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神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第7話:源氏という家族(後編)
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Act-06 深き業

 

 霊気を吹き出し、空を舞うシャナオウに、源平両軍の目が奪われる。

 そして機体の左腕から、天狗の団扇を思わせる八枚刃の投擲兵器『ハチヨウ』を引き抜くと、


「いいやああーっ!」


 という気合一閃、ウシワカは八本の刃を敵陣に向け打ち落とす。

 それに次々と刺し貫かれる、平氏軍のガシアルH。戦場はこの突発事態に騒然となった。


「あれが……シャナオウ……」


 初めて見る機甲武者の飛行、そして桁外れの攻撃力に、データ収集のため随行してきた大江(おおえの)ヒロモトも息を呑む。


「き、機甲武者が空を飛んでるぞ⁉︎」


 空からの奇襲という想定外の攻撃に、浮き足立つ平氏軍。

 そこに好機を逃さず先鋒隊が攻勢をかけ続ける事で、(いくさ)の大勢は決してしまった。


 早くも敗走状態となる平氏軍。

 そもそもヤマト駐留の平氏軍は、都落ちした平氏本軍に取り残された残存部隊であり、対する源氏軍はヨリトモ率いる本軍が機動部隊として押し寄せているのである。遅かれ早かれ、こうなる事は明らかであった。


 そして、ウシワカも追撃に加わるべく、空から戦場を俯瞰していると――ふと先鋒部隊が妙に間延びしている事に気付き、


「ねえベンケイ、あれ」


 と、現場を指差しながら、ナビゲーターであるベンケイにその解析を依頼する。


「あれは……上総(かずさ)ヒロツネの機体ね。その後ろに、(みなもとの)ヨシヒロ、ユキイエ。少し離れて梶原カゲトキが続いているわ」


 状況はヒロツネたちのガシアルが、まるで狩りに興じるがごとく、遮二無二に平氏軍を追撃していた。


 だが三機は次第に自軍から引き離され――というより、軍監のカゲトキの部隊が巧みにヒロツネ傘下の機体をブロックしているのが、上空から見るとよく分かった。


 そして敵影が見えなくなった頃、とある林の中で三機は完全に孤立した形となった。


「フン、平氏の奴らめ、尻をまくって逃げおおせたか」


「ですな。いや、さすがヒロツネ殿」


「まさに源氏を支える軍神。ヨリトモなんぞとは格が違いますな」


 鼻息荒いヒロツネの傲慢な言葉に、ヨシヒロとユキイエが、すかさず追従を述べる。


 それに気をよくしたヒロツネが、


「ハハハッ、まるで子供と双六でもする様に他愛なかったわ――」


 と口にした瞬間、その機体のコクピットがセイバーに貫かれた。


「――――!」


 突然の事態に、ヨシヒロ、ユキイエ、共に我が目を疑った。

 なぜなら、ヒロツネを即死に追いやった相手は白いガシアル――友軍である梶原カゲトキの機体だったからである。


 怯える二人の目に、いつの間にか側面から回り込んだ、これもまた白い機体――源氏型ガシアルG数機が、自分たちに機関砲を構えている姿が映る。

 そしてその二十ミリ機関砲が一斉掃射されると、二機の機甲武者が蜂の巣になりながら、大地へと崩れ落ちた。


 ――味方殺し!


 目の当たりにした光景に、ウシワカは驚き、現場へと降下する。

 そこに梶原カゲトキの全軍に向けた通信が、シャナオウの中にも飛び込んできた。


『平氏軍の前衛部隊は、先鋒隊によって排除が完了。尚、上総(かずさ)ヒロツネ殿、(みなもとの)ヨシヒロ殿、(みなもとの)ユキイエ殿が、追撃中に深入りし過ぎたため、敵の伏兵にあって討死』


 ――何を言っているんだ?


 ウシワカには、すぐに理解が追いつかなかったが、


『そうか――では一時撤退せよ』


 というヨリトモからの返答で、これが軍議の時の『目配せ』の意味だったのかと思い至る。

 だが姉の声はその時の表情と同じく無感情で、そこから真意を読み取る事はできなかった。


 だからウシワカは、それを直接問い質すべく、シャナオウのコクピットハッチを開けながら、カゲトキのガシアルに詰め寄る。


 それに気付き、同じくハッチを開けてきたカゲトキに、


「どうして……」


 と、ウシワカが厳しい目で問いかけると、


「ウシワカ殿、申し上げておきます――」


 カゲトキはその重厚な雰囲気そのままの落ち着いた声で、まずそう言ってから、


「これが源氏です。――もしあなたがこの先、ヨリトモ様の妹君として生きていくのなら……この事、ゆめゆめお忘れなき様に」


 まるで通告の様に、そう言い終えるとハッチを閉じて、暗殺の実行部隊を引き連れて、現場を後にした。



 ――一族を切り捨てる事でしか生きられない源氏。



 破戒僧モンガクの言葉が、ウシワカの脳裏に蘇る。

 父ヨシトモは、その父タメヨシと弟ヨシカタを討ち、今また姉ヨリトモは統制下におけない配下と共に、二人の叔父を討った。



 ――これが源氏。



 今度はカゲトキの言葉が耳を離れない。ウシワカは思い慕う姉が、その体現者である事が理解できなかった。


 あれほど源氏に焦がれていたウシワカが、今その源氏という存在に悩んでいる。

 この『深き業』を持つ一族について、神の領域たるツクモ神のベンケイも、ウシワカにかけてやる言葉は見つからなかった。



 そのまま数日を源氏本軍は、ヤマトの残敵掃討にあて、それが一定の成果を挙げ、平定も間近に見えてきた頃――そこに衝撃的な報告が、飛び込んできた。


 ――西方に進攻した木曽ヨシナカ軍、平氏に大敗。


 混迷を深める政局の、新たな幕が開こうとしていた。


Act-06 深き業 END


NEXT 第8話:夢の果て


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