Act-03 仇討ち
木曽軍は、単騎で皇帝御座所に向かったヨシナカの討ち死にを――梶原カゲトキ率いる源氏本軍が到着しても、彼が戻ってこない事で悟った。
その後、元々が疲弊し切った木曽軍は、圧倒的戦力差の源氏本軍に蹴散らされ、四分五裂して敗走した。
もはや木曽ヨシナカを天下人にする『夢』は、本当に夢と消えてしまった。
なんとか戦線を離脱したトモエ、そして木曽兵に残された最後の使命は――皆が愛したヨシナカのため、源氏棟梁、源ヨリトモを討ち取る事であった。
木曽軍の御所襲撃は、源氏本軍にとっても予想外であったため、ヨリトモは先発隊に遅れること一日で、ヘイアン宮を目指している。
その途上を狙うべく、トモエたちは、ヤマト国境とヘイアン宮との中間地点の林に、わずかに残ったバキをはじめとする機甲武者を伏せていた。
この位置ならば、伸び切った隊列の中央を突く事が可能であり、ヘイアン宮に駐屯している先発部隊も、すぐには応援に来れないはずである。
ヨリトモがヘイアン宮に入城してしまえば、もうチャンスはないだろう。
乾坤一擲――今この時に、木曽軍に残ったすべてをかけて、ヨリトモを討つ。その復讐のためならば、トモエをはじめ木曽兵は皆、命などいらなかった。
標的であるヨリトモは、ツクモ神マサコに背中を押され、天下人になる決意を固めたその直後――トモエたち木曽軍残党が伏せている、林付近に差しかかろうとしていた。
機甲武者はそのパイロットである魔導武者が、コクピットで動力源の『大地の霊脈』とコンタクトしないかぎり、魔導反応を発しない。
全長八メートルの機甲武者を屈ませ、息をひそめる木曽軍は、源氏本軍のレーダーサイトにも反応せず、その瞬間を待っていた。
(ヨシナカ……もうすぐ、あなたのところに行くわ)
トモエは決死の覚悟であった。夫ヨシナカのいない、この世になんの未練があろうか――それほどまでに、トモエはヨシナカを愛していた。
幼き日にカマクラを追われたヨシナカは、キソに来てからその優しき風土の中で、豪放磊落に育ち、やがてキソの太陽のごとく皆に希望を与えてくれた。
土地の有力者の娘だったトモエは、やがてヨシナカと惹かれ合い結ばれ、夫が伊達男を気取りながらも、いつも他人の事を第一に考えている姿を、ずっと隣で見続けていた。
ゆえに数々の策謀の末、その優しき夫を殺した源氏が――その大将である、ヨリトモが心の底から憎かった。
冥土で待つ夫に、ヨリトモの死を捧げる――トモエの目が修羅のものになると、
「いくわよ!」
という号令一下、木曽兵が満身創痍のガシアルに乗り込んだ。
『レンジワンに、機甲武者!』
ヨリトモの乗る大将車のレーダーが、けたたましくアラームメッセージを放つ。
「レンジワン⁉︎ なぜ、こんな近くまで気付かなかったのだ⁉︎」
状況が把握できないヨリトモが、隣のヒロモトに問い合わせると、
「おそらく、魔導反応を出さない様に伏せていたのでしょう」
さすがヒロモトは、機甲武者に精通する技術者だけに、すぐに敵の手口を看破する。
そして、
「あ、あれは木曽軍です!」
迫る機甲武者に木曽軍のエンブレムを見つけた兵が絶叫する――それが目視で確認できるほど、敵は間近にまで接近していたのである。
「慌てるな、相手は手負いのガシアルだ! 密集隊形でヨリトモ様を守れ!」
ヒロモトは木曽軍が、やぶれかぶれの本陣特攻を仕掛けてきたと見て、それにもっとも適切である陣形を構築するよう全軍に命じる。
だが、フクハラ戦、そしてヘイアン宮襲撃という、地獄の戦場を切り抜けた生き残りの兵は、まさに木曽軍中の精鋭たちであり――彼らは限界寸前の機体ながら戦の間合いを心得た動きで、ヒロモトの案に反して、まずは遠距離射撃を仕掛けてくる。
「くっ、十機程度の相手だ! 各個撃破せよ!」
まだ距離があるため精度の低い射撃だが、ヨリトモの車両に向けて次々と放たれる二十ミリ機関砲に、万が一を考えさせられたヒロモトが――命令を変更して――自軍ガシアルに積極迎撃を指示する。
大将車の側にいたウシワカも、いざ木曽軍の機甲武者を撃破せんと、シャナオウのコクピットで、肘掛けの両先端にある球体を握り、機体に『進め!』と念を送ろうとしたが、
「――――⁉︎」
突然感じた嫌な感覚に、一旦その動きを止めると、散開していく自軍機たちを見送る様に、その場に踏みとどまる事を選択した。
「どうしたの、ウシワカ?」
同乗するツクモ神ベンケイが、肩越しに怪訝な顔で問いかける。
「何かおかしい。この戦場は――きな臭い!」
天性の戦術家のカンが働いたのか、そう言うなりウシワカは、シャナオウのバックパックを展開させ後退翼を形作ると、一気に機体を頭上に向け飛翔させていった。
Act-03 仇討ち END
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