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神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第2話:源氏の少女
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Act-01 動き始める運命

 

 「この大馬鹿もんが!」

 

 ロクハラからの逃走劇の末、居住地であるクラマに戻ったウシワカ。

 それを出迎えたのは、祖父鎌田マサキヨの激しい怒声であった。

 

「夜中に、どこかに抜け出したかと思っとったら、平氏のロクハラベースに盗みに入っとっただと⁉︎ サブロー、またお前がウシワカをそそのかしたのか⁉︎」

 

 マサキヨの仕事場である広い整備場に、その大声が響き渡る。

 髪は薄く白髪の老人だが、彼の筋骨隆々たる体躯は、いたずらが過ぎた子供たちを叱りつけるには、十分な威厳があった。

 

「違うよ、じっちゃん! 平氏のせいで、みんな貧しい暮らしをしてるから、ロクハラから金目のものを盗んで売ろうって……私が言ったんだよ!」

 

「そうだよ。アタシたちは義賊だよー」

 

 友をかばうべく祖父に言い返すウシワカと、その隣でふくれっ面になるサブローだったが、

 

「なにが義賊だ! それでも盗っ人には変わらんだろ! しかもカイソン、お前まで二人についていくとは、どういう事だ⁉︎」

 

 マサキヨは子供の言い分を切って捨てると、今度は少し離れて小さくなっているカイソンに矛先を向ける。

 

「ご、ごめんなさい親方。ろ、ロクハラに行けば、平氏の武器や……き、機甲武者が見られると思って……」

 

 師匠に詰問されて、恐る恐る同行の目的を白状するカイソンだったが、

 

「――そうだ、じっちゃん! 私、機甲武者に乗ったよ」

 

 突然、会話に割り込んできたウシワカの言葉に、

 

「な、なんだと! 機甲武者にだと……!」

 

 マサキヨは思わず絶句する。

 

 機甲武者――そのキーワードに、祖父、孫娘の双方が、過敏に反応すると、

 

「ほ、本当なのか、カイソン?」

 

 マサキヨはさらに厳しい顔付きになって、カイソンに事の真偽を確認する。

 

「は、はい。乗った事は乗ったんですが……ガシアルを歩かせようとして、転んでしまって……」

 

「――――!」

 

 不完全ながらも、孫娘のウシワカが本当に機甲武者を動かしたという事実に、マサキヨの険しい顔に動揺の色が加わった。

 

「それと、じっちゃん。私の母さんって……トキワっていう名前だったの?」

 

「だ、誰からそれを聞いた⁉︎」

 

 そして、さらなる予想もしなかった問いに、思わず孫娘に詰め寄り、その肩をつかむマサキヨだったが、

 

「ベンケイ……ツクモ神だって言ってた。そいつが、自分は母さんの友達だって」

 

 と、ウシワカは動じる事なく、平然とそう言ってのける。

 

「ツクモ神だと……」

 

「なんか、飛んだり機関砲をはね返したり、すごい奴だった。逃げる時も、そのツクモ神に助けてもらったんだ」

 

 そこまで聞くと、「そうか……」と言ったきり、マサキヨは押し黙る。

 

「ねえ、じっちゃん」

 

「うるさい、もうその話は口に出すな! それとサブロー、もう二度とウシワカに盗っ人の真似事なんぞさせるなよ!」

 

 追求から逃れるため、マサキヨはまた怒声を上げると、生業(なりわい)としているメカニックの仕事に向かうべく、弟子のカイソンを引き連れて整備場の奥へと進む。

 

 その背中をサブローはアッカンベーで見送るが、ウシワカは少し考えてから、マサキヨの後を追いかけると――その傍らにつきまとう、という実力行使に出た。

 

「ねえ、じっちゃん。じっちゃんってばー」

 

「うるさい、何も話す事なんぞない!」

 

 執拗に食い下がるウシワカを振り切るべく、右に左に歩き回るマサキヨと、あわあわと師匠に付いていくカイソン。

 その追いかけっこは、ついには整備場の奥にある格納庫にまで及び――祖父は孫娘から逃れるべく、無意識にその扉を開けてしまう。

 

「あっ!」

 

 しまったと思ったマサキヨだったが、もう遅かった。

 薄い光だけが差し込むその格納庫の秘密を、中に進んだウシワカは目の当たりにしてしまう。

 

「き、機甲武者……」

 

 思わずウシワカが呟いた様に、そこにあったのは――まるで隠れる様に小さくうずくまった――白いカラーの、機甲武者ガシアルであった。

 

「こ、ここには入るなと言ってあるだろう! 出ていけ! 早く出ていけ!」

 

 自分で扉を開けておきながらマサキヨは、激しい狼狽を隠せずわめき散らし、格納庫からウシワカと、ついでにカイソンも一緒に叩き出すと、慌ててその扉を閉めた上に、大型のチェーンで封印までしてしまう。

 

 そして、激しく肩で息をするマサキヨのただならぬ雰囲気に、さすがにこれはまずいと感じたウシワカは屋外に逃げ出し、カイソンもその後に続いた。

 

 やがて呼吸が落ち着いたマサキヨが、ふと目を上げると――そこに女がいた。しかもその女はフワフワと宙に浮いている。

 

「……きっと来る頃だと思っとった。ウシワカに、ちょっかいをかけおって」

 

 そう言ったマサキヨの顔は、先ほどまでの厳しいながらも孫を愛する老人のものから――幾たびもの死線を越えた、歴戦の戦士のものへと変貌していた。

 

 それに苦笑で応じるのは、昨夜ウシワカを平氏の追跡から救ったツクモ神――ベンケイであった。

 

 そしてベンケイは、「久しぶりね、マサキヨ」と言うと、ひと呼吸おいてから来訪の目的を、単刀直入に告げる。

 

「あの子の力を貸してほしいの」


Act-01 動き始める運命 END


NEXT Act-02 大天狗


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― 新着の感想 ―
[一言] こっちでも頑張ってください! ヨシツネというタイトルを活かすなら歴史ジャンルの方が興味惹かれる人は多いと思います('ω')
2020/08/11 01:39 退会済み
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