Act-03 ゴジョウ大橋
そして――時は来た。
「平シゲヒラ、参る!」
そう叫びながら、ウシワカを討つべく突進してくるシゲヒラのガシアルH。
――この大将機の周辺は射撃がやむ!
ウシワカは、瞬間でそう判断すると、シゲヒラ機の後方へ視線を飛ばす。
――西側は壁が低い、これなら突破できる!
反撃と離脱を同時に遂行する道が見えると、ウシワカもガシアルGを、シゲヒラ機に向けて突進させる。
「いさぎよし。ならば、いざ!」
そう言ってシゲヒラは相手の覚悟を称賛するが、当のウシワカには――戦う気などさらさら無かった。
間合いに入ると、残った左腕からセイバーを繰り出してくるシゲヒラ機。
常識ならば、それをウシワカ機もセイバーで受けるべきだが、
「なにい⁉︎」
シゲヒラは驚愕する。なんとウシワカのガシアルは、セイバーではなく――それを持った右腕で斬撃を受けにきたからである。
当然、ウシワカ機の右腕が斬られる。だがその進行速度は落ちず、そのまま白いガシアルは、真っすぐシゲヒラ機に体当たりをかまして、それを吹き飛ばす結果となった。
「馬鹿な! 腕を犠牲にして、これを狙ったのか⁉︎」
地面に倒れたガシアルHのコクピットで、シゲヒラは思わず呻く。
まともに受け太刀をすれば、二の太刀を受けねばならず、それでは離脱はままならない。
ならば、斬撃をかわすのではなく、最小限度に食らう事で離脱を実現した敵機の戦術に、シゲヒラは戦慄と共に、不覚にも感動さえ覚えてしまった。
そのままウシワカは、ガシアルGを西側の壁に走らせる。連戦のため、そろそろ機体にも限界がきているはずであった。
幸いシゲヒラ機が転倒したため、平氏軍にも動揺が走り、一旦射撃がやんでいる今しかチャンスはない。
「じっちゃーん!」
ロクハラベースの西方外壁にたどり着いた瞬間、ウシワカは無意識に、亡きマサキヨに呼びかけながら、ガシアルGを跳躍させる。
低いとはいえ、十メートル近い高さがある外壁。飛行機能のない全長八メートルの機甲武者で飛び越えるのは、実質不可能であった。
だが白いガシアルは、マサキヨの霊が乗り移ったのか、ウシワカの持つ魔導力と身体能力を超えた限界性能を見せ――外壁の五メートル地点に右足をかけ、さらに八メートル地点に左足を伸ばすと、そのまま十メートルの壁を機甲武者で乗り越えてしまう。
「――――!」
呆気にとられる平氏一同。トモモリもシゲヒラも放心状態となったが、こういった場合は単純な思考回路が功を奏すのか、
「なーにをしておる! 追え、追うのだーっ!」
というムネモリの号令一下、我を取り戻した平氏軍はロクハラベースの西門を開いて、次々と追跡のため出撃していった。
――機体右脚部、左脚部ともに駆動部破損。被害状況は深刻。
逃げるウシワカは、ヘルメットのバイザーに表示される、機体のコンディション警告を目で追う。
外壁を飛び越える際の無理な挙動と、その着地でガシアルGの両脚はもはや限界にきていた。
『レンジツーに敵機確認。平氏型ガシアルH。機体数、約三十』
同時に発令されたアラームメッセージに、
「このままじゃ逃げきれないか……どうすれば――」
ウシワカの頭脳は忙しく思案を巡らせる。その時ふと、
「ウシワカ――何かあったら、ゴジョウ大橋にいらっしゃい」
マサキヨの整備場で、別れ際にそう言ってきたツクモ神ベンケイの言葉を思い出す。
そこに何があるのか――という詮索はせずに、ウシワカの直感は瞬時にそれを選択した。
ゴジョウ大橋は、首都キョウトの中心部にある皇帝の御所ヘイアン宮の東を流れる、カモ川にかかる大橋である。
ロクハラからは、ほぼ西に一直線のルートであり、現在位置からも遠くない。
このまま真っすぐ走り続けるだけだが、問題はガシアルの脚がもつかである。
その矢先に機体がガクンと挙動を乱す。
やはりこのままガシアルで走り続けるのは無理か、と思った瞬間、多数の閃光が後方から襲いかかってくる。
「追い付かれたか!」
追撃にきたガシアルHの放った二十ミリ機関砲を確認して、ウシワカは叫ぶ。
まだ距離があるため、狙撃の精度が低いのに救われているが、この速度ではいずれ完璧な射程距離に入るのは目に見えていた。
その時、ウシワカのガシアルの足もとに、一台のオフロード車が走り込んでくる。
「サブロー!」
直感でそう叫んだウシワカの予想通り、その運転席にはマサキヨの整備場からウシワカを追ってきたサブローがいた。後部座席にはカイソンの姿もあった。
機甲武者の速度に置いていかれたという事もあるが、サブローはおそらくウシワカの目的がロクハラ襲撃にあると踏んで、それには必ず逃走の足が必要になると、ロクハラ周辺に潜んでいたのだった。
その読みは見事に当たり、激戦の末に離脱してきたウシワカと、今ここで合流を果たした。
「えい! えい!」
後部座席ではカイソンが、後方に時限式の手投げ弾を放っている。もちろんそれは、盗賊を自称するサブローの商売道具である。
ドーン、ドーン、と時間差で爆発していく手投げ弾。
それに、平氏の追撃部隊は一瞬動揺するが、
「構うな、目くらましだ!」
左腕一本になったガシアルで先頭をゆくシゲヒラは、兵を叱咤すると、巧みな操縦技術で、走りながら正確な機関砲射撃を行った。
Act-03 ゴジョウ大橋 END
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