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神造のヨシツネ  作者: ワナリ
第3話:シャナオウ現界
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Act-06 千本の刃(サウザンドソード)

 

「と、飛ぶって⁉︎」


 敵機と刃を交えながら、さすがにウシワカも困惑した声を上げる。そもそも、機甲武者には飛行機能という概念が無かったため、それも無理からぬ事であったが、


「いいから飛ぶのよ!」


 というベンケイのさらなる言葉に、もうウシワカは逆らわず、飛ぶ――と腹をくくった。


 するとシャナオウの――その華奢な体に似合わない――背中の大型バックパックが上部にせり上がり、パタパタと可変していくと、それはなんと横長の後退翼を形作った。


 そして「いっけーっ!」と、ウシワカとベンケイが同時に叫ぶと、シャナオウは霊気をブースターの様にバックパック下部に放出させ、短距離離陸機の様に大空に向け舞い上がっていく。


「な、なぜ機甲武者が飛べるんだ⁉︎」


 霊気の光彩を放ちながら、暗闇の空に飛んでいくシャナオウに、シゲヒラはじめ平氏軍からも驚きの声が上がる。もはやシャナオウは機甲武者の常識を超越していた。


 そして、上空二百メートルまで上昇を続け、そこでシャナオウを停止させると、ウシワカとベンケイは、地上に置き去りにした約二十機のガシアルを見下ろす。


 ただ逃げるために、ここまで来た訳ではあるまい――ウシワカがチラリと目で振り返ると、思った通りベンケイは、好戦的な妖しい笑みを口元に浮かべ、


「ウシワカ……あなたに千本の太刀を授けてあげる」


 と、耳元でささやく。

 それは彼女には、まだ『必殺の一手』がある事を意味しており、


八百万(やおよろず)の神々よ。天の(ことわり)、地の霊脈をもって、このヒノモトに数多の(いかずち)を落とす力を……今、与えたまえ!」


 と、詠唱を終えると、その『必殺の一手』が暗闇の大空に現出する。


 それは地上から見上げれば、一瞬、星に見えたかもしれない。だが違う。それは星ではなく光り輝く太刀であった。

 しかもそれは一本ではなく、天を指差すシャナオウを中心に放射状に幾重にも並んでおり、刃を下に向けている。


 ゴジョウ大橋の夜空に浮かぶ、千本の太刀――


 ウシワカという少女の魔導力と、ベンケイというツクモ神の神通力が、シャナオウという神造兵器を介し融合したそれを、


「いっけーっ、サウザンドソード!」


 とベンケイが叫ぶと同時に、ウシワカはシャナオウの腕を振り下ろし、地上に向け一斉に打ち放った。


 天から降ってくる光刃の群れ。

 それに平氏軍は息を呑み、戦闘を見守っていたサブローも、


「ヤバイ、ヤバイ! これはヤバイっすよ!」


 と、いち早く危険を察知すると、離脱のためオフロード車のアクセルを踏み込み、その急加速に振り落とされまいと、カイソンも必死に車体にしがみつく。


 そして平氏のガシアルには、もはや回避も防御も不可能なほどの刃が、次から次へと突き刺さり続け――ベンケイの咆哮から、十秒もたたないうちに、ゴジョウ大橋は戦闘不能になった機甲武者の残骸だらけとなった。

 それはさながら機甲武者の地獄絵図であった。



 シャナオウの登場から、ここに至るまで、まさに完膚なきまでに平氏軍を叩きのめした完全勝利。



 ここまで無我夢中で進んできたウシワカは、ここでまた、


 ――さて、この先どうするか。


 と考えなくてはならないところだったが、そこをベンケイは先回りして、


「ウシワカ、このまま北に飛んで」


 と、少女に考える時間を与えずに、『次の一手』へと駒を進めていく。


 ウシワカとしても、いつまでもここにいる訳にもいかないので、その言葉に従い、浮遊したままのシャナオウを、進路を北に向け飛行させる。


 夜空に浮かぶ、その薄緑色の機体を、平氏軍の中で唯一生き残ったシゲヒラは――憎むべき敵でありながら――憧憬の眼差しで見送り、


「よーし、追うっすよ!」


 と、上手くサウザンドソードをかわし、これまた生き残ったサブローは、同じく生き残ったカイソンを引き連れてオフロード車を北へと走らせる。


 そしてウシワカは、北へ飛行するシャナオウのコクピットから、眼下に見覚えのある荘厳な建築物を見つけると、


「ベンケイ……あれって⁉︎」


「そう、ヘイアン宮よ。あの前に降りて」


 皇帝の御所――そこにシャナオウを降下させる様、ベンケイは指示を出してくる。

 昨夜の逃走劇の繰り返しの様な展開に、ウシワカも何が起こるのかと、さすがに警戒感をにじませるが、


「ウシワカ、大丈夫。心配しないで」


 と、ベンケイはまたその思いを先回りして、優しく語りかける。

 そして、ゆっくりと降下するシャナオウが、ついにヘイアン宮の門前に着陸する。


 機甲武者からの視点だが、昨夜と違い真近に見る皇帝の御所は、高貴なる威圧感ともいうべきか、なにやら異界の門がそこに立っている様な感覚をウシワカは覚えた。


 だがベンケイは、そんなウシワカが微笑ましいのか、その体をいっそう強く抱きしめ、


「いくわよ、ウシワカ」


 と言った瞬間、ギギギギッという大きな音と共に、シャナオウに向かってヘイアン宮の門が開かれた。

 その時、ヘイアン宮の最深部にある御座所では、


 ――時が来たれり。


 と、女帝ゴシラカワが、ウシワカの来訪を感じ取り、もたれかかる玉座で妖しい笑みを浮かべていた。


 そして同時にウシワカも覚悟を決めた。それがなんの覚悟なのか、ウシワカ自身にも分からなかったが、シャナオウは主の意を受け、門の内へと動き出していく。



 こうして、平氏に痛撃を与えた源氏の少女ウシワカは、朝廷のツクモ神ベンケイに(いざな)われ、惑星ヒノモトの未来を担う争乱へと――神造の機甲武者シャナオウと共に――その足を踏み出したのだった。


Act-06 千本の刃 (サウザンドソード) END


NEXT 第4話 殺意と殺意

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