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神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第10話:イチノタニの空
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Act-03 女帝の過去

 

 ヨリトモは動揺こそすれ、その凛としたまなざしに揺らぎはなかった。


 それを見定めるとゴシラカワは、


「こ奴の正体……それは『惑星カラ』より落ちのびてきた――太古の天使だ」


 と、自身の母であるタマモノマエについて、その知られざる出自を明かす。


「惑星カラ……異星の天使だというのですか?」


 そして、これまで沈黙を貫いてきたヨリトモが、ようやく口を開く。


「そうだ」


 ゴシラカワの短い返答――そこから、


「封印はいつまで()つのですか?」


「私次第だな……だが、そう長くは保つまい」


「陛下がおやつれになっているのも?」


「不甲斐ない話だが、そのせいだ」


「では、私をお呼びになったのも――」


「そうだ……もう時間がないのだ」


 と、ヨリトモとゴシラカワの間に、短い会話が次々と続く。


 ――まるで以心伝心の様な、意思の疎通。


 ゴシラカワは、自分が(みなもとの)ヨリトモという人間にかけた期待が、間違いでなかった事に安堵した。


 だが、話についていけないマサコが、


「どういう事よ? アンタがこの化け物を封印してるっていうの? それに時間がないって、どういう事なのよ⁉︎」


 と、たまらず口を挟む。


 それに答えたのはゴシラカワではなく――ヨリトモと同じくここまで沈黙を貫いてきた、僧形の摂政シンゼイであった。


「陛下は……トキワは、己の命と引きかえに、タマモノマエを封印していたのだ――」


 彼は女帝を、その即位前の名前で呼ぶと、


「しかも、即位してから……一睡もする事なく、今日まで魔導力を使い続けて……」


 そこまで言って、声を詰まらせる。


「――――⁉︎」


 ゴシラカワの即位は、今から八年前である。その間、朝政を総覧しながら、同時に不眠不休で封印を行なっていたという事実に、ヨリトモとマサコは絶句する。


「まさか……そんな」


 宙に浮きながら首を振るマサコに、


「私も気付かなかった……。だが惑星カラの日食、ヘイアン宮の魔導結界の停止――トキワの衰弱と共に、タマモの私たちへの妨害が始まった」


 シンゼイは、己を責める様にそう呟く。


 そして御座所は、しばし沈黙が支配するところとなった。


 そこに、


「陛下――それでお話とは?」


 ヨリトモが冷静な声で、言葉を放つ。


 それには、これまで常に彼女の傍らに寄り添い、支え続けてきた、源氏のツクモ神マサコでさえ驚いた。


 凡人であるがゆえ、表情さえも殺し、常に相手の出方を見定めてから動くヨリトモが――この局面で、自分から動いたのだ。


 それはこのキョウト入りの途上で、逡巡の末、己の源氏棟梁の運命と立ち向かうと――天下人になると誓った、まさにヨリトモの覚醒であった。


「フフフッ」


 それを感じたゴシラカワも、そのやつれた顔に満足そうな笑みを浮かべると、


「ヨリトモよ。これを――タマモノマエを討ち取り、ヒノモトを平安たらしめてくれ」


 と、ヨリトモを招いた理由を、彼女の凛とした目を見つめながら、静かに申し渡した。




 その頃、一条ナガナリ亭にいるウシワカも、母トキワの出生の秘密を聞かされ、目を丸くしていた。


「母さんは、タカクラ帝の双子のお姉さんだったの⁉︎」


「そうじゃ。だが、双子は『畜生腹』といって不吉を招くといわれ……じゃから朝廷は女子(おなご)のトキワの方を、儂のところに預けられたのじゃ」


 ナガナリは古き因習を嘆く様に、ウシワカにそう答えると、


「それからトキワは、儂の子として育ち、そして『ホウゲンの乱』の前年、都入りした源氏の御曹司、ヨシトモ殿と出会い、そして恋に落ち……『ヘイジの乱』の年に、お主を身籠ったのじゃ」


 と、まるで自分の孫を見る様なまなざしで、ウシワカの頭を優しくなでる。


 その初めて体験した肉親のごとき情に、ウシワカが戸惑いと共に、姉ヨリトモから得られなかった安堵を感じていると、


「そして『ヘイジの乱』で、ヨシトモ殿は討ち死にされ、トキワはお主を守るために――ヨシトモ殿の従者だった鎌田マサキヨ殿の所でお主を産み、その孫として育てる様に、お主を託したのじゃ……」


 続けてナガナリは、ウシワカがキョウト北方クラマで、鎌田マサキヨの孫娘として育った理由について、その謎を明かす。


「じっちゃん……」


 厳しくも優しかった育ての親、鎌田マサキヨ。その家族愛溢れる日々を思い出し、ウシワカばかりか、隣にいる伊勢サブローと常陸坊(ひたちぼう)カイソンも、一緒に涙ぐむ。

 サブローはウシワカの悪友として、カイソンはマサキヨのメカニックの弟子として、皆分けへだてなく愛情を注がれていたのである。


「それから七年……タカクラ帝が崩御され、本来ならその皇女、アントク様が帝となられるはずじゃった――」


 ナガナリの口から発せられた、アントクという名に、ウシワカの顔が一瞬で曇る。


 皇女アントク――ヘイアン宮での対トキタダ戦で、ウシワカの乗機シャナオウを、その強大なる魔導力で拘束したタカクラ帝の一人娘。

 そして、その清らかなる正義の心に、ウシワカが生理的嫌悪感を激しく刺激され、殺害を決意したほどの憎き相手。


 だがナガナリは、そんなウシワカの心のさざ波に気付く事もなく、


「じゃがアントク様は、同時に(たいらの)キヨモリの孫娘でもあり、当時権力の頂点にあった平氏のこれ以上の朝政介入を恐れた、摂政シンゼイが目をつけたのが――トキワだったのじゃ」


 と、畜生腹として捨て子にされた、自身が育てた皇女の数奇な運命に、思わず涙声となる。


「そして、トキワは帝となるため、ここを出て行く時に言ったのじゃ――『私は戦いに行かねばなりません』と。あれから八年……あの子は、いったい何と戦っておるのか……」


 それが異星の天使であろうとは、知る由もないナガナリの言葉に、


「母さんの……敵……」


 戦士であるウシワカの目は直感的に、まだ見ぬタマモノマエに向け、妖しい光を放っていた。


Act-03 女帝の過去 END


NEXT Act-04 三種の神器


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