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第12話 宝剣


魔法情報証にはこう書かれてあった。


『我々は邪悪の根源である魔王とはかけ離れた存在、黒龍を2年に渡り調査した。そして調査の末、魔王と何らかの関係性を持っているとの見解を導き出した。

黒龍の目撃情報の時期、魔物が活発になる時期を調べ続けて、魔王の生誕はその近い時期に起きている。

これが何を意味するのか現在のところは不明だが、少なくとも黒龍という存在が何らかの形で魔王に絡んでいることは間違いない』


黒龍という言葉が出て来るのは意外だった。

何せ、黒龍はこの世界の秩序を守る為に存在していると古い伝書には記されているからだ。


だから、最悪、魔王を筆頭として魔物が人間界を滅ぼすような事態になったとしても、黒龍が最後は何とかしてくれると思っていたからだ。

それは、少なからず伝書に記されている黒龍の話を知っている人々も思っていることではないのか。


しかし、蓋を開けてみればどうだ。本来、世界の秩序を守るはずの黒龍が、人間界を滅ぼそうとしている魔王と関係性があるかもしれないというのだ。これは、絶望の淵に落とされた気分になった。

俺の中で善の側だと思っていた黒龍の存在に、魔法情報証を読んだ事で複雑な感情が湧いて来た。


「何か情報を知ったようね。ただ、私ら情報を売る側はその内容を知らない。だから、へたな当て付けはやめてよね」


彼女がそう言うのは、情報を買い取った者に言いがかりや乱暴などが実際にあったからなのだろう。情報屋も大変な職業だ。


「ああ、そんな野蛮なことはしない。ありがとう。貴重な情報が得られたよ」


振り返って行こうとする。


「待って! あなたの腰にあるその剣、少し見させてちょうだい!」


女性店主は少しばかり声量を上げてそう言った。


「剣? 構わないが……」


俺は鞘から剣を抜いて女性店主の前のテーブルに置く。

女性店主は興味深かそうにゆっくりと隈なく見ている様子。


「……なんで、あなたごときの勇者の手にこんな名剣が……」


ごときとはなんだ。随分と失礼な女性店主だ。黙っていれば清楚な美人店主なものを、口遣いは悪い。女性店主は不思議そうな表情をして俺を見る。


「何でって、俺の持ち物なんだ。何を持っていたっていいだろう」


女性店主が大事そうに持っていた俺の剣をばっと取り返す。


「そうだけど……その剣の名はアスティオン。神の武器となり得る、宝剣の1つ」


そう口走った女性店主の言葉に、俺の心臓がドクンと大きく波打つ。


「……この剣が宝剣、だと?」


「何? 知らないで持っていたの? それなりに見込みがありそうだなって思っていたけど、一勇者が聞いて呆れるわ」


情報屋の女性店主はやれやれと言った様子でまだ何か言いたげだ。


俺は暫し女性店主が言ったことが信じられなくて、手に持つ剣を改めて確認する。しかし、いくら見てもそれは、いつも俺の側にあった1つの剣に過ぎなかった。

唐突に俺が持っている剣が宝剣と言われても信憑性に欠ける。


しかも女性店主は聞き捨てならない爆弾発言をしていた。

神の武具になり得る、その言葉の意味は何だ?


「私は情報屋だけど、此処に来る勇者たちの装備は必ず確認する。理由は単純、その勇者が私が持っている情報を売るに値する人物かどうかの判断材料になるからよ。あなたはそうね、少なくともたまに来るボンクラ勇者とは違っていたわ。それに、そんな名剣ぶら下げているんだもの。私も、まさかって思っていたけれど、本当にそのまさかだなんてね」


どうやら、本当に俺の持つ剣が噂でしか耳にしない宝剣だったようだ。そう聞くとまた、アステイオンが輝いて見える。


俺は鞘からアスティオンを抜き、空に向かって突き出す。


「素晴らしいわ、本当に ……。でも、まだただの宝剣。神の武器にはなっていない」


「さっきから言っているな。俺の剣が宝剣だということは分かった。だが、神の武器になっていないというのはどういうことだ?」


「ええ、話すわ。だけど……」


女性店主は顔を背け、テーブルの上に手を置いてトントンと叩く。

俺はしばらくその意味を考えた後、深い溜息をついた。


「まったく、ちゃっかりしてやがる。ほらっ! これだろ!」


俺はリュックの中から金貨5枚を手渡す。


「え……5、枚? あなた、本当に聞く気ーー」


「分かった! なら、これで十分だろ!」


俺は半ばヤケに持っていた金貨を全て手渡した。


「分かってる! 流石、名剣を持ってる勇者様は違うわ!」


言葉の態度がまるで違う。

女性店主はとても嬉しそうに金貨を数えた後、高価そうな黒いバッグの中にしまった。


「……まあいい。じゃあ、話してもらおうか」


「その前に! 場所を移動しましょう。こんなところで誰かに聞かれでもしたらまずいでしょ?」


それは最もだ。もし俺が宝剣、神の武器となるかもしれない剣を持っていることがばれたら、他の勇者に狙われるかもしれない。しかも狙うのは勇者だけではない。任務を依頼して来たシーラ王国は多分ないとは思うが、他国から狙われる可能性がある。

