表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第12話:決戦ダンノウラ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/101

Act-08 カラス強襲


 『ダンノウラの戦い』も中盤となった頃――海域に迫る、漆黒の物体が出現した。


「くっ、間に合うか⁉︎」


「この『カラス』さえあれば、源氏の奴らを蹴散らせるわ。急ごう、トモモリ!」


 その中で言葉を交わすのは、平氏軍副将の(たいらの)トモモリ、そして神器『ヤタの鏡』に宿りし平氏のツクモ神、トキタダであった。


 二人はイチノタニの敗戦後、『ヤサカニの勾玉』の神造兵器シャナオウに対抗するため、ヤタの鏡による神造兵器――機甲武者カラスを現界させる事を決意。その封印の地であるイツクシマに向かい、本隊から離れていた。


 その間に、トキタダがシズカゴゼンに召喚された事で、タマモノマエ復活を知った二人は、カラスの錬成を急いだのが――ヤシマの平氏軍敗退が、状況をさらに苦しいものにした。


 西方の孤島、イツクシマから二人は見た。

 彼方の海上に、まるで漂流するかのごとく、西へ西へと落ちていく平氏の艦隊を。


 それによりヤシマが落ちた事と、もはや平氏がすべてを失った事を悟った二人は、翌日にはそれを追撃する源氏艦体を確認すると、目標の半分にも満たない錬成のまま、カラスをロールアウトさせる事にした。


 そこからさらに一日を要して、トモモリとトキタダは、ようやく形になったカラスに乗り込み、イツクシマを発ったのであった。


 シャナオウに続く、第二の神造兵器カラス。

 やむなく完全体での錬成をあきらめたその機体は、両腕も両足もない、およそ機甲武者らしからぬフォルムであった。

 それがダンノウラを目指し、海上を飛んでいる。


 全長十メートルの漆黒のボディは、両肩とスカートの部分だけが巨大化しており、胴部にめり込んだ猛禽類の様な頭部と相まって、まるで翼を広げた黒い大鳥であった。


 カラスはシャナオウの様に、霊気を揚力に変換せずに、その存在自体の力で宙に浮き、空を飛んでいる。

 魔導力の神器であるヤタの鏡を依り代とした、まさに規格外の性能であった。


 その頃、ウシワカはベンケイと共に、源氏艦隊の副旗艦である大江(おおえの)ヒロモト指揮の空母で、シャナオウの消耗した霊気と弾丸を補給している最中であった。


「まだ出れないの⁉︎」


「海上は、地上の様に霊脈とコンタクトできないんだよ。増幅装置で充填を急いでるから、もう少しだけ我慢して」


 苛立つ声を上げるウシワカに、カイソンがなだめる様に状況を説明する。


 あと一歩のところまで御座船を追い詰めながら、帰艦せざるを得なかったのだ。戦機を逃す事に焦る心を、ウシワカは抑える事ができなかった。


「ベンケイ殿、シャナオウの稼働限界はどれくらいですか?」


 そこにヒロモトが、怜悧な眼差しを向けながら、話の輪に加わってくる。


「距離によるわね。今の位置でまた御座船に特攻を仕掛ければ、三十分も()たないと思うわ」


「そうですか。このまま艦隊戦を制する事ができれば、艦の距離を詰める事もできます。よろしく頼みます」


 ベンケイの答えに、ヒロモトは眼鏡を上げながら淡々とそう言った。


 源氏軍全体の戦術では、艦隊戦を制する事ができれば、最終的にキュイベイの魔導弓による母艦撃沈を狙う段取りとなっている。

 そのため甲板には、源氏軍のプロトタイプ機甲武者キュウベイが、開戦時からスタンバイしており、


「ヨイチ、気ぃ抜いちゃダメだからね!」


 と、伊勢サブローもインカムで、コクピットの那須(なすの)ヨイチにハッパをかけていた。


 キュウベイによる、御座船射撃――

 ベンケイの脳裏にヤシマの記憶が蘇る。


 あの時、キュウベイの矢は御座船の司令塔ではなく、機関部を撃ち抜いた。

 それに言い知れぬ違和感を抱きつつも、結果として御座船は囮であり、平氏首脳をすべて逃がしてしまったため、ベンケイも特にそれを追求する事はしなかった――。


 だがウシワカを突然、ヤシマ戦の先鋒に指名した事にも疑問を持っていたベンケイは、今のヒロモトの態度に――淡々としながらも――どこか探る様な姿勢を感じた事で、ついにそれを問い質そうと身を乗り出した瞬間、


「あ、あれはなんだ!」


 という、兵の叫び声が甲板上に響き渡った。


「どうしたっていうんだ?」


「見ろ、黒い大鳥が!」


 兵たちの会話を聞いた一同も、その指差す方向に目を向けると、確かに艦隊後方から黒い鳥の様な物体が迫っていた。


 その正体は、トモモリとトキタダの駆る、機甲武者カラス。

 シャナオウと同じく全天周囲モニターのコクピットで、二人の目が源氏艦隊を捉えていた。


「俺に……本当にやれるのか?」


 神造兵器のパイロットとなる事に、不安を漏らすトモモリに、


「やれるわ。あなたはキヨモリの息子、シラカワ帝の血も引く平氏最強の魔導武者よ。自信を持って!」


 彼の背後に浮くトキタダは、毅然とそう言い切る。


 ならばと意を決したトモモリが、


八百万(やおよろず)の神々よ、我に力を!」


 と叫びながら、操縦桿であるシート先端の球体を握りしめる。


 次の瞬間、カラスの背中から六枚の物体が飛び出した。

 それは魔導力で現界した、ヤタの鏡のレプリカであった。


 トモモリの魔導力と、ツクモ神であるトキタダの神通力。それがカラスという神造兵器を介し増幅していく。


 輝きを放つ六枚の神鏡。そしてトモモリが、「うおおおーっ!」という雄叫びを上げると、そこからまるでビーム兵器の様な、光線が放たれる。


 六つの光線が、同じ目標に向け飛んでいく。

 二千メートル後方から放たれたその光線が、自艦に迫るのを確認した源氏軍総大将、梶原カゲトキは顔面蒼白となった。


 その数秒後、彼の乗る源氏艦隊旗艦である空母が、船尾から船首にかけて次々と撃ち抜かれる。


 炎を上げ、沈み始める空母。

 たった一撃で、源氏軍はその旗艦を失う事となった――。


 神造兵器カラスの恐るべき力。

 源氏軍に傾きかけた戦況は、ここでまたふりだしに戻る事となったのである。


Act-08 カラス強襲 END


NEXT Act-09 神造兵器VS神造兵器


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