを見ていた。



ーーその後、気付いた俺は目を覚ました。どうやら、あまりの眠気にそのまま眠ってしまったようだ。


「何の為に宿代を……」


その直ぐ隣でスヤスヤと気持ち良さそうに眠っているのはメア。普通、昨日今日会ったばかりの男の部屋に眠りに来るだろうか。

無防備な姿で眠っているメアを見ていると、勇者にはまるで見えない。女性特有の華奢な肢体、本当に一人で旅をして来たのかと疑うほど。よく、今まで生きて来れたものだ。


その後、目が覚めてしまった俺は、テーブルの上に置かれた真っ二つに折れたアスティオンを手に取る。


「見事なまでに折られたな」


やはり、無理をした代償は大きい。流石に攻撃力に長けたアスティオンも、耐えきれない凍りの圧力に負けたのだろう。

丁度、中心やや下あたりから折れてしまったアスティオンは剣と呼べるものではない。

しかも、材質が鉄なのかなんなのかも不明な剣。今まで、気にもとめたことがなかったが、ひとまずブルッフラにある武器屋に持って行くしかない。


それに、これから魔王の城を目指すと言うのだ。アスティオン無くしては、行けるはずもない。問題は、アスティオンを直せる以前に持ち合わせの金貨がないこと。

ちょうど昨日、情報屋のアンナから黒龍に関する情報を得た際に全ての金貨を渡してしまった。

今思えばあの時の反応からするに全部を渡す必要はなかったように思う。幸いなのは、銀貨はまだ数枚有ったこと。ただ、俺とメアの宿代でそれも少ない。


そうして、メアに占領されたベッドの反対側にあるソファの上で俺は就寝した。





ーー翌日の朝。


「ん……いない?」


目覚めると、ベッドの上にメアの姿は見えない。部屋にもいる様子はなく、俺の視界のテーブルに1枚の紙切れが置いてある。


『リベルタにいるから起きたら来て! byメア 』


そう書かれた紙切れは、メアが残していったものだろう。だが、都合が良い。俺もリベルタには丁度用がある。ただその前に折れてしまったアステイオンを渡す用事が済んでからだ。


宿代の支払いを済ませたついでにブルッフラの武器屋の場所を聞いた。とても、親切なもの柔らかいご婦人だった。


武器屋の場所は、宿を出てから数十分足らずで着いた。まだ朝が早いからか、俺の他に店に客はいない。置かれている武器は、銀貨を数十枚重ねて買えるモノから、1本金貨5枚のものから金貨30枚を超えるものもある。


「いらっしゃい」


武器屋の店主は白髪の老人。朝から剣を磨く様子はまさに匠の技。輝きを失った剣が、一磨きするたびに蘇る。そんな様子を見ていると、店主の老人は手を止める。


「実はこの剣なんだが……」


鞘に収めた半剣と、皮布に巻いたもう半剣を置く。


「おやおや、これは」


店主の老人は老眼鏡をかけて、そうっと手に取った折れた剣を見る。先の剣の刃のない部分を掴み、眉をひそめ見る。


「それからこれも」


皮布から砕けた破片も渡す。店主の老人は何も言わずにそれを受け取り、さっと見た後腕を組み黙り込む。


「直せそうか?」


「……うむ。直せないこともないんじゃが、高くなることは覚悟せい」


「構わない」


ここで、銀貨数十枚しかないなんて言おうものなら断られる。

如何にも、頑固そうな武器屋の店主だ。無難にそう答えておこう。

お金はそうだな、後で作るしかない。


店主は俺の考えを見透かしているかのように、やや俯き加減に片目を光らせ俺を見る。


「3日、待ってもらう。金はその時じゃ」


「頼むよ」


その後、ギルドリベルタに向かうと異常なまでの人集りが出来ていた。


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