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神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第1話:機甲武者
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Act-02 魔導適性【イラスト有り】


「ガシアルだ。赤のペイントだから平氏型のガシアルHだね。ロクハラに配備されてるぐらいだから、これはマークⅡ型の最新スペックかなあ……」

 

 ウシワカが呟いた『機甲武者』という言葉に反応して、カイソンはその細い目を光らせながら、意気揚々とその機体名称と補足説明をベラベラと語り始める。

 

 だがそんな事はおかまいなしに、ウシワカは何か運命に導かれる様に、ガシアルという機甲武者にスタスタと近付いていく。

 

「ウシワカ、一人で行かないで!」

 

 周りが見えなくなったウシワカの足取りに、カイソンが慌ててその後を追う。サブローも新たな展開に心が弾むのか、笑顔でその後に続いた。

 追い付くとウシワカは機甲武者に魅せられた様に、その機体をペタペタと触っている。分厚い装甲は、それが戦闘兵器であるという証であった。

 

「機甲武者――。大科学者、大江(おおえの)マサフサが、遺跡に埋もれていた『神の時代』の天使の鎧を、人間が乗れる様に改造した人型兵器」

 

 ウシワカの隣に並ぶと、カイソンは感慨深げに機甲武者の概要について(そら)んじる。

 それはまさに太古のロストテクノロジーと最先端科学の融合が生み出した、オーバーテクノロジーともいえる惑星ヒノモトの主戦力兵器であった。

 

「こ、これって、乗ってみたりできるのかな?」

 

 はしゃぐサブローが身を乗り出しながら、カイソンに問いかける。

 

「機甲武者は、魔導適性がないと動かせないよ」

 

「魔導適性?」

 

「魔導適性っていうのは、大地に眠る太古の天使たちの霊脈に、コンタクトできる『魔導武者』の能力の事よ」

 

「魔導武者?」

 

「もう……。いい? 機甲武者は元々、『神の時代』に天使が使っていた魔導兵器なの。だから、大地に同化したと伝わる天使の亡骸――すなわち『霊脈』が動力源になるの。で、天使の末裔である私たち人間の中でも、その霊脈にコンタクトできて、機甲武者を動かせるパイロットが魔導武者よ。分かった?」

 

「ふーん。カイソンは、ウシワカの爺ちゃんのとこでメカニックをしてるから、詳しいねー」

 

 能天気なサブローの質問責めに、呆れ顔で答え続けたカイソンだったが、自身の機甲武者への博識を褒められると、その表情はまんざらでもないといった様子だった。

 

「そうかー、乗れないのかー」

 

 目の前の大きなおもちゃが使えない、といった顔で残念がるサブローに再び呆れていると――ふとカイソンは、いつの間にかウシワカの姿が見えなくなっている事に気付く。

 

「ウシワカ?」

 

 あたりを見回してもいない。慌てて視線を上に移すと――なんとウシワカは横たわるガシアルの胴部に、よじ登っているではないか。

 

「なにやってるの! 危ないよ!」

 

 そう言いながら、カイソンもガシアルの上に移動する。もちろんサブローもその後に続いていく。

 

 ガシアルの胴体の上では、ウシワカが機体中央にあるコクピットのハッチ付近を、必死にまさぐっている。その肩を掴んで、

 

「そんな事しても開かないって。ねえウシワカ!」

 

 と、カイソンが必死に呼びかけるが、その声さえ耳に入らないウシワカは、構わず機甲武者と向き合い続ける。

 

 常識で考えればカイソンの言う通り、一般人に機甲武者が動かせるはずなどなかった。

 だが事態は思わぬ方向に展開した――なんとガシアルのコクピットのハッチが開いたのである。

 

 ウィーンという作動音とともに、あらわになるコクピット内部。

 

「なに、これ?」

 

 中を覗き込んだサブローが、思わずそう言ったのも無理がないほど、それはシートがひとつだけの――人間一人が座れるだけの、狭く何もない空間であった。

 

「乗ってみる」

 

 すかさずウシワカが、止める間もない素早さで、コクピットのシートにもぐり込む。

 その瞬間――機甲武者ガシアルは、その機体に生気が注ぎ込まれたかの様に、ビクンと胎動した。

 

「嘘……火が入った」

 

