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プロローグ

のんびりも偶にはいいよね

 俺の名前はバルトロ。一応、一流の冒険者だと自負している。


 そんな俺だが、ここ数か月ある悩みを抱えていた。それは自身の身体の衰えだ。

 何度か仲間の治療魔法の使い手に体力が全快の時に治療魔法を頼んでみたが、身体の違和感は拭えなかった。

 勿論仲間の治療魔法は一級品だ。そこに疑いの余地はないし、気にしなければ分からない誤差だった。


 だが、これからも冒険者として続けて行けば、この違和感はいつか取り返しのつかないミスを呼び込む事は必然だった。最初こそ病気という事を考えたが、最終的に加齢による身体の衰えという答えに行きついた。


 答えが見つからず、数多くの知り合いに相談をした。


 老若男女お構いなしにだ。


 そして、俺は一つの答えに行きついた。


 

 それは、剣を置き冒険者を引退する事だった。



 理由は数多くあるが、一番の理由は自分がしたい事が冒険者ではない。という事だった。

 元々俺は平民で、大した事ができる男じゃない。そんな俺にも好きな物はある。


 それは酒だった。


 けれど俺は大衆酒場のようなワイワイガヤガヤ騒ぐ場所というのは苦手だった。

 できればゆっくりと落ち着いた雰囲気の店で仲間達と語り合い、美味い酒を飲み交わしたいと考えていた。


 だが、そんな店は大抵貴族様御用達で、俺のような平民は店の敷居を跨ぐ事もままならない。


 では、どうするか? 自分でそんな店を構えればいいじゃない。という考えに至ったのだ。


 考えが纏まり、相談に乗ってくれた知り合いたちに相談に乗ってくれた事に対しての感謝を方針を述べると、応援してくれる人達の多さにまた感謝した。


☆★☆★


――そして今、俺は冒険者ギルドに併設されている酒場にパーティの仲間達を呼び、全員と顔を合わせている。


勇者マルス

聖女マリア

賢者シルヴァ

剣聖ブロード


 そして俺こと、大戦士バルトロ。俗に言う『勇者パーティ』だ。


「それで、バルトロさん。今回皆を招集したのはどういった用件なんですか?」


 最初に口を開いたのはリーダーである勇者マルスだった。


 「まず、皆忙しいのに俺の呼びかけに応じてくれた事に感謝する」


 勇者パーティは国に認定された凄腕だらけのパーティであり、一般の冒険者で対応不可能な問題に派遣される事が多く、皆忙しい身なのである。


 遠くからギルマスと副ギルマスもこちらの様子を伺っているのを感じる。


 「単刀直入に言うと、大戦士の名を返上しようと考えているんだ」


 『勇者』や『聖女』というのは国に功績を認められた者の称号であり、様々なサポートを国から援助してもらう事ができる代わりに厳しく管理されている。

 その立場を捨てるには犯罪を犯すか、その称号を国に返上する必要がある。

 

 四人の表情が曇る。済まないみんな。だが、もう決めた事なんだ。

 そう心の中で反芻し、ぐっとこらえて言葉を続ける。


 「まずそう考えた経緯から説明すると、マリア嬢に治療魔法を掛けて貰った事が一つ」


 「どういう事ですか?」


 自身の治療魔法に問題があったのかと不安そうに見つめてくるが、美しい顔が台無しだ。


 「誤解しないでくれ。身体にずっと違和感を感じていたんだが、聖女を冠する君の治療魔法でも拭えない違和感。その正体を俺は加齢による衰えだと判断した」


 「待て、バルトロ。貴様ほどの戦士が拭えぬ違和感だとすれば相当だろう。だが、剣を置くには些か早すぎるのではないか?」


 俺の説明に納得がいかないのか、美形エルフのブロードが怒りの感情を込めた口調で意見を述べてくる。


 「貴殿の言う通り、気にしなければまだ問題がない誤差だ。そこでもう一つの理由が出てくる」


 落ち着けという意味合いを込めて諫めるように説明を続ける。


 「実を言うとだな、俺は大戦士だなんて今でこそ呼ばれているが、元々はやりたい事が別にあったんだ」


 ぽかんと四人の口が開いたままになっている。

 一番に冷静さを取り戻したブロード同様美形エルフの美女シルヴァが口を開く。


 「貴方ほどの殿方がやりたい事ですか。どういった事か伺っても?」


 「勿論だ」


 俺はシルヴァの質問に返答をし、自身の夢を語る。正直照れ臭い。


 「俺の夢は小さくてもいい。平民も貴族も関係なく、冒険に疲れた奴や商人たちが静かに羽を休められる場所を提供したい」


 にかっと笑い、四人を真っ直ぐにみると、何故かマリア嬢とシルヴァが顔を真っ赤にして背け、マルスとブロードは面白そうに笑っていた。何故だろうか?


 マルスの視線に気づいたマリア嬢が、自身の兄であるマルスに向かって杖で殴りかかり、ブロードの視線に気づいたシルヴァもまた、自身の兄であるブロードに向かって詠唱を唱え始めていた。


 お前ら、ここが建物内って分かってる? ほら、ギルマス達の顔が蒼褪めてるぞ


 パンパンと両手を叩き席に着く事を促すと、渋々四人は改めて席に着く。


 「お前達、建物内で暴れるなよ。仮にも英雄様なんだから」


 「「「「誰のせいか!」」」」


 ええ……俺のせいなの? いや、俺のせいか?


 何はともあれ俺の考えを告げ、今後の方針も伝えた。

 これ以上は野暮という物だろうと考え、俺が席を立とうとすると、仲間達に止められた。


 「待って、バルトロさん。肩を並べるのがこれで最後なんて言わせないよ」


 「その通りですよ、バルトロさん」


 「貴様ほどの戦士は長い間剣聖を続けて来た中でも数える程しか知らん」


 「貴方を無理に引き留めたりはしません。ですが、パーティ解消でさようならはあんまりではなくて?」


 仲間達全員から不満の声が漏れる。とはいえ、ギルドでもう手続きは済んでいるし、ここにいる俺はもう只のバルトロという男だ。

 

 そんな事を考えていると、どさりと重い音と共に一つの麻袋が机の上に置かれた。


 「これは……そう。新たな門出を祝う僕達からの選別です」


 四人の総意と拒否は許さないという意思が篭められた言葉を投げられ、俺は苦笑いを浮かべる。


 「――わかった。英雄もまた一人の人間だ、店を構えたらいつもの方法で場所を伝える。いつでも遊びにきてくれ」


 「「「「良い旅を」」」」


 「ああ……良い旅を」


 俺達は互いに拳をぶつけ合い、袂を別った。何時でも来い、大切な戦友たちよ。

 

読んで頂き有難うございます。


なるべくのんびり、まったり、ハードボイルドなおじ様主人公と

その紳士ぷりに振り回されるヒロイン達の小説にしていきたいと考えています。

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