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神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第11話:シズカゴゼン
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Act-06 ゴトバ帝誕生


 ヨリトモは東王に即位してから間髪入れずに、それを全土に向けて広く喧伝した。

 狙いはゴシラカワ崩御後の『源氏政権』の確立。


 おそらく混迷する政局の中で、平氏は皇女アントクの即位を主張して、それを奉戴する事で巻き返しをはかってくるだろう。

 そうなる前に平氏を滅ぼし、衰退した朝廷を含め、まずはすべてを源氏の傘下に収める。


 その上で皇統と平氏を平和的に復活させ、三種の神器の発動要件を満たし、タマモノマエに相対する――それがヨリトモのプランであった。


 無謀は承知の上――だがもはや言葉による和合を果たすには、源氏も平氏も複雑になり過ぎている。


 すべてをリセットしてやり直すしかない。

 何度も迷った。だがもう迷う時間すら惜しい。ゴシラカワの崩御は、刻一刻と確実に近付いているのだ。


 まずはヤシマを制圧する。できればそれで、平氏の息の根を止めたい。


 そのためにヨリトモは今、ロクハラベースの司令室でツクモ神マサコと、タマモノマエの真相を明かした腹心の梶原カゲトキと大江(おおえの)ヒロモトの四人だけで、作戦内容の最終確認をしていた。


「キュウベイは使えるのだな?」


「はい。テストの結果では、キュウベイの魔導弓は射程一千メートル以内でしたら、百発百中です」


 ヨリトモの問いに、作戦参謀と共に機甲武者開発の責任者も兼ねるヒロモトが、新型機甲武者の成果に胸を張ってそう答える。


「予想以上の性能だな……」


「天使の魔導鎧の中でも、かなりの亜種でしたが、遠距離戦であればシャナオウにも引けを取らないと思われます」


「そうか……。空母の準備はどうなっている?」


 続いてヨリトモは進攻の要となる艦船の調達状況について、総大将を務めるカゲトキに問い合わせる。


「ヨリトモ様の東王即位を知り、セッツとクマノの水軍から提供された空母二隻が出航可能です」


「機甲武者は?」


「それぞれに三十機搭載するのが限界です。ですがガシアルの海戦用リフターは全機分確保できております」


「これまでに集まった戦艦二十隻と、それが全戦力か……」


 カゲトキの報告に神妙な面持ちになるヨリトモに、


「ヨリトモ――」


 静かに、だが力強い声で、傍らに浮くマサコがそれだけを口にする。


(――もはや考えている時ではないか)


 ヨリトモもそう思い定めると、


「出撃は今夜――ヤシマに奇襲を仕掛け、平氏を討つ」


 と、平氏との最終決戦に臨むべく、その出兵を静かに宣言する。


 そして最後に、事さら慎重な面持ちでヨリトモは、


「カゲトキ、ヒロモト……頼んだぞ」


 と、出陣する両腹心に重ねてそう言った。


 その目に――もはや源氏棟梁ではない――王としての冷酷な光が宿っている事に気付いた二人は、その意を汲み取ると、出兵準備にかかるべく足早に司令室を後にしていった。

 


 その夜半、キョウト西方のセッツの港から出撃した源氏艦隊の中で、ウシワカはベンケイと共に静かな時間を過ごしていた。


 そんな彼女の周辺に起こった、二つの変化――


 一つ目は、親友である常陸坊(ひたちぼう)カイソンが、大江(おおえの)ヒロモトの属官として源氏軍に採用された事である。


 ヤマト平定戦で、その類まれな才能を見抜いたヒロモトは、シャナオウ改修にもその独創的な開発力を発揮したカイソンを、フクハラ戦の後、ついに技術士官としてスカウトした。


 カイソンの方も、従軍すればウシワカの側にいられる事と、これまでの源氏軍機甲武者の開発資料をすべて閲覧できるという好待遇に、一も二もなくそれを了承したのである。


 そして今も二人は空母の甲板で、機甲武者談義に花を咲かせている。


「今回の奇襲も、先鋒のシャナオウの空戦能力にかかっています。しかし――」


 そう言ってヒロモトは、カイソンの顔をまじまじと見つめると、


「機甲武者を鳥にする……。まさか本当にそれを実現させるとは――あなたの才能には本当に驚きました」


 新たな部下ながら、同じ技術者として前代未聞の偉業を成し遂げた先駆者に、惜しみない賛辞を送る。


「いえいえいえ、私は設計図を書いていただけですよ。それを錬成してくれたのはベンケイさんのおかげです」


 対するカイソンは恐縮しきりだったが、憧れのヒロモトに褒められた事でテンションが上がってきたのか、


「でも、神造兵器のシャナオウは特別でしたが、ガシアルも海戦用リフターで浮遊移動が可能です。この理論を応用できれば、変形機構は無理でもいずれ空戦型の機甲武者も作れると思います」


