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神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第6話:源氏という家族(前編)
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Act-06 モンガク絶唱

 

 一方、同じツクモ神であるベンケイが、神器で機甲武者を錬成した事実を知ったマサコは、わなわなと肩を震わせていた。


「神器を……『神造兵器』を解放したなんて……ベンケイ、アンタなにしてくれてんのよ!」


 怒りを隠さぬマサコの胸中には、ある『予感』があった。

 そしてそれをベンケイに追求するべく、身を乗り出そうとした時、


「いやはやー、源氏の御大将がキョウトに到着された! これはめでたい!」


 と、男の大音声が辺りに響き渡り――同時に本陣に向かって、機甲武者を積んだ一台のトレーラーが接近してきた事により、周囲に動揺が走った。


「あいや、儂は怪しい者ではない! 儂の名はモンガク。この度、上洛されたヨリトモ様に、祝いの品をお届けに参った次第だ!」


 警戒に出た兵たちの手前で、モンガクと名乗った僧形の男はトレーラーを停めると、そう叫びながら車体後方に飛び移るなり、荷台をリフトアップさせていく。

 そのあまりの手際の良さに、兵が呆気に取られているうちに、荷台の機甲武者が直立の姿勢となり、一同にその姿が披露される。


 それは白――源氏のカラーのガシアルG。

 しかも相当に旧型の、ウシワカの育ての親の鎌田マサキヨが所有していたものと同じ、マーク1タイプであった。


「こんな旧型のガシアルを……」


 機甲武者開発者を祖父に持つヒロモトが、すぐにその型式を判別し、険しい目をする。

 その声を耳にしたモンガクは――頃合いよし、と判断すると、一同の前に両手を広げて、大きく息を吸い込む。


 そして、


「さあ各々方、ご覧あれ! このガシアルこそ、かの源氏の棟梁、(みなもとの)ヨシトモ様がヘイジの乱の折にお乗りあそばした機体でござる! ああ無念にも、(たいらの)キヨモリに敗れしヨシトモ様が、お亡くなりになられてから十五年。いつの日か源氏再興の日が来ると信じ、このガシアルを平氏の目から隠し持っておりましたが……ああ、遂にその御子息にこの機体をお返しできる日が来ようとは。さあヨリトモ様、このガシアルにお乗りなされ! そしてヨシトモ様のご遺志を継ぎ、平氏追討の旗を掲げるのです!」


 と、まるで弁士の様な饒舌さで、長口上を一息でまくし立てる。


 それに対する源氏陣営の対応は、冷ややか――というよりも、むしろシラけた空気が全体に漂っていた。


 確かにヨシトモはヘイジの乱の折に、ここキョウトで命を落とした。

 だが、その乗機が打ち捨てられていようと、それを一介の僧が戦時に回収できる訳もなく、仮に回収していたとしても、モンガクという僧が源氏にゆかりがあったという経歴はない。


 これこそ、たかりか、もしくは平氏に恨みを持つ政治的意思を、この機に乗じて源氏政権に加わって実行しようとする、破戒僧の類であろう――と、そう判断した。


 その空気を代表して――こういった際の汚れ役を自任する――梶原カゲトキが、モンガクを追い払うべく足を踏み出した時、


「ハハハ。モンガク殿、残念だったな――」


 と、豪快な笑い声が本陣に、こだまする。


「我らが大将、ヨリトモ『殿』にはなあ……魔導適性がござらんのよ。せっかくのヨシトモ様の機体だが、乗りたくても乗れんのでな。ハハハッ、残念だがここはお引き取りあれ。ハーッハッハッハッ!」


 (あざけ)る様な口調でそう言ってのけたのは、やはり上総(かずさ)ヒロツネであった。

 彼の言葉は、自分の意見を容れなかったヨリトモに対する意趣返しとばかりに、衆目の中で彼女を(はずかし)めてやろうという悪意に満ちていた。


 ――お姉ちゃんには、魔導適性がない⁉︎


 魔導適性――すなわち、大地に流れる太古の天使の霊脈とコンタクトする力を、ヨリトモが持っていないという事実に、ウシワカは驚愕する。


 太古の天使の鎧をベースとする機甲武者は、その天使の亡骸である『大地の霊脈』を動力源とする。

 すなわち惑星ヒノモトにおいて、その霊脈とコンタクトする力が無いという事は、機甲武者のパイロットである『魔導武者』としての資格が無い事を意味していた。


 神の時代より千年を経て、この星の人間が持つ魔導力も、今や『遺伝』という不確定要素が色濃くなっている。

 だが、それにしても源氏という家系のルーツは平氏同様に、天使の直系たる皇帝の支族であり、代々の当主は強い魔導力を保有しているのが常であった。


 それがこの乱世の極所において、その当主に魔導適性が無いという事態は、大きな問題といっても過言ではなかった。


 それをすでに熟知しているカゲトキ、ヒロモトら、源氏諸将は苦々しい顔で目を伏せる。

 幕下という立場ながら、上総(かずさ)ヒロツネがことさら尊大に振る舞っているのも、そういう事情が背景にあったのだ。


 ヨシナカもそのあたりの事情は知っているらしく――やれやれ、わざわざ口に出して言うかね、と言いたげな呆れた目でトモエと顔を見合わせる。


 そして、ツクモ神マサコは怒りに打ち震え、もはや我慢の限界を超え、今度こそヒロツネを殴殺せんと決意した瞬間、


「み、帝よりの御使者でございます!」


 という、前衛からの注進が飛び込んできた。


 ――来たか!


 ヨリトモ、そしてヨシナカの目が、妖しく光を放つ。同時に、これでモンガクの乱入による騒動も、一旦立ち消えとなった。


 そして本陣まで来た御所からの使者に、一同が恭しく拝礼をして、その言葉を待っていると、


「ゴシラカワ帝よりのお召しである。木曽ヨシナカ、(みなもとの)ヨリトモ――」


 ここで一瞬、使者は間を置いてから、


(みなもとの)ウシワカ、急ぎ参内せよ」


 なんと帝は、ヨシナカとヨリトモばかりか、ウシワカまでをも御前に召集する旨を通達してきた。


 それに朝廷のツクモ神、ベンケイはある種の覚悟を決めた様に、ギュッと目を閉じる。


 目まぐるしく動く状況。それにヨリトモ、ヨシナカの両雄は、いざ行かんと心を奮い立たせる中――もう一人の源氏であるウシワカは、まだ姉が魔導武者ではないという衝撃から心を動かせないままでいた。


Act-06 モンガク絶唱 END


NEXT Act-07 告発


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