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神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第12話:決戦ダンノウラ

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Act-13 正義と虐殺


 タマモノマエの神通力により、潮の流れを逆転させられた源氏軍は、カラスの強襲から辛くも生還し、合流した梶原カゲトキと大江(おおえの)ヒロモトとの協議により、艦隊を前進させる事に決めた。


 向かい潮で艦砲射撃の精度が下がるのなら、距離を詰めてそれを補うしかない。

 現状で源氏軍の艦船は、平氏軍の倍の数ほど残存している。

 今ここで多少の犠牲を払ってでも、数にまかせた力押しを敢行しなければ、時間が経つごとに状況はまた互角になっていく事は明白だった。


 源氏艦隊が、平氏の艦船を押し包む様に前進していく。

 ここからは近距離射撃の応酬――まさにそれは泥仕合であり、これこそタマモの思う壺であった。


 それを知る由もない、両軍の主砲が火を噴き合う。

 徹甲弾に艦隊を貫かれ、炎を上げながら沈んでいく大小艦船たち。

 消耗戦ではあるが、このまま一対一の相討ちが続けば、最終的には源氏軍の勝利であった。


 だが、その望みを打ち砕く存在が、戦域に現れる。


「うおあああーっ! 滅びなさい!」


 鈴の音のごとき咆哮が戦場に響き渡る。

 そしてレーザービームの様な光の帯が、源氏艦隊を上空から薙ぎ払うと、一度に三隻の戦艦が真っ二つに斬り裂かれ爆散した。


 その様に戦場が凍りつき、息を呑む。

 一同の視線が光の発生源である上空に集まり、そこにいる漆黒の物体を仰ぎ見る。


 神々しいまでの妖気。禍々しいほどの気高さ。背に浮かぶ六枚の神鏡は鈍い光を放ち、その異形をさらに荘厳なる存在へと彩っている。


 機甲武者カラス――真の(あるじ)を迎えた神造兵器は、コクピットにいるアントクの旺盛な戦意そのままに、再び源氏軍へと牙を剥いた。


 

 一方、ウシワカは飛行形態のシャナオウで、トモモリが乗ったカラスを追ったものの、霊気の補給が十分でない機体は速度が出ず、あっという間に引き離されてしまった。


 ここまでの激闘に次ぐ激闘で、シャナオウはもう限界であった。

 加えてパイロットであるウシワカも、霊気を動力に変換するための魔導力を酷使し続け、その五体も悲鳴を上げていたのだ。


 それでも強靭な精神力と、ツクモ神ベンケイの加護に支えられ、ウシワカは決着をつけるべく海上を飛び続けた。


 そして、遅れて戦域に到達したウシワカの目に映ったものは――源氏艦隊を蹂躙し続けるカラスの姿であった。


「な、なんだこれ……」


 まさに虐殺であった。


 カラスは六枚の神鏡を自在に操り、手当たり次第に源氏軍に魔導砲を放っている。

 それに撃ち抜かれた機甲武者が砕け飛び、戦艦が炎を上げ、共に海の藻屑となるべく消えていく。


「やめろー!」


 ウシワカはシャナオウを人型形態に変形させ、カラスに特攻していく。


「来たか、ウシワカ!」


 それに返ってきた声に、ウシワカは驚いた。


「アントク、お前が乗っているのか⁉︎」


「滅びろ、ウシワカ!」


 宿敵の出現を知ったアントクは、即座に目標を修正して、シャナオウに魔導砲を撃ちかける。


 その軌道にウシワカは驚愕した。トモモリの操る神鏡は六枚が動きを(いつ)にしていたのに、今自分を狙うそれは、六枚それぞれが独自の動きをしていたのだ。


 結果、魔導砲も全方向から飛んでくる、オールレンジ攻撃であり、なんとかその初撃をかわしたものの、体勢が完全に崩れてしまう。


「クソッ!」


 素早く機体を飛行形態に戻したウシワカは、とにかく急上昇で次を食らわない様、逃げるだけで精一杯であった。


「アッハッハッ、アーッハッハッハッ!」


 感応した意識による、アントクの声が聞こえてくる。


 ――ウシワカが、あの女が無様に逃げている。


 その事実に、アントクは悦に入った。


 これまで散々自分を打ちのめし、心を踏みにじった宿敵を圧倒した優越感。


 ――このカラスがあれば、もはやウシワカなど敵ではない。


 強大なる力を手に入れた聖女は、意趣返しとばかりにウシワカを捨て置き、再び源氏艦隊へ向けその魔導砲を擊ちかけた。


「不浄なる源氏よ、滅びろ!」


 撃って、撃って、撃ちまくる。かつて自分が見た『美しき世界』のために、アントクは正義という名の鉄槌を、休むことなく打ち落とし続けた。


 これはもはや殲滅戦。


「ベンケイ……」


 それを上空から冷淡な目で見下ろすと、


「やはりあいつは……あの時、殺しておくべきだった」


 己の背を抱くツクモ神に向け、ウシワカはその偽らざる心情を淡々と述べた。


「ウシワカ……」


 あの時――それがヘイアン宮での、ウシワカとアントクの初対面の時である事を、ベンケイは以心伝心で理解する。


 平氏の都落ちに備え、ヘイアン宮で待機するシャナオウに、無邪気に手をかざしたアントクを、あの時ウシワカは衝動的に突き飛ばした。


 皇女の聖なる瞳――それにたまらぬ嫌悪感と理由の分からぬ警戒心を抱いたウシワカは、心の内でその殺害を思い立った。


 結局、ツクモ神トキタダの乱入でそれは果たされなかったが、あの時ウシワカは直感的にこの未来を予測していたのかもしれない。


 そして今――正義が暴走している。

 大義名分があろうと、虐殺は虐殺である。


「人の命を……なんだと思ってるんだ……」


 怒りに打ち震えるウシワカの目が、カラスを――その中のアントクを冷たく睨みつける。


「なんの覚悟もないまま……戦争に加わるんじゃないよ!」


「ウシワカ、行きましょう!」


「ベンケイ、奴を……今度こそ殺さなくちゃいけない!」


 決着に向け、心を一つにした二人が頷き合うと、シャナオウは暴走を続けるカラスに向け、急降下を開始した。


Act-13 正義と虐殺 END


NEXT Act-14 戦う理由 (わけ)


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