 ありえない事が起こった現実に、カイソンは息を呑む。

 今、まさにガシアルはウシワカに反応して、起動準備を開始したのであった。

 

 続けてウシワカは、シートの両脇にある肘掛け状の部分に腕を置き、その先端の球体を掴んでみる。

 すると、まるで全長八メートルの機甲武者が、自分の体の一部になったかの様な感覚におそわれた。

 

 両手から伝わる霊気の流れ。またそれが逆流して機甲武者に流れ込む一体感。

 

「こいつ……動くぞ」

 

 思わずウシワカは呟いた。

 

「じゃあ、じゃあ、こいつを持ち出して高く売っちゃおうよ!」

 

 状況に対する緊迫感のないサブローが、開いたままのコクピットを覗き込み、とんでもない提案をする。

 

「なに言ってんの。そんなの無――」

 

「よし、そうしよう!」

 

 カイソンの言葉を遮り、ウシワカも機甲武者強奪に賛同する。

 

「ちょっと、ウシワカもなに言ってるの! こんなの見つからずに運び出せるわけないって!」

 

「やってみるさ! カイソン、サブロー、機体から降りて」

 

 言い終わらないうちに、ウシワカは球体を掴む両手に念を込める――『動け、立ち上がれ!』と。

 

「わわわ!」

 

 ガクンガクンと動き出したガシアルから、サブローとカイソンが慌てて飛び降りる。

 同時に機体は、手をつきながら上体を起こし始めた。

 

「信じられない……」

 

「すごい、すごい、ウシワカ!」

 

 カイソンが唖然とし、サブローがはしゃぐうちに、コクピットのハッチを閉じながら、機甲武者ガシアルは二本の足を大地に立て、直立の姿勢となる。

 その姿はメカニカルながら、まさに鎧そのものであった。

 

 そしてハッチが完全に閉じられると、

 

「なんだ、これ⁉︎」

 

 ウシワカはコクピット内部がシートと足元を除いて、三百六十度の全周囲モニターになった事に驚きの声を上げる。


挿絵(By みてみん)


 視点の高さは機甲武者の頭部に合わさるらしい。その証拠に下を向くと、足元のサブローとカイソンの姿が小さく見えた。

 

「とにかく、こいつを動かさなきゃ」

 

 さっきは、立てと念じたら立った。なら、歩けと念じれば歩くはず――と、ウシワカは再び、球体を掴む両手に念を込める。

 そしてその思いに応える様に、ガシアルは右足を上げた――だが、そこまでだった。

 

「えっ、なに? ちょっと、ちゃんと歩いてよ!」

 

 ガシアルは前方に上げた右足を、上げたまま降ろさない。結果、左足だけで片足立ちの状態となる。それでバランスが取れるかといえば、取れる訳がない――その先の結末は、目に見えていた。

 

「うわわわわーっ⁉︎」

 

 三人同時に同じ叫びを上げながら、サブローとカイソンは、倒れる機甲武者の下敷きになるのを避けるべく逃げまどい、逃げる場所もないウシワカは、そのままガシアルのコクピット内で地面に叩きつけられる。

 

「どうした、なんの音だ⁉︎」

 

「が、ガシアルが倒れている。どういう事だ⁉︎」

 

 全長八メートルの機甲武者が転倒する轟音に、平氏の警備兵が続々と駆けつけてくる。

 その人数は、いったいどこにこんな人数が隠れていたのかと驚くほどであり――すなわちそれは夜間警備すらまともにやる気のない、平氏の堕落ぶりを暗に示していた。

 

 それはさておき、機甲武者を強奪しようとしたウシワカたちは、完全にピンチに陥った。

 たるみきった平氏が相手とはいえ、軍事施設から兵器を盗み出そうとしたのである。捕まれば無事に済むはずがなかった。

 

 倒れた衝撃からか、ウシワカの乗ったガシアルはコクピットのハッチが開いていた。その外から、サブローとカイソンが、

 

「ウシワカ、大丈夫⁉︎」

 

 と、中の様子を伺うと、ウシワカは無事の様子だが――呆れた事に、まだガシアルを動かそうと悪戦苦闘していた。

 

「クソッ、動け、動けよー!」

 

Act-02 魔導適性 END


NEXT Act-03 謎の女


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