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神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第4話:殺意と殺意
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Act-03 皇女アントク

 

「そうかー。ウシワカは平氏と戦う事に決めたんだ」


 再会を果たした三人の少女の輪にベンケイも加わり、昨夜からここまでの一連の経緯の説明が終わると、サブローが感慨深げにそう呟く。


「うん。じっちゃんの仇は討ったけど、平氏をこのままにしてはおけない。私が源氏の娘なら尚更だと思うんだ」


「まあ、どっちにしても、アタシはウシワカの味方だからね。これまでも、これからもね」


 決意の言葉にそう答えてくれたサブローに、ウシワカが嬉しそうに微笑む。すると、


「わ、私だってウシワカの味方だからね!」


 と、負けじとカイソンも慌てて、自己の存在をアピールしてきたのだが――何やらその様子はひどくモジモジとしており、


「で……」とカイソンは一呼吸おいた後、「あの機甲武者――シャナオウ……見に行ってもいい?」


 と、目をギラギラさせながら、そちらを指差す。


 元々が機甲武者好き。かつウシワカの育ての親である鎌田マサキヨの弟子として、メカニック見習いをしていた彼女のシャナオウへの好奇心は――もはや頂点に達していた様子であった。


「もうカイソンはぁ……」


 クスクスと笑いながら、それに応じるウシワカ。

 そういえば、平氏のロクハラベースに潜入した時も、ウシワカとサブローは盗みが目的だったのに、カイソンだけは機甲武者を見るのが目的だった事を思い出す。


 そして庭園内に待機しているシャナオウに、ウシワカが目を移すと――なにやら見慣れぬ一団が、シャナオウのそばまで近付いている事に気付く。


 その先頭にいるのは、美々しい装束を身にまとった、気品あふれる――まだ童女という呼び方がふさわしい様な――少女。

 後ろに恭しく控えているのは、その態度から見て彼女のお付きの者たちだと思われた。


(シャナオウが、珍しいのか?)


 昨夜、ここヘイアン宮に入城してから多くの者が――既存の機甲武者とは異質の――シャナオウを、物珍しげに眺めている。

 これまで別段、それを気にはしていなかったが、今度ばかりは何かひどく嫌な胸騒ぎをウシワカは覚える。


 そしてベンケイが、


「アントク……」


 と呟く。それは、さっき皇帝ゴシラカワの御前で話に上がった、先帝タカクラと(たいらの)キヨモリの娘との間に生まれた皇女の名前だった。


 そのアントクは、しゃがんだシャナオウのそばまで来ると、まるで人と向かい合う様に、五メートル近い高さにある頭部を見つめながら手をかざす。

 すると――シャナオウの両眼に鈍い光が灯り、わずかではあるが機体が起動する様に震動したではないか。


 それを見た一同は、驚きの声を上げる。

 だがウシワカはそれを見届ける前に、すでにシャナオウに向かって走り出しており、


「シャナオウから……離れろーっ!」


 と叫ぶなり、驚き振り向く、十歳を少し越えたばかりの少女を、力まかせに突き飛ばした。


 その結果、よろめき地面に倒れるアントクを見ても、ウシワカの心は動じない。

 むしろ、いたいけな瞳が自分を見つめた事で、ウシワカは確信する。


 ――この娘は、生理的に虫が好かない。


 それは激しい嫌悪感というより、動物的な『勘』に近い警戒心と敵愾心であった。その感情は、


 ――いっそ、こいつは今ここで殺しておいた方が良いのでは⁉︎


 とまで、ウシワカの心をギリギリとざわつかせる。加えて、


 ――さっきの嫌な胸騒ぎもこのせいだ。わずかでも機甲武者であるシャナオウが反応したという事は、このアントクという娘にも『魔導適性』がある!


 と、この期に及んでも、ウシワカは戦術的な計算で相手を推し量る。

 そんなウシワカに、


「ごめんなさい……」


 皇女に危害を加えたという暴挙にもかかわらず、なんと被害者であるアントクの方が、心からの詫びの言葉を述べてくる。


 あまりの事態に固まっていたお付きの者たちも、ここにきてようやくアントクを取り囲み、ウシワカを非難する姿勢を取り始める。

 だが当のウシワカは悪びれるどころか、真摯な謝罪がかえってカンに触ったらしく、さらに頬を歪めて、倒れたままのアントクを厳しい目で睨み続けている。


「う、ウシワカ……」


「な、なんかヤバイ雰囲気なんじゃないの……⁉︎」


 カイソンが絶句し、サブローが状況のまずさを口にした次の瞬間――アントクにほのかな殺意を抱いたウシワカは、逆に自分に迫る殺意を感じ、その方向に向け素早く身構えた。


「――――!」


 目に映ったのは、凄まじいスピードで飛んでくる光の刃。それに、もはや回避は不可能と判断するとウシワカは、


「ベンケイー!」


 と叫ぶ。それは無意識の叫びであった。


 そして次の瞬間には、巨大な魔法陣をシールド状に展開したベンケイが、ウシワカの前に陣取り――次々と光刃を弾き返す。


 それはまさに阿吽の呼吸――ベンケイは、ウシワカが殺気を感じる前に、すでにその危機を予測し、彼女を守るべく移動を開始し、防御体勢に入っていたのだった。


 ウシワカの方でも、その身のこなしに別に驚く事もなく、当然の様にベンケイの背中を見つめている――運命に導かれ、結ばれたこの二人は、もはや完璧なコンビと化していた。


「チッ、ここであいつが出てくるか……」


 光刃による攻撃がやむと、その射手を確認したベンケイが、苦虫を噛み潰した様な顔になる。

 ウシワカもベンケイの背中越しに、敵の姿を確認する。

 それは女。しかもヘイアン宮の客殿を背に――宙に浮いていた。


 長いカールの髪を憤怒の形相で逆立て、両手の先に魔法陣を展開させながら、第二波攻撃の態勢を取っている異形の存在。


「ベンケイ、あれもツクモ神なの?」


「ええ。あれは『ヤタの鏡』のツクモ神、トキタダ――平氏のツクモ神よ」


 ウシワカの問いに、ベンケイがその正体を明らかにする。


「平氏……!」


 己が討滅を誓った存在。その出現にウシワカは、全身に闘志を漲らせた。


Act-03 皇女アントク END


NEXT Act-04 ツクモ神トキタダ


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