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神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第11話:シズカゴゼン

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Act-02 皇女参戦


 ――水上都市ヤシマ。


 フクハラ南方の海に浮かぶこの海上要塞は、西方における平氏『第二の都』といっても過言ではなかった。


 かつて平氏は、このヤシマベースによって制海権を握り、フクハラベースで地上制圧を行う事で、西方の支配圏を確立してきた。

 平氏がキョウトから都落ちしたのも、この鉄壁の二大拠点あっての事だったのである。


 ――その状況が変化した。


 ウシワカの奇襲で防衛能力が低下した、不利な状況での長期戦を避けた(たいらの)トモモリの決断で、フクハラベースが放棄されたのである。


 そして源氏軍の多くの者が、


 ――これで平氏を、海の孤島に追い詰めた。


 と、まるで戦争が終わるかのごとく歓喜した。


 だがその考えは甘かった。


 敵地を得ればそこには駐屯軍が必要になる。

 当然、源氏軍も不慣れな遠征地に軍を散開させ、その制圧を維持し続けなければならなかった。


 そこに南海から平氏軍が、進出鬼没の奇襲を日夜仕掛けてきたのである。


 元来、東方の平野を本拠地とする源氏は陸戦に特化しており、対する平氏は西方の陸海に蟠踞(ばんきょ)していたため、海戦にも精通していた。

 ゆえに海側の制圧陣地に、ただ展開し続けるだけの源氏軍など、平氏にとっては格好の的であった。


 ヤシマから進発する攻撃部隊は、時に艦砲射撃、時に水陸両用機甲武者カイトで、源氏軍をあざ笑うかの様に翻弄し続けた。

 そのせいで一部の源氏将兵の中には、無断でキョウト帰還を目論む者まで出てくる始末であった。


 まだ源平争乱は――終わってなどいなかったのである。

 


「よーし、今日も源氏を叩いてやったか!」


 ヤシマベースの司令室に、平氏棟梁――(たいらの)ムネモリの笑い声が響く。

 艦船を持たない源氏軍に対し、ゲリラ的な奇襲を繰り返す平氏は、見た目上では連戦戦勝であった。


 だが上陸戦の上、失地を回復できた訳でもない――いまだ戦況は平氏にとって苦しいのが現実であった。

 なのにそれを(わきま)えず目先の勝利に、この凡庸な貴族的棟梁は大笑する。


 そこにいつもなら、


 ――何を呑気な!


 という、副将トモモリの声が飛んでいたはずであった。

 だが、そのトモモリはいない。


 だから代わりに、


「ムネモリ殿。我らの使命はキョウトに、アントク様にお戻りいただく事ですぞ。その事、ゆめゆめお忘れなき様に!」


 と、緩んだ顔のままでいる棟梁を叱咤したのは、その母である(たいらの)トキコ――亡きキヨモリの妻、皇女アントクの外祖母であった。


 先にも触れたがムネモリは、キヨモリとトキコの実子ではない。

 整理すると、まず先代キヨモリはシラカワ帝が、キヨモリの義父タダモリの『姉』に産ませた子である。


 それをシラカワ帝は――三種の神器発動の要とするために――平氏嫡流であるタダモリの長子としてねじ込んだのである。


 だが長じて真相を知ったキヨモリは、義父の実子である『義理の弟』の子を、自身の長子と偽り――平氏の正統を旧に復してしまった。

 それはまるでシラカワ帝への意趣返しであった。


 この秘事について、トキコはキヨモリになんの異も唱えず、すべてを受け入れた。

 もちろんタマモノマエや、三種の神器の件は明かされていない。


 それでもトキコは夫を信じ、まだ赤子だったムネモリを自分の子として――平氏の後継者として今日まで育て上げてきたのであった。


 今、不在の実子トモモリがヤシマに到着早々、ツクモ神トキタダを伴いイツクシマに向かうと言った時も、トキコは何も聞かずにそれを送り出した。


 ――きっとトモモリには平氏を思う深い考えがある。


 亡き夫キヨモリの時と同じ様に、彼女はその息子の考えを信じたのである。


 それだけにトモモリ不在の今、その代わりを務め平氏を支えんと、トキコは日々司令室においてムネモリを督戦していたのであった。


 平氏諸将も賢夫人の誉れ高いトキコのそのカリスマ性に、今や絶対の信頼を寄せている。


「一時の勝利に気を緩めてはなりません。皆、よろしいですね」


「ははっ!」


 トキコの言葉に一同の士気が高まる。こうなるといったい誰が棟梁なのかと、ムネモリはいたたまれくなり、司令室の居心地が悪くなる。


 だがムネモリの居心地の悪さには、もう一つ理由があった。

 それはトキコの側にいつも寄り添っている、皇女アントクの存在であった。


 タカクラ帝の後継者と目されながら、摂政シンゼイの策謀でゴシラカワに皇位をかすめとられ、都落ち、フクハラ陥落を経験した流転の皇女。


 トキコを『お祖母(ばあ)様』と慕う彼女は、最近は司令室にまで顔を出すかと思えば、


「夜討ち朝駆けのタイミングを微妙にずらすのです。そうすれば源氏軍は、いつ我らの襲撃が来るか気が休まらず、疲労が深まります」


 とか、


「戦線をさらに伸ばす事ができれば、それだけ敵の戦力は分散され、フクハラとキョウトへの同時攻撃も可能になるでしょう」


 などと、どこで学んできたのか戦術戦略を口にする様になってきた。


 そして今日に至っては、


「源氏軍もこのまま手をこまねいてはいないはず。艦船の調達が済めば、すぐにもここに攻めて参りましょう。皆、油断なきよう」


 とまで言い出す始末である。


 元々が聡明な皇女だっただけに、日に日に諸将もアントクの言葉に耳を傾ける様になっている。聞けば機甲武者の操縦も学んでいるというではないか。


(とんだお転婆(てんば)娘になったものだ)


 と、ムネモリは内心苦い顔をするが、アントクには明確な意志があった。


 ――来る。あの女は必ず来る。


 それはイチノタニの空から、フクハラの都を炎に包み、愛しきシゲヒラを奪った魔導武者。


 アントクは来たる迎撃戦――『ヤシマの戦い』を予感していたのである。


 ――(みなもとの)ウシワカ。お前だけは絶対に私の手で殺してやる!


 皇女は涼やかな瞳に秘めた憎悪を燃やすと、それから東の空をじっと見つめた。


Act-02 皇女参戦 END


NEXT Act-03 if


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