こんなランク5の勇者が持っているより、もっと強い兵団の隊長や戦士に持たせたがるだろう。


「そうだな。場所は任せる」


「ええ!」


その後、女性店主は店を閉めた後、誰かに連絡を取っていた。どうやら、複数人で情報屋を営んでいるようだ。置かれた店の資材と、俺の持ち合わせ全ての金貨を詰めた黒いバッグをもう2人来た男女に受け渡していた。


そして、俺と女性店主は街中を移動する。


「ギルドか。都合がいい」


立ち止まった場所はブルッフラにある巨大ギルド、リベルタ。

勇者は勿論のこと、ジャケット右ポケットや靴つま先あたりに情報屋のトレードマークであるiを入れた者達が見える。

受付カウンター直ぐ横のボード版には、『DEAD OR ALIVE』と書かれた紙が貼られている。

本来、魔物は討伐、つまり殺すことを前提としているが、討伐までいけない場合もある。

その場合、ギルドから魔物捕獲部隊を向かわせる。それは、魔物の生態を研究して今後の対策をして行く為だ。


一部を除いて、ほぼ全てのギルドは国によって管理されている為、新たな魔物の情報が更新されれば、勇者が使用する観察眼から確認出来る。

観察眼は魔物の名前やステータスの確認が出来るだけではない。一度、観察眼を使用した魔物であれば詳細をいつでも確認出来る。

そうすることで、黒柱による魔物生息域の把握、ギルド、国による魔物情報の収集更新。これら2つが実現される。

いかに、時代が魔物を警戒しているのかが分かる。


そして2人で話す席を探していたが、ワンフロアー全体に人が溢れかえっている。まあ、話の内容が内容だ。ここまで人と人との距離が近いと盗み聞きされるかもしれない。

俺が持つ剣が宝剣だなんてことは声を大にして話せることではない。

幸いなことに、階段へ向かい登った先のフロアーはそれ程人が多くはない。俺たちは端の席へと座る。


「ここなら話せそうね」


「出来るだけ手短に頼む」


「なかなか難しい注文ね。でもそうね。場所が場所だし、それに話し込める内容ではないものね」


だったら、もっと人が居ないところを選べと思ったが、話す場所を任せたのは俺だ。仕方がないが、このギルドで内容を聞こう。


念の為、俺はさっとあたりを見回した。逆にそれが怪しい行動だったが、そうしないよりかは幾分マシだろう。女性店主も、視線だけ動かしている。


「結論から言うわ。あなたの持つ宝剣を神の武器にするには、ひたすら魔物を斬ることよ。それも、条件付きでね」


「魔物を斬る? そんなこといつもやっている」


そんなことなら、俺がアスティオンを手にした日から今日に至るまで魔物を斬って斬って斬りまくってる。今更過ぎる。


「それだけではダメよ。言ったでしょう? 条件付きだって」


「よし、話せ」


「……あなた、それが聞く側の態度なの? もう少し聴き方ってものがあるんじゃない?」


「どうでもいいそんなこと。俺はお前に出せる金貨を全て渡した。あとは、お前が持つ情報を話す。それ以外に利害関係なんてない」


女性店主は若干嫌そうな表情を浮かべる。


「そうね、あなたの言う通りだわ。でも、これだけは覚えておいて。お金だけで得られる情報には限りがあるってことを」


「……」


女性店主は座る椅子を引いて前に寄せた。


「あなたの持っている宝剣には魔物に対して特攻特性が付いているわね。それは、この世界にある全ての宝剣も同じ」


「ああ」


そうなのか。俺が持っているアスティオン以外の宝剣も同じ特攻特性なのか。まあ、考えてみるとそうだ。神の武器の存在理由は魔物を殲滅する為のもの。だからそれに特化するような特性を持っているのは当然だろう。


「そして宝剣を神の武器へする条件。ーーそれは、宝剣の特性を使わずに魔物を斬り続けること」


「特性を使わない!?」


思わず、声がでかくなってしまう。


それは、今までアスティオンで魔物を討伐して来た俺でも知らなかったこと。

アスティオンの特性は、使用者である俺の攻撃力の50%を加算する。

魔力を消費することもなく発動して、特に意識したこともなかった。

それを、使わない。


少しの時間、思考が止まってしまった。


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