Act-05 トモエ乱舞
「――――!」
爆風に大将車付近の兵が、身をよじらせる。
だが、バキの爆発はその五十メートル以上手前だったため、ヨリトモを害するには至らず、彼女は無傷であった。
棟梁の無事を確認し、将兵たちが安堵する中、爆発による砂塵が少しずつ晴れ、前方の視界が開けてくる。
すると、
「シャナオウが……」
と、大将車に同乗しているヒロモトが、唖然とした声を上げる。
それにヨリトモもすぐに反応し、バキを止めるために爆散した、妹の機体に目を向ける。
ヨリトモを装甲車ごと吹き飛ばせるレベルの爆発を、その身で防いだシャナオウは、両腕両足がすべてちぎれ飛び、地に転がる胴部も装甲のほとんどがなくなり、動力部がむき出しの状態になっていた。
それはもはや、完全撃破されたといっても過言ではない惨状であった。
「う、ウシワカ……」
思わず、そう呻いたヨリトモだけでなく――すべての者が、今や鉄塊と化したそのコクピットにいる、ウシワカの死を思った。
だが――
機体の胴部中央が、ほの暗い光を放ち始め、やがてそれが球状となって、浮き上がり弾け飛ぶと――なんとそこから、ツクモ神ベンケイの胸に抱かれた、ウシワカが無傷の状態で出てきたではないか。
「――――⁉︎」
一同が呆然とする中、
「ベンケイ、苦しいよ……」
ツクモ神の抱擁の強さに、息苦しさを覚えた少女が、苦情の声を上げる。
「ベンケイ殿……」
まだ複雑な顔をしたままのヨリトモより先に、ヒロモトはベンケイの神通力がウシワカを救った事を悟り、安堵の声を漏らす。
事実もその通りで、ベンケイは、トモエがバキを捨てた瞬間、彼女が機体を爆破すると気付き、即座に魔導シールドを全力で展開し、ウシワカを守ったのだ。
しかもそのシールドは平面の魔法陣ではなく、コクピット全体を覆う球状の魔法陣であり、それはまさに『脱出ポッド』といえるものであった。
それはツクモ神とはいえ、あまりの変則技であったが――ベンケイはシャナオウの依り代である『ヤサカニの勾玉』に宿ったツクモ神であり、その母体ともいえる機体の中だからこそ、そんな荒技も可能だったのである。
ともあれ、ベンケイの瞬間的な機転で、ウシワカは難を免れた。
だが、これで変事が終わった訳ではなく――
「ぐわっ!」
「ぎゃっ!」
と、ヨリトモ周辺から、次々に断末魔の叫びが聞こえてくる。
――何事⁉︎
と、ヨリトモはじめ一同が、その方向に目を向けると、そこには双刀を華麗に振りかざす、一人の女の姿があった。
双刀はいずれも光刃――それは魔導力を持つ者だけが使える『セイバー』であった。余談だが、機甲武者のセイバーも同様に、そのパイロットである魔導武者の魔導力で成り立っている。
すなわちセイバーを両手に持つ女は『魔導武者』――その正体は木曽ヨシナカの妻、トモエであった。
その目が憎しみの炎に燃えている。バキを捨て、機甲武者を失いながらも、トモエは報復を完遂するべく、その身ひとつでここまで乗り込んできたのである。
「源ヨリトモ! そのお命――頂戴する!」
トモエはそう叫ぶなり、両手のセイバーを激しく乱舞させる。
すると、その刃の餌食となった源氏本軍の歩兵たちが、叫びを上げながら倒れ――光を放ち大地の霊脈と化して――この世から消えていく。
斬り、また斬り、斬り続ける。それは、魔導力を込めた物理攻撃武具を駆使する――機甲武者発明以前の魔導武者の戦い方であった。
その鬼神のごとき武者ぶりに、源氏本軍の兵が恐れおののく。
中には刀槍で応戦する者もいたが、魔導力を込めたセイバーの威力はケタ違いであり、武具ごとその体を叩き斬られ、それがまた兵たちの恐怖を煽った。
さらにヨリトモたちに不利だったのは、密集隊形での同士討ちを避けるため、たった一人の相手に発砲できなかった点である。
それはトモエも織り込み済みであり、その証拠に彼女の立ち位置は、常に敵兵同士の対角線上にあり、かつ素早い動きで狙いを絞らせなかった。
当然、源氏本軍の機甲武者も、棟梁ヨリトモの周辺に二十ミリ機関砲を撃ち込む事など、できるはずもなく、その点でもトモエの戦術は巧緻を極めていた。
爆薬を積んだ機甲武者による玉砕戦法は失敗したが、トモエの――いや木曽軍全員の思いを込めた奇襲は、次第に源氏本軍を追い詰めていく。
そして、舞い踊る様に双刀を振るうトモエは、次第にヨリトモとの距離を詰めていき――乱舞の中、二人の視線が重なり火花を散らした。
Act-05 トモエ乱舞 END
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