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神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第4話:殺意と殺意
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Act-02 ガールズトーク

 

「あーもー、まったくー!」


 ヘイアン宮の庭園で、片膝をついた姿勢で待機するシャナオウを前に、ウシワカは収まらない怒りをベンケイにぶつける。


「このシャナオウって、いったいなんなのさ⁉︎ 私を主と認めたって、あの人は言ってたけど、機甲武者に主とかあるの⁉︎ 訳の分からない事ばっかり言ってないで、ちゃんと教えてよ!」


 皇帝の御前で――子供にしてみれば――要領の得ないやりとりに、半ば一方的に巻き込まれた事を、ウシワカは相当腹に据えかねていた。


 源氏の末裔、シャナオウという機甲武者、ついでを言えばベンケイというツクモ神も――そのすべてがウシワカにとって、突然現れ、突然起こった事態であった。


 その謎がようやく解けるのかと思えば、余計に頭がこんがらがってくるとは――期待しただけに、その反動もあっての癇癪であった。


「あと、あのシンゼイって奴! 源氏の事を馬鹿にして……もー腹が立つ!」


 そしてウシワカの怒りは、己の源氏という出自に対し高圧的な態度を見せた、摂政シンゼイにも及ぶ。

 ここまでくると怒りの矛先が本題から外れ、八つ当たりもはなはだしいのだが、


「昔は……あんなんじゃなかったんだけどね」


 と、これまで苦笑するだけだったベンケイが、初めて違った反応を見せた事に、ウシワカはキョトンとする。


「どういう事?」


「シンゼイはね、ちょうどあなたぐらいの歳の時、ゴシラカワの前の、前の、前の――トバ帝に仕えたの。それはそれは、とても勤勉で素直な子だったわ」


 ベンケイは昔を懐かしむ様に、遠い目をしてから目を伏せると、


「でもね……それから起こった、ストク、タカクラの皇位継承争いや、そこから台頭してきた平氏のキヨモリと渡り合ううちに……あいつは変わってしまった『らしい』わ」


「らしい、ってなにさ?」


 怪訝な顔をするウシワカに、


「私ね、訳あってちょっと封印されてた事があったの――だから、その間の事は知らないのよ」


 と、ベンケイはまるで小娘の様に、ペロッと舌を出してはにかんで見せる。


 ウシワカが知りたかった謎の中には、ツクモ神を自称する、このベンケイという女の事も含まれている。

 それを思い出したウシワカはいきなり、


「ねえ、ベンケイって――いったい何歳なの?」


 と、とんでもない切り口で、目の前にいるツクモ神に疑問を投げかける。


 確かに、四十代半ばと見受けられるシンゼイの青年期を、二十歳そこそこに見えるベンケイが知っているという時点で、そこはかなりの興味のポイントにはなるのだが、


「もう、レディーに歳を聞くなんて――いい度胸してるわね」


 と、ベンケイは当然の反応とともに、いつもの様に宙に浮いたまま、ウシワカの後方に回ると、今回は抱きしめるのではなく、羽交い締めの体勢から、拳でこめかみをグリグリするという報復行動に出た。


「痛い痛い痛い!」


 やかましく悲鳴を上げるウシワカ。するとそれとは別に、ヘイアン宮の正門のあたりが、ひどくざわついている事にベンケイは気付くと、


「なに、どうしたの?」


 と、近くを通りかかった衛兵に声をかける。


「あっ、これはベンケイ殿。いえ、若い娘が二人……ここにウシワカ殿がいるはずだから会わせてくれと……。いかがしたものかと摂政様にお伝えするところです」


「ど、どんな顔してた?」


 頭をグリグリされた状態で、ウシワカが顔を歪めながら口を開く。


「はあ、一人は目が大きくてボサボサの髪で、もう一人は逆に細い目で短い髪をした娘でしたが――」


「サブローとカイソンだ!」


 衛兵の答えに、ウシワカが目を輝かせる。そしてすかさずベンケイが、


「ここに連れてきて」


「しかし……」


「いいから。責任は私が取るわ」


「わ、分かりました」


 押し切られた衛兵が正門へと向かう。


「…………。ベンケイって――ツクモ神って、そんなに偉いの?」


 いくら見知った人間とはいえ、ただの町娘を――摂政の権限を越えて――独断で御所に入れるベンケイに、ウシワカは目を丸くする。それに、


「さあ、ダテに歳はとってないって事かしら?」


 と、この――年齢不詳の――食えないツクモ神は、したり顔で『上手いことを言った!』という顔をしている。

 そんなベンケイをウシワカは、ジトーッと呆れた目で見つめるだけだった。


 そうこうしているうちに、


「ウシワカーっ!」


 という底抜けに明るい声が、二人の耳に飛び込んでくる。

 声の主は、もちろん伊勢(いせ)サブローであり、その後ろには、御所の中に入った事にしきりに恐縮している常陸坊(ひたちぼう)カイソンの姿もあった。


「サブロー、カイソン!」


 そして親友の姿を見つけたウシワカも、声を弾ませ二人に駆け寄っていく――


Act-02 ガールズトーク END


NEXT Act-03 皇女アントク


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