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神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第12話:決戦ダンノウラ

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Act-06 御座船突入


(こいつは狂ってる。これ以上、相手にしていられるか)


 激昂するアントクに、ウシワカの心は白けきっていた。


 これまでの一方的な加虐によって、アントクを狂戦士へと追いやっておきながら、あまりといえばあまりな変わり身であった。


 だが自身を上回る思いをぶつけられた時、ふっとそれまでの感情が冷めるのが、人の心の機微である――と言えばアントクに酷であろうか。


 ともかくウシワカは、これまで殺したいほど憎んでいたアントクに興味を失った。

 それよりも優先事項があった。


「ウシワカーっ!」


 叫ぶアントクのカイトを見ながら、もうウシワカは別の事を考えていた。


 平氏の母艦を強襲する際の強敵と思っていたアントクが、ウシワカ憎しの思いで愚かにも前線に乗り出してきている現状。

 すなわち今、母艦の防衛能力はそれだけ低下しているという事であった。


「ベンケイ、行こう!」


 ウシワカはシャナオウを海戦リフターから浮上させると、すぐにそれを飛行形態に変形させる。


「――――!」


 アントクにも、ウシワカの意図が読めた。


「お前はここにいろ。帰る場所をなくしてやる」


 そう捨てゼリフを残すと、ウシワカは母艦を目指しアントクを置き去りにして、戦域を離脱していく。


「卑怯な! 戻れ、戻りなさい!」


 アントクの声が空しくこだまする。

 急ぎ海戦リフターに乗りウシワカを追おうとするが、戦闘機の速さに追いつける訳もなく、その姿はみるみる小さくなっていった。


 そして、敵本陣突入ともいえる母艦強襲へと戦術をシフトしたウシワカだったが、平氏軍もそれへの対策は十分だった。


 迎え討つ平氏の戦艦は、主砲に榴弾を装填している。

 榴弾とは弾頭が炸裂する事で、広範囲の敵に打撃を与える事ができる弾丸である。

 また戦艦の主砲は高度一千メートルまで射程があり、それはシャナオウの限界高度を優に超えていた。


「クソッ!」


 機甲武者戦の戦域を離れ、艦隊群に突入したウシワカだったが、空中に爆裂四散する榴弾をかわすのが精一杯で、とてもではないがその奥にいる母艦までは、たどり着けそうにない。


 狙いは母艦の上でサウザンドソードを打つ事だが、荒天かつ暗闇だったヤシマの時とは違い、現在は晴天である。

 下手に空中で詠唱を始めれば、たちまち対空砲火の餌食になる事は、火を見るより明らかだった。


 戦況はまだ機甲武者戦が一進一退の様相であり、艦隊戦には移行していない。

 つまり敵艦隊に突入したウシワカは、それを一人で相手にしている事になり、状況は圧倒的に不利であった。


 初めての本格的な海戦に手を焼くウシワカだったが、そこは天才戦術家である――すぐに発想を切りかえた。


 ――高度が取れないなら、下から行けばいい。


「ベンケイ、敵を見ていて!」


「分かったわ!」


 ウシワカは背中を抱くベンケイに索敵をまかせると、飛行形態のシャナオウを一気に海面すれすれの高度まで降下させる。

 そして敵戦艦と同じ高さで、その中を縫うように飛行していった。


「右護衛艦、機銃来るわよ!」


 操縦に集中するウシワカに、ベンケイが敵の迎撃を逐一伝える。


 平氏軍も同士討ちを避けるために、シャナオウに大口径の砲弾を使えない。

 ウシワカの卓越した操縦技術とベンケイのナビゲートあっての事だが、低空進入という狙いは見事に当たり、シャナオウはみるみる平氏の母艦である大型空母に近付いていった。


 ――艦隊が健在である以上、サウザンドソードは使えないが、それなら母艦に乗り込み直接破壊すればいいだけの事。


 もうすでにウシワカの頭脳には、新たな戦術プランが構築されていた。


 状況に応じて、くるくると戦術を変えるそのやり方にも、パートナーのベンケイは驚かない。

 むしろ阿吽の呼吸でその意図を理解すると、


「ウシワカ、機体の霊力は残りわずかよ。時間をかけず一気に勝負をつけて!」


 と、目的達成における必要要素を的確にアドバイスする。


 ウシワカとベンケイ――運命によって結ばれた少女とツクモ神。

 その絆は、心技体すべてにおいて、まさに一心同体であった。


 そして、アクロバット飛行を続けた二人の視界に、ついに母艦の姿が映る。 


 御座船をヤシマで失った平氏が、新たな御座船として定めた大型空母。

 その百メートルを超える全長は、まるで海に浮かぶ城の様であり、海戦の平氏の名に恥じない圧倒的な存在感を誇っていた。


 その甲板に艦隊群の網を潜り抜けたシャナオウが、まるで航空母艦に着艦する様にすべり込んでいく。


 着地寸前に、人型形態に変形したシャナオウが――全長八メートルの機甲武者が、たった一機でついに平氏の本陣に乗り込んだ。


 艦橋からそれを見た平氏棟梁、(たいらの)ムネモリはその姿に恐怖する。

 イチノタニ、ヤシマ、いずれの(いくさ)も、この薄緑色の機甲武者によって平氏は敗北に追い込まれたのだ。


 その敵が、ダンノウラの海にも現れた。

 もはや平氏には逃げる場所も、帰る土地もない。この最果ての海での敗北は、平氏の滅亡を意味していた。


 そしてウシワカも、艦橋を睨みつける。


 ――民のため、平氏を倒さなくちゃいけない。


 そんな思いから始まった少女の戦い。その討滅を誓った敵の棟梁が今、目の前にいる。


 銃口を向けてくる、甲板に配備された防衛部隊の機甲武者たち。

 それをすべて撃破し、この空母を破壊した時――戦いは終わる。


「いいやああーっ!」


 シャナオウにセイバーを引き抜かせ、咆哮を上げながら敵機に斬りかかっていくウシワカ。


 その時、ダンノウラの潮の流れも、静かに反転を始めようとしていた。


Act-06 御座船突入 END


NEXT Act-07 八艘飛び


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