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初めてのリンダブルグ王宮

「あ、あの、ジルベスター殿下」


セシリアはジルベスターに腰を抱かれたまま早足で歩かされていた。

そもそも背の高いジルベスターと小柄なセシリアとでは歩幅が全然違うので、密着しながら歩くとなると、セシリアがジルベスターに縋り付くようにして歩いている。


「殿下!」


少し強めに呼ぶと、ジルベスターがピタリと止まった。早足で歩いた為、セシリアは少し息が上がり、頬が紅潮している。

ジルベスターはセシリアの顔を見ると、とろりと甘く笑った。その笑顔に、ついセシリアの心臓は大きく跳ねる。


「すみません、少し速過ぎましたね。早く2人になりたくて。」


そして、そのまま客間にセシリアは案内された。


「ここで休憩しましょう。もうしばらくでセシリアの部屋の準備も整うでしょう。」


「ありがとうございます。」


客間には既に茶器が用意されていた。セシリアがソファに座るとすぐ隣にジルベスターも座った。ピタリと隣に張り付いている。


すぐに紅茶が給仕され、部屋の中に2人だけが残された。


「で、殿下…あの、もう少し…離れていただきたく…」


たった数回会っただけでこんなことを言っていいものか、悩んだセシリアの言葉が尻すぼみになったのも仕方ないことだろう。


「私たちはもう正式な婚約者同士なのですから、何もおかしいことはないでしょう?」


そう言われると、清く正しい公爵家の娘として異性とは距離のある生活をし、婚約者がいた経験のないセシリアには反論の言葉がない。そんな彼女を見てジルベスターはセシリアの肩を抱き寄せ、より密着する。


「婚約しているのだから、これくらい当たり前です。」


ますます混乱して赤くなるセシリアに、更に畳みかけた。ダメ押しとばかりに、彼女の額に小さなキスを送る。


「そ、そういうものなのですか…。」


「ええ。」


笑顔で返された。


そういうものなのだろうか…。

確かに自分の両親もいつも並んで座っている。それどころか母は、父の膝の上に座らされていることもある。

自分の両親が普通の貴族の夫婦とはかけ離れていることを知らず、彼女は納得してしまった。


「先程はとても素敵でした。凛として、堂々と振る舞っておられた。」


「光栄です。

あの…婚儀がまだですが、わたくしも正式にこちらに輿入れして参りましたので、口調が…」


「ああ。そうだった。ではあなたも。ジルと、呼んでくれないか?」


「えっ」


突然口調の変わったジルベスターに、一度は治った鼓動がまた早くなる。恥ずかしくて、自分の膝の上で両手を握ったまま目線をジルベスターの膝に下げた。

ジルベスターがセシリアを抱き込むようにして顔を寄せてくる。


「ねぇ、セシリア。呼んで。」


そう耳元で甘く囁かれた。

ドキドキという自分の心臓の音がうるさい。

セシリアは意を決して呼び掛けた。


「じ、ジル様…」


「ジ・ル」


「じ、る…」


「セシリア、真っ赤になって可愛い…」


真っ赤な耳に、ちゅっと小さくキスをされる。

セシリアの顎にジルベスターの指がかかり、上を向かされる。すぐ側にジルベスターの顔があった。そのままジルベスターが近づいてくる。そっとジルベスターが顔を傾けた。




ーコンコンコンー


2人の唇が触れる寸前、ノックの音が響いた。

セシリアが我に返り、ジルベスターと距離を取る。顔が真っ赤だ。


入ってきたイェルクがちらりとセシリアを見て、片方の眉を跳ね上げた。じろりとジルベスターを見るが何も言わず、セシリアの部屋が整ったことを伝えた。


相変わらず腰を抱かれたまま、しかし先程とは違い彼女の歩調に合わせて、ゆったりと歩き、セシリアの部屋の前に立つ。


セシリアが案内された部屋は、とても急拵えとは思えない程に彼女の好みに合っていた。落ち着いた雰囲気の中にさりげなく可愛らしい小物が紛れている。


「セシリア、どうだ?」


「とても素敵です!ありがとうございます。」


ジルベスターと離れ、部屋の中に足を踏み入れる。落ち着いた色合いの家具がとてもいい。


ぐるりと見ていると、入口とは別にもう一つドアがあった。


「ここは?」


「こちらは、主寝室への扉です。いずれ寝室は主寝室をお使いいただくことになります。狭いですが、しばらくこちら側のベッドでお休みください。それまでは鍵を掛けて私が鍵を管理しておきますので。」


イェルクは最後の台詞のみ、ジルベスターに向けて言ったようだ。


「主寝室の向こうはジルベスター殿下の部屋となっております。」


「え?」


思わずセシリアは聞き返した。


「こちらは国王夫妻の部屋でございますので。」


「わたくしはまだ、婚約者ですが…」


「近いうちに即位し結婚するのだからいいだろう?遅いか早いかだ。」


ジルベスターがいつの間にか後ろにいて、セシリアの肩を抱いた。


「申し訳ございません。私どもでは主寝室を閉じるだけで精一杯でございました…」


とても申し訳なさそうにイェルクに言われたが、いくらなんでも婚約者の段階で王妃の間を使うのは、おかしいのではないか。ただ、敢えてここで抵抗するのも気が引けた。


(よ、用意されてしまったものは仕方ない…のかしら??)


「ではそれ以外にツェツィーリア様がお使いになる場所ついては、明日以降にまたご案内いたします。本日はお疲れでしょうから、ごゆっくりお休みください。」


そう言うと、イェルクは渋るジルベスターを引きずるようにして出ていった。

もう一話、18時に更新します。

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