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神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第5話:白の軍団
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Act-01 平氏都落ち

 

 ヘイアン宮での、ウシワカとトキタダの戦闘から一夜明け――



 早暁、平氏のキョウト本拠地、ロクハラベースでは、


「やはり……行かねばならぬか、トモモリ」


 政庁の司令室で、現棟梁である(たいらの)ムネモリが、弟たちを前に物憂げな声を上げていた。


「このままキョウトを退去しても、帝を連れ去らねば、我らはただの賊軍となるのですぞ! それがお分かりになられませぬか!」


 それに激しい口調で応じるのは、頼りない兄に代わり、実質平氏を率いている副将の(たいらの)トモモリ。


「参内の上、帝は無理でも、せめてアントク様だけでも御同道いただかねば、今後の交渉が不利になります」


 重ねてムネモリを諭すのは、末弟の(たいらの)シゲヒラ。


 トモモリ、シゲヒラ兄弟は、キョウト退去――すなわち都落ちの朝を迎えたにもかかわらず、ここにきて弱気になっている、長兄で棟梁のムネモリの説得に頭を悩ませていた。


 かつては彼らの父、(たいらの)キヨモリによって、惑星ヒノモトを制圧していた平氏。

 だが、そのキヨモリの死からわずか一年で、平氏は凋落の時を迎えていた。


 それには女帝ゴシラカワの策謀や、政敵源氏の復活があったとはいえ、武を顧みず、貴族然とした政策に終始したムネモリの甘さが大きな原因であり、状況は東方から進攻してくる源氏に連戦連敗。

 かつ姻戚関係を結んだ朝廷からも――都落ちをするなら、どこぞなりとも行ってしまえ――と、完全にコケにされる始末であった。


 事実、平氏にはもう源氏を止める力はない。

 残る手段は、首都キョウトを退去して、再起を図るため西方の拠点フクハラベースに逃げ込むしかなかったのだが、朝廷の権威を利用して政権を維持していた平氏としては――手ぶらで都落ちをすれば――この後、都入りをする源氏に同じ手法をとられ、賊軍の勅命を出されるのは、火を見るよりも明らかであった。


 それを免れるには、ヘイアン宮から帝を拉致して、官軍として共に西方に落ちるしかない。

 だが、その決行に際して、この期に及んでまだムネモリは、決心が定まらないのであった。


「もう手はずは整っております。ロクハラに残った戦力すべてを引き連れて、帝に脅しをかけるのです」


「もう少し、穏便にはいかぬのか……?」


 棟梁としての決断を迫るトモモリに、ムネモリがやはり煮え切らない言葉を返す。


「ヨシナカが、おそらく今日の日暮れまでにはキョウトに来るのですぞ! 帝に拝謁できねば、すべてが手遅れ。なんとしても御所をこじ開けねばならぬのです!」


「それで、うまくいくのか?」


 切迫した状況を念押しされても、まだうろたえるムネモリに、


「ヘイアン宮の防衛能力は『魔導結界』だけです。たとえ魔導兵器を防げても、生身の兵を防げる訳ではありません。それは朝廷側も十分承知しているでしょうから、この手で帝への謁見までは必ず叶います」


 穏やかな口調でシゲヒラが、弱気の棟梁を励ます様に、策の流れを説明する。


「そして兄上たちは、帝に謁見すると見せて御座所を占拠していただき、その隙にアントク様は私が保護いたしますので、その後、共にフクハラへと落ちましょう」


「わ、私は戦闘などできぬからな」


 肥満した体を揺すりながら怯えるムネモリに、


「帝は私におまかせください。兄上は暇乞いの『名目』として、ただそこにいていただければ、よいのです」


 半ば侮蔑を織り交ぜて、トモモリはそう吐き捨てる。


「ロクハラを……ここを捨てるのか……」


 弟の嫌味にも気付かず、ムネモリは栄華を誇った平氏の落日に嘆息する。

 誰のせいでこうなったと思っているのか――と、トモモリが顔を歪めるのと同時に、


「フクハラには、新型の機甲武者も配備されています。あそこで再起を図れば、いずれ必ずキョウトを奪回でき……うっ」


 愚鈍な棟梁に励ましの言葉をかけようとしたシゲヒラが、その途中で突然うめき声を上げた。


「大丈夫かシゲヒラ⁉︎ まだ傷が痛むのではないか?」


 このできた弟をひときわ可愛がっているトモモリが、心配そうにシゲヒラの肩に手をかける。


「不覚をとったのは、このシゲヒラの未熟。ご懸念には及びません」


 気丈にそう答えるシゲヒラの脳裏には、一昨日の謎の機甲武者――シャナオウとの敗戦の記憶が甦る。今、シゲヒラが負っている傷も、シャナオウの魔導攻撃『サウザンドソード』の光刃によるものであった。


「戻った使者の話では、トキタダがあの機甲武者を御所で見たとの事。なれば、なおさら私も御所に参りとうございます」


「アントク様にはトキタダも付いているのだ。お前は無理をするな」


「いえ」


 傷をおして作戦に加わろうとする弟を気遣い、平氏のツクモ神であるトキタダにアントクをまかせる様にトモモリがすすめても、シゲヒラの決意は揺るがない。


 なぜなら、あろう事か彼は己を破った機甲武者、そしてそれを操っていた魔導武者の少女――ウシワカに、敵意と憧憬が入り混じった複雑な感情を抱いてしまっていたのだ。


 その思いに分別をつけるには、このシゲヒラという青年はあまりに純粋すぎた。

 だが、そのために彼はこの後――大きな代償を支払う事になる。


 そして平氏の方針は、


 ――皇帝ゴシラカワ、及び皇女アントクを奪い、西方フクハラベースに退去。


 に決まり、激動の一日は動き始めた。


Act-01 平氏都落ち END


NEXT Act-02 動乱キョウト


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