表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第10話:イチノタニの空
67/101

Act-08 燃える都


 都が――フクハラが、アントクの目の前で燃えていた。


 見上げた空から、イチノタニの断崖を急降下してきた正体は、ウシワカの駆る飛行形態のシャナオウマークⅡ。

 それが、搭載されたキャノン砲を放った瞬間、フクハラベースに爆炎が上がった。


 地上攻撃をものともしない、天然の要害イチノタニをあざ笑う様に、シャナオウは舞い上がり急降下を繰り返すと、やがて平氏の都は紅蓮の炎に包まれた。


 そして頃合いよしと判断すると、緑の鳥は人型へと姿を変えた。

 その姿をアントクは知っていた――それは憎っくき源氏の女、ウシワカが乗る機甲武者であると。


「いやーーーっ!」


 半ばアントクは発狂状態となる。


 それをシゲヒラが肩を抱いて制するが、シャナオウは人型形態でも翼を広げホバリング状態を維持すると、手にした二十ミリ機関砲を撃って撃って撃ちまくる。

 格納庫、弾薬庫、果ては居住区まで――それはまさに無差別攻撃であった。


 そして、シャナオウがいくつ目かのマガジン交換を終えると、機体はフクハラベースの大手門に向かい飛んでいく。

 目的は一つ――外に布陣している源氏軍を引き込む事であった。


 その頃、討伐軍の総大将である梶原カゲトキも、伝令からの報告でフクハラベースの異変を知ったところであった。


 難攻不落をうたわれたフクハラベースが燃えている。これはどうした事であろうか⁉︎


「急ぎ斥候を――」


 カゲトキが口にした時――もう軍は動いていた。


 白の軍団――源氏軍が燃える都に向け、ひた走っている。


「待て、動くな! ヨリトモ様は動いてはならぬと!」


 そんなカゲトキの叫びなど届くはずもなかった。仮に届いたとしても、笑止千万と一笑に付されるのがオチであったろう。


 源氏諸将の目的は恩賞である。そのために彼らは(みなもとの)ヨリトモという、魔導適性すら持たない女を棟梁として仰いでいるのである。


 ヨリトモの惑星ヒノモトを救わんとする、気高き理想など彼らは知る由もない。

 そもそもヨリトモはそれを明かしていないし、彼らの利権に対する欲望を利用して、ここフクハラまで進軍させたのもまた事実である。


 ならばこの状況において、これは当然の結果だったといえる。


 そして餓狼の群れと化した源氏軍は見た。フクハラベースの大手門を破壊し、颯爽と上空に舞い上がる薄緑色の機甲武者を。


 源氏軍においてそれは戦陣の女神――例えるなら、百年戦争時のジャンヌダルクに見えたかもしれない。

 それに導かれる様に源氏軍は、フクハラベースへと乱入した。

 


「緑の機甲武者! あれは源氏の――奴か!」


 フクハラベースの司令室でも、(たいらの)トモモリが動揺と共に絶叫していた。


 以前、ヘイアン宮強襲の際に遭遇したシャナオウが、自分たちに奇襲を仕掛けてきた――それはすなわち、源平和合の交渉が破綻した事を、この聡明な武人はすぐに悟った。


 そして状況を確認する。

 外郭はともかく――想定外の空からの攻撃に――無防備なベース内は、その七割がなんらかの被害を受けている様子であった。


「ヤシマに撤退するぞ!」


 すぐにトモモリは決断を下した。


「ちょ、ちょっとトモモリ⁉︎」


 それにツクモ神トキタダは戸惑う。

 だが、その時のトモモリの顔は、焦燥の中でも冷静そのものであった。


「もうここで戦線を維持するのは無理だ。時を逸すれば――ここで平氏は終わる!」


「……分かったわ」


 亡きキヨモリの才を強く受け継いだトトモリ。彼がそう言い切った事で、トキタダも腹をくくった。


「アタシは、アントクのとこに行くよ」


「頼む。俺は軍をまとめて一旦迎撃に出る」


 それから機甲武者部隊を率いたトモモリが参陣した事で、すぐに両軍の戦闘は互角の様相となった。


 その理由は、状況に対応したとはいえ、抜け駆け同様の源氏軍の動きは、その統制が取れていなかったのである。

 半月近い意味の分からない対陣。それに飽いた彼らは、その鬱憤を晴らす様に、乱取りに走ったのだから、それも無理からぬ所であった。


 ゆえに奇襲の効果が薄れてきた頃、新型機甲武者――水陸両用機『カイト』を率いたトモモリが、木曽軍を壊滅させた水堀からの強襲をかけると、今度は源氏軍が算を乱す展開となった。


 名目上の総大将――その実質は源氏諸勢力の軍監――である梶原カゲトキの参陣で、源氏軍もようやく態勢を立て直したが、戦上手のトモモリの迎撃に手も足も出ない状況は変わらず、ベース内に乱入した源氏軍は、次第に押し戻される結果となった。


 そして、このまま戦闘がジリ貧となり、両軍ともこれ以上の戦果が見込めないと判断した時――(いくさ)は終わる。

 迎撃軍を率いるトモモリも、すでにその後の撤退計画を考えていた。


 その時同じく、戦がもうすぐ終わると判断した者がいた。


 残された時間はあとわずか――ならばそれまでに、もっとも敵に痛撃を与えられる人物を討ち取る!


 ――天才戦術家の冷徹なる計算。


 それはシャナオウで、燃えるベース内をくまなく探索するウシワカであった。


「どこかにアントクの御所があるはず! ベンケイ、それを探して!」


 血走った目でウシワカが叫ぶ。

 フクハラベースは要塞都市であるため、その全体は想像以上に広い。上空から探してもそれは困難な作業であった。


 全天周囲モニター上を、ウシワカとベンケイの二人の目がせわしなく動く。

 そして奥まった小さな湖畔の傍らに、壮麗な建築物を見つけたベンケイが、


「見つけた、きっとあれよ!」


 と、その方角を指さすと、瞬間、ウシワカの顔が歓喜に破顔した。


「キシ、キシシシッ」


 ウシワカが妙な笑い声を漏らす。


 ようやくアントクを殺せる――先帝の娘だかなんだか知らないが、シャナオウさえ反応する強大な魔導力を持ち、事あるごとに自分にその独善的な正義をぶつけてきた小娘。


 憎かった。生理的に純粋に憎かった。


 おまけにアントクは、源氏の仇敵である平氏が奉戴している。それを殺す事は『使命』である。


 きっと姉ヨリトモも喜んでくれる。ようやく自分の事を褒めてくれる。


 ――お姉ちゃん。お姉ちゃん。ヨリトモお姉ちゃん。


 もはやすべてを曲解した無垢なる狂犬は、その姉がなんとしても保護したかった皇女を殺害するべく、御所に向け急行する。


 そしてシャナオウを、飛行形態から人型形態に変形させると、


「死ね、死ね、死ねーっ!」


 ウシワカの狂気の叫びと共に、その二十ミリ機関砲が雨のごとく御所に向け撃ち込まれた。


Act-08 燃える都 END


NEXT Act-09 憎悪の炎


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