 と、ヒロモトが舌を巻いた――そのあふれる着想を、夢を見るように声高らかに語りだす。


「もしかして――その設計図もできているのですか?」


 ほがらかな表情ながら、その眼鏡の奥の瞳を光らせ、ヒロモトが問いかける。


 ――この才能を放置していては、いずれ機甲武者の軍事的パワーバランスを崩す事態もありえる。


 作戦参謀の側面も持つ彼女は、そんな未来を懸念したのであるが、


「……秘密です。でもいつか必ず、ヒロモトさんにその機体をお見せしますね!」


 ごまかす訳ではなく、本心からそう言ってはにかむカイソンに、それ以上の詮索を諦めると同時に、自身の深読みに思わず苦笑した。



 そんな一見なごやかな雰囲気とは対照的に――『もう一つの変化』は、中々に騒々しかった。


「もうヨイチ、あんまりウロウロしないでよ!」


「すまない、サブロー」


 それは伊勢サブローと――このヤシマ戦のために、新型機甲武者キュウベイのパイロットとして――東方から召喚された那須(なすの)ヨイチの声だった。


「アンタは目を離すとすぐ迷子になるんだから、アタシの目の届くとこにいてよ!」


「いや空母に乗るのは初めてなもので、東方の田舎者にはすべてが珍しくて……」


「言い訳しない!」


「すまん」


 二人のやり取りはまるで、尻に敷かれた亭主と古女房の様であった。


 なぜこうなったかというと、都に上り右も左も分からぬヨイチに、従者が付けられる事になった時、


 ――このロクハラに伊勢サブローという盗賊の少女がいるはずです。ぜひその者をお願いいたします!


 と、彼が言い出した事が発端であった。


 サブローはウシワカの親友のため、源氏軍もすぐに彼女にコンタクトを取れたのだが――ヨイチに引き合わされたサブローは、自分を指名してきたのがロクハラのゲートで遭遇した、あの青年だった事に驚いてしまった。


 あの時、サブローはヨイチの温和ながら(たくま)しい武者ぶりに、生まれて初めての胸のときめきを覚え――同時にヨイチも自分を盗賊だと名乗り、颯爽と消えていった少女に忘れえぬものを感じ、ずっとまた会いたいと思っていたのだった。


 そんな二人が再会したのだから話はすぐにまとまり、サブローはヨイチの従者として、カイソンに続き源氏軍入りした。

 そして、彼らが恋仲となるのに時間はかからなかった。


 純朴を絵に描いた様な若き魔導武者と、がさつを丸めて人になった様な盗賊の少女が結ばれたのは、ある意味奇縁であった。


 それでも二人はいつも――騒々しいが――仲睦まじげに寄り添い、このヤシマ出兵でも周囲の者たちに失笑されながらも、明るさを振りまいていたのである。



 そんな中、ウシワカはある思いに囚われていた。

 それはヘイアン宮で、母ゴシラカワとの別れを終えた後――一条ナガナリに母の伝言を告げた、帰り道の事だった。


 ロクハラへの途上、ウシワカを待ち受けていた者がいたのである。


 それは、ウシワカの父、(みなもとの)ヨシトモのガシアルを上洛した源氏軍に大見得と共に披露し、その後ウシワカにヨシトモの髪結い紐を、彼の残留思念が宿った遺品として託した破戒僧――モンガクであった。


 その神出鬼没の登場に、警戒心を抱くウシワカに、


「ヤシマに……平氏を討ちに参られるか?」


 と、先に口を開いたのはモンガクだった。


「行くよ」


 ヨリトモに先鋒を命じられたウシワカは、その高揚感も相まって思わずそう即答した。


「拙僧の星詠みでは……お主はもうここには戻って来れぬと出ておる……。それでも参られるか?」


「行くよ」


「何ゆえ?」


「お姉ちゃんのためだから」


 それだけ言うと、ウシワカはもう何も言わずに足早に去っていった。


 その背中を見送るモンガクが、


「悲しきかな運命の子……。ヨシトモ殿、あの子を守ってやってくだされ」


 そう言った時、ウシワカは気付かなかったが、彼女のポニーテールに結ばれた、父の髪結い紐は鈍い光を放っていた。


 その時は、モンガクの言葉など気にも留めていなかったが――今になって、『もう戻れない』と言われた事に、ウシワカは漠然とした不安を覚える様になっていたのである。


「どうしたの、ウシワカ?」


 そんなパートナーの心の揺れを感じたベンケイが声をかけるが――今やウシワカと一心同体の様になったこのツクモ神も、実は漠然とした不安を抱いていた。


 イチノタニの大戦果があったとはいえ、これまで腫れ物に触る様に扱ってきたウシワカを、ヨリトモが先鋒に指名した――その突然の方針転換が解せなかったのである。


 だがベンケイも、それを口には出せなかったので、


「ううん、なんでもないよ」


 と答えたウシワカに、「そう……」と、彼女もまた曖昧な言葉を返す事しかできなかった。


 そんな不安を埋める様に、


「トキワがヨリトモを東王にしてくれたおかげで、互角とはいかないけれど、源氏も戦力が整ったわ」


 と、ベンケイは、二人にとって愛する存在がもたらしてくれた、前向きな要素に話題を転換する。


「そうだね」


 それに笑顔を取り戻したウシワカも、宙に浮くベンケイの手を握ると、


「母さんのためにも……勝とう」


 と、気を取り直し、あらためてこの平氏との最終決戦への勝利を誓うのだった。




 その時、トキワ――今上帝ゴシラカワの身にも異変が起こっていた。


 ヘイアン宮の御座所の床に横たわる女帝。その胸は深々と刺し貫かれていた。

 そして哄笑を浮かべる女が、その衣服を剥ぎ取り、血塗られた装束に身を包む。


「フン。八年もの間、よう(わらわ)を封印していたものよ。その事は褒めてやろう……我が不肖の娘よ」


 そう言った女は、狐の耳に九本の尾を携えた、美しき異形の怪物。――惑星カラよりヒノモトに飛来せし太古の天使、タマモノマエであった。


 そして、ついに復活を遂げたタマモが、高らかに宣言する。


「これよりヒノモトは妾が支配する! 我こそは新しき帝――ゴトバ帝である!」


Act-06 ゴトバ帝誕生 END


NEXT Act-07 母なるシズカ


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