Act-04 ツクモ神ベンケイ【イラスト有り】
「うわーっ!」
ついに被弾したウシワカ機が大きくバランスを崩す。致命傷ではないが、もはやこの機体で逃走を継続する事は不可能であった。
倒れ込むままガシアルを地に伏せさせると、ウシワカはハッチを開きコクピットを飛び出す。
そして阿吽の呼吸で、それを拾いに来たサブローの車に乗り込む前に、
「ありがとう、じっちゃん」
ウシワカはマサキヨの白いガシアルを振り返ると――クラマでの十五年の歳月に別れを告げた。
「サブロー、このまま西に走り続けて!」
「オッケー!」
未来に向けて、再開される逃走。
幸いな事に、ウシワカがロクハラベースの壁を越えた時点で暮色の中にあったキョウトは、今はもう闇が一面を支配し始めており、逃げる側に有利な状況となっている。
だが同時に、平氏のガシアル各機もコクピットのモニターで、オフロード車をはっきりと捉えられるまでに接近しており、攻防は予断を許さない展開となっていた。
「あ、あれは⁉︎」
「どうしたのだ?」
突然、平氏軍のパイロットが驚きの声を上げ、シゲヒラがそれを問い質す。
「あの三人は……昨夜、ロクハラに忍び入った賊です!」
「なんだと……!」
シゲヒラもコクピットのモニターをズームさせ、オフロード車の乗員に目を凝らす。実はシゲヒラも、逃げる敵の正体が気にかかっていたのだ。
源氏のガシアルから降りたパイロットは、遠目には髪を結っている様に見えた。
なら自分と打ち合った機甲武者を操っていたのは、助手席から後方に鋭い視線を投げているポニーテールの少女という事になる。
しかも運転席の栗色の乱れ髪の女も、後部座席のショートカットの女も、皆どう見ても十代半ばの少女であった。
その事実にシゲヒラは驚愕し、同時に自分が女を、しかも少女たちを討ち取らんとしている事に躊躇してしまう。
だが相手は、連日に渡り平氏を翻弄した賊である。
特にあのポニーテールの少女は、旧型のガシアルで自身のフルチューン機を圧倒した使い手である。生かしておけば、今後どう平氏に仇なす強敵になるか分からない。
このわずかの間の葛藤が――シゲヒラとウシワカの、ひいてはこの後の――平氏と源氏の明暗を分ける。
シゲヒラが躊躇している間に、ウシワカは見つけたのである。前方に見えてきたゴジョウ大橋のたもとに、一人の女がいる事を。
長く美しい黒髪。整った顔立ちに強気な瞳。そして胡座をかいた姿勢で、宙に浮かぶ姿。
それは、ウシワカをここまで呼んだツクモ神――ベンケイであった。
彼女にはこうなる事が分かっていたのか。それともこれは運命だったのか。
だが、そんな事はどうでもよかった。来いと言われたから来た。そして彼女は待っていた。ウシワカにとっては、ただそれだけであった。
そして、シゲヒラも我を取り戻し、
「私は平氏棟梁の弟……私は平氏を守る刃なのだ――許せ!」
と、ウシワカたちに向けて必中の一射を放つが、飛び出したベンケイは前方に手をかざすと、盾状の巨大な魔法陣――『魔導シールド』を展開して、その弾丸をいとも簡単に弾き返してしまう。
「また、ツクモ神なのか⁉︎」
シゲヒラが動揺している間に、ウシワカは車を飛び降りるとベンケイのもとに走り込む。
それを片腕で抱きとめたベンケイは、ウシワカを胸に抱えたまま宙に舞い上がった。
幅だけで十メートルはあろうかというゴジョウ大橋。その真上を上昇しながら、ベンケイは語りかける。
「ウシワカ……あなたに平氏を倒す力を授けてあげる」
何を言っているのか、ウシワカにはその意味が理解できなかったが、構わずベンケイは上昇を続ける。
その間も撃ち込まれる平氏軍からの機関砲を魔導シールドで弾きながら、地上から十メートルほどの地点まで来ると、ベンケイは動きを止めた。
そして静寂がゴジョウ大橋を包み込む。ツクモ神が次にどんな行動に出るのかと、対する平氏軍は息を呑む。
そのベンケイは、空いた右腕を天にかざすと、
「八百万の神々よ御照覧あれ。我、このヒノモトにおける太祖の天使ヨシツネが神器、『ヤサカニの勾玉』のツクモ神ベンケイなり。今このウシワカにその大いなる力を授け……天道を正さんと欲す!」
と、何かを召喚する様な詠唱を始め、それを言い終えると同時に、今度はその腕を真下に振り下ろすと――突如、ゴジョウ大橋の中央に巨大な魔法陣が展開される。
唖然とするウシワカ。その反応にベンケイはニヤリとすると、召喚の仕上げとばかりに雄叫びを上げる。
「出ませい――シャナオウ!」
次の瞬間、魔法陣の中から浮かび上がってきたのは、まばゆい光を放つ一体の機甲武者だった。
Act-04 ツクモ神ベンケイ END
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