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神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第5話:白の軍団
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Act-02 動乱キョウト

 

 平氏三兄弟が、都落ちの方針を固めた少し後――その攻撃対象となった朝廷では、


「ロクハラが動き出したか」


「はっ、物資及び人員を輸送していると思われる車両が、多数西方に動いております。おそらくフクハラベースを目指しているものと思われます」


 皇帝の御座所で、摂政シンゼイからの下問に報告官が、ロクハラに起こった異変を説明していた。


「おそらく昼までには、ムネモリたちが暇乞いに来ようなあ……兵と機甲武者と共にな」


「あのウシワカに、迎撃させるおつもりですか?」


 御簾の内にいる女帝ゴシラカワが、今後の展開への予想を述べると、シンゼイは報告官の手前、誠実な摂政の顔を装いながら、そう問いかける。


「それは向こうの出方次第だ。最初から攻撃を仕掛けてくるなら迎撃もしようが、話し合おうというのなら、それもよし……別れの一言もくれてやろう」


 そう答えたゴシラカワには、状況を楽しんでいる余裕があった。


 類いまれなる政治力、武力を誇った、今は亡き(たいらの)キヨモリ――それと互角に渡り合った、彼女の胆力がそこには見てとれた。

 だがそんな食えない女帝に、苛立つシンゼイは、


「何を悠長な事を。平氏と繋がっているトキタダの事もあるのですぞ。それなら、今のうちに近衛を総動員して、アントク様のまわりを固めるべきです」


 と、昨日不審な動きを見せた平氏のツクモ神の件を持ち出して、ゴシラカワを牽制する。


「おやおや、平氏の狙いは『私』とアントクなのだぞ。近衛を総動員してしまえば、誰が私を守るのだ?」


 白々しいゴシラカワの言葉に内心、一刻も早くアントクを即位させて、己の権力基盤を固めたい面従腹背の摂政は、呆れてもう何も答えなかった。


「まあアントクの事はそれでよかろう。トキタダにもベンケイを充てればよい。あとはヨシナカ次第だな」


 まるで先が読めている様なゴシラカワは、


「してヨリトモの方はどうしている?」


 と、首都キョウトに迫るもう一軍の進行状況について、報告官に問い合わせる。


「はっ、ヨシナカがここ数日、進行速度を上げるているにもかかわらず……まるでヨリトモの軍は、逆に速度を落とす様に、イセからさらに西へ進路を取り、ヤマトへと進んでおります」


「ヤマトだと? なぜイセから北に進んで、オウミのヨシナカに合流しない?」


 東都カマクラから西進して、オワリに到達したヨリトモの源氏軍が、キョウトまでの最短距離、かつ友軍である木曽ヨシナカの源氏軍との合流を放棄した事が、シンゼイには理解できなかった。


 だがゴシラカワは御簾の中で、クスクスと笑うと、


「ヨシトモ……お前の娘は、みな一筋縄ではいかぬか――」


 そう言った後、嬉しそうに目を閉じ――何か遠い昔を懐かしむ様に――またクスクスと笑い出すのであった。



 その時、そのヨシトモの娘の一人であるウシワカは、同じ御所の中で機甲武者シャナオウにもたれかかり、ベンケイに肩を抱かれた状態で、朝日に目を覚ましていた。


 ウシワカたちの側には、サブローがだらしない寝相で地に転がり、カイソンはお行儀良く丸くなった状態で寝息をたてている。

 臨戦態勢を命じられたウシワカとベンケイに、彼女ら二人も付き合ったのであった。


「ねえ、ベンケイ」


「なあに?」


「お姉ちゃん……(みなもとの)ヨリトモって、どんな人なの?」


 迫る源氏の軍に、ふとウシワカは、まだ見ぬ姉の事が気になり、それをツクモ神に問うた。


「よくは知らないわ。でも、あなたのお母さん――トキワとは母違いのお姉さんよ」


 ウシワカの生母が、トキワという者である事を教えたベンケイは、今また姉ヨリトモが異母姉妹である事を、気負わぬ態度で静かに告げる。


「そうなんだ」


 ウシワカは、その事を別段気にかけなかった。

 亡き父ヨシトモは源氏の棟梁。妾の一人や二人いても不思議はなく、かつ姉が正妻の娘で、自分が庶子であっても、そんな事もどうでもよかった。


「早く会いたいな――」


 十五歳の少女が抱いた思いは、ただそれだけであった。


 だが、その『無垢』なる思いが『政治』という世界では滑稽なほどに浮き上がり――積み重なった誤解の末、やがてウシワカは焦がれるほど思った姉に、海の底に沈められ果てようとは、この時、神の眷属であるベンケイでさえ気付く由もなかった。


 そして、ウシワカは朝日が高くなっていく東方に目をこらす。あの下に姉がいる、そう思って。


 だが、そこにいたのはヨリトモではなく――キョウトへの一番乗りを目指し、新型機甲武者『バキ』を駆り、しゃにむに突き進む木曽ヨシナカの軍であった。


Act-02 動乱キョウト END


NEXT Act-03 幼き決意


